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Fatal Surprisers  作者: 和平
1/3

Phase:0

「マジめんどくせー……」

 思わず出たぼやきが、誰もいない廊下に消えていった。

 国家直属エクソシスト協会〈ヴァーティルゲン〉本部――そのやたら広く人気(ひとけ)のない廊下を歩く軽薄そうな身なりの男――丁寧にセットされた頭髪/くすんだ蒼色の瞳/両耳にピアス=ウィリアム・グラント。

 小脇に抱えた分厚いファイル――ギッシリ詰め込まれた配布資料とその他諸々。

 ファイルの表紙に『〈分隊型要撃戦術検証実験〉#04』の文字=複数の小規模チームで展開する連携戦術の運用効率検証を兼ねた悪魔討伐作戦――そしてその作戦指揮という役職に抜擢(ばってき)されたウィリアム――重い足取り。

 始めは滅多に回ってこない大役に心踊らせ、役員の方々との様々な打ち合わせに参加したり段取りを整えたり精力的に働くも――いざその日が近付いてくるとその責任の重さをひしひしと実感――「失敗したらどう責任をとる?」「人的資源喪失の危険性はどう回避すんだ?」「最悪自分の首飛ぶんじゃね?」と、普段なら考えられないネガティブ思考の渦に巻き込まれ意気消沈。

 できる気がしねーんスけど、真面目な話。

 心の内で「若手のうちに色々と経験しておいた方がためになるぞ」と送り出してくれた先輩エクソシストに今更すぎる文句を文句を垂れ――だがそんなことをしたところで作戦会議がなくなるわけでもないので、仕方なく会議室へ向かうため重たい足を動かす。

 つーかさぁ、チームメンバーとの顔合わせと作戦会議が実行前日ってのもどーなのよ、ホント。

 お(かみ)から渡された現場の人間の都合を考えない過密スケジュールを眺める――思わず出るため息。

 気付けばもう『小会議室』とプレートが貼り付けられた無機質な扉の前に――ここまで来てしまえばもう後戻りするわけにいかず――意を決して握り(こぶし)で扉を軽く叩いた。

「失礼しまーす」

 形式的ノック/自分の緊張を和らげるため、()えて間の抜けた声を掛け入室。

 葬式でもやっているのかと錯覚してしまうほど静かな会議室――既に長机に着席し待機していたウィリアム以外の5人=協会側が指定した人員/あらかじめ渡されていたファイル内の資料で大体のプロフィールは把握済みのメンバー/だがしかし実際にはそのほとんどが本日初対面のメンツ――ウィリアムに視線を注ぐ。

「……あー、もうみんな揃ってる感じっスね。じゃあとっとと始めてとっとと終わらせましょ」

 5人の視線に気圧され/痛いほどの静寂に耐えかね、そそくさと配布資料を回していくウィリアム――務めて普段通りに振る舞う。

「えー、じゃあ今から〈分隊型要撃戦術検証実験〉作戦会議を始めさせていただこうと思います――とその前に。多分初対面のメンバーもいるだろうし、まずは簡単な自己紹介からいきましょっか。はい、じゃあ、えー……そこの君から順番にお願いします」

 メンバーが――というよりは自分が円滑に会議を進行できるようコミュニケーションの基本たる自己紹介=アイスブレイクを実行。

 ウィリアムから指名を受けた少女が椅子から立ち上がり、会釈した。

「シンシア・アーヴァインです。本作戦では恐らく後方支援を担当させていただくことになるかと思います」

 美しい銀髪×三つ編み/紫と金が混在する双眸(そうぼう)/冷たく冴えやかな美貌――作戦メンバーの紅一点――硝子(ガラス)でできたの女神像の()で立ち。

 事務的に挨拶を済ませ、洗練された挙動で再び座るシンシア――今度はその隣、ウィリアムよりも幾分(いくぶん)か若そうな男性が腰を上げる。

「ブラン・インクトゥエルです。主に魔法を扱います。他には……特に話すことはありません」

 清潔感溢れる短髪/刃物のように鋭い碧眼(へきがん)×眼鏡(めがね)/両耳から垂れる翡翠(ひすい)のピアス――挨拶を早々に切り上げ着席――まさに生真面目な一匹狼の風情(ふぜい)

 容易には近寄り難そうな雰囲気を崩さぬままのブラン――次に華奢な青年が立ち上がり、ふわりと柔らかく微笑んだ。

「僕は綺利(キリ)。皆さん、どうぞよろしく」

 透き通るように白い肌+髪×ハーフアップ/両目の(あか)虹彩(こうさい)/優男風の整った顔立ち――高身長揃いの男性メンバーにおいて比較的小柄――穏やかなアルビノウサギの容貌(ようぼう)

 この子はまだ比較的絡みやすそう――と勝手な所感を抱いたところで次のメンバーが起立。

「俺はルビスコ・カルヴィン。まぁ、ちょっと変わった()()だけど仲良くしてやってくれよな」

 アップ×ブライドで結われた銀髪/黄の混じる(あか)い目/首から下げられたロザリオ――この辺りでは珍しい黒人系(ムラート)――子供っぽいハヌマンラングールとでも形容すべき風貌(ふうぼう)

 ルビスコの立ち振る舞いに親近感にも似た何かを感じたところで最後のメンバーの挨拶に――立ち上がる黒尽くめの大男=恐らくメンバーの中では最年長者。

「バルダー・フリートハイム。養成学校で非常勤教師をしている。以上だ」

 黒髪/髭をたくわえた精悍(せいかん)な顔つき/|メンバーの中でも一際(ひときわ)大柄な体躯(たいく)――端的だがよく通る挨拶――さながら百戦錬磨の老熊(ろうゆう)の如き威風(いふう)

 ウィリアム以外のメンバーの自己紹介が終了=残すは彼のみ――真面目にいくべきか/普段通りでいくか――わずかに逡巡し、ノれるものもないが敢えてノリ重視=いつもの調子でいくことに。

「えーと……オレが、一応この作戦の指揮官になりました、ウィリアム・グラントっス。よろしくお願いしまーす」

 目立った反応を示す者――なし。

 アイスブレイクの効果――実感できず。

 もーなんなんだよこの空気やめてくれよ――と思わず喉を飛び出そうになった愚痴に蓋/なんとか笑顔を維持――笑顔を作るのにここまで苦労したことが未だかつてあっただろうか。

「……と、まあ、お互いのことも少しは知れたことだし? メインの作戦会議に入っていきましょー!」

 誰からともなく無言で展開される同調圧力的静寂に呑まれまいと、全力で“普段通り”を貫く/半ば強引に流れを作る/空回りなど気にせず会議を敢行――もはや自棄(やけ)の領域。

 そこからはほぼウィリアムひとりで作戦の概要を喋り通し――誰かの理解が追いついていないようであれば徹底的に噛み砕いて説明し/重箱の隅をつつくような質問には過剰なまでの詳細さで、かつ意地でも笑顔を崩さず答え/「コイツが指揮官で本当に大丈夫か」と言わんばかりに刺さる眼差(まなざ)しを跳ね返さんと奮闘(ふんとう)

 かくして――メンバーの所感はどうであれ、どうにかこうにか打ち合わせを終えることができたウィリアムであったが――この作戦が(のち)に途方もない混沌と苦難の様相を呈するものになろうとは、このときには露ほども想像していなかった。

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