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初期練習作(短編)

私はどうしたら良いのかわからない

拝啓


 この春、初めて御社を訪問いたしました。

社会に出る経験が皆無でしたので、

非常に緊張したのを覚えております。

当時はまだ会社勤めの為の常識的作法も

身についていませんでしたし、

御社の環境にも慣れておりませんでした。

朝、皆さまが出勤なさる前に、入念に支度をして、

非常に時間をかけながら髪を立たせ、

始業時刻まで待ちきれず、

直前に少し腹ごなしをしてみたりなど、

無駄な緊張を緩和させたことを、

今でも覚えております。


 以前申しました通り、

わたくしは営業職を希望いたしておりました。

生まれてからずっと、他者への恩義を感じ、

人に囲まれた仕事をしたいと願っておりました。

しかし、御社の内定の後、

開発部に配属されてしまいまして、

非常に意気消沈させていただきました。

おそらく配置換え等もあるのでしょうが、

わたくしには納得がいきませんでした。

なぜなら、あの頃のわたくしには、

新薬の開発という業務への興味が、

全く涌かなかったからでございます。

組織の一員なのにどういうことか、と

理解不能な方もおられましょう。

しかしわたくしは間違っていないのです。

全財産が没収され、

路頭に迷ったとしても、

組織に身を委ねることはないでしょう。

いつかわたくしを解雇なさったり、

本当にわたくしがいなくなったりという時は、

ぜひ思い出していただきたいのです。

この国は、管理主義が徹底されすぎているように感じます。

実際問題としてそうなのです。


 わたくしには、常に居場所が無いのです。

国は経営であり、社会はそのまた経営であり、

個人もまた経営者であるべき場所なのです。

自己管理に従い、収支の内容が良く、

社会的にも良き人材であることが求められて、

本来の性格が置き去りにされているように感じております。

わたくしには、もう子どものような

自由奔放さはございません。

ただ人に合わせて生きるだけです。

それが全てにとっての呪縛であることに

いつからか気づいておりました。

もう終わりにしたいのです。

本当の貴方は何処へ行ってしまったのでしょう。

管理され、自己表現を阻まれた存在に、

果たして未来はあるのでしょうか。

そして、そのような組織自体にもまた、

どれだけの可能性が残されているのでしょうか。

公共の場において、子どもたちが抗議できる

空間は、残り少ないでしょう。

いつからか、御社のわたくしへの考えが変わり、

実験動物にも存在価値を認めることを、

ここに祈願いたします。


敬具


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