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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
1章 孤児院の子どもたち
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朱い子供 (知枝視点)

 眩暈がする。


 私は、ずきずきと痛む後頭部に触れた。

 ぐちゃりという嫌な感触と共に、指には朱い血が付く。

 眩暈の原因はこれかと納得するが、走る速度は緩めない。


 もっと速く、動け!

 スピードをあげて二見先生のいる保健室を目指す。

 この時間はそこにいるはずだ。

 居なかったらぶち殺してやる。


 数分前、シャワー室から帰ると部屋は荒らされ、綾人がいなかった。

 一抹の不安を覚えて仮面室へ向かったら、案の定、

 いや、思っていた以上に酷い有様だった。


 私はどこで間違えたんだろう……。

 少なくとも楽観的過ぎたのだ。

 もっと慎重に事を為していくべきだった。


 何を? 何をどうすれば防げた?

 そんな事知るもんか!

 あああああああ、くだらないことは考えるな。

 今は1秒だって早く……。


 さらにスピードをあげようとして、

 私は派手にすっころんだ。

 脳が揺れる。

 意識が、割れる。



 ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。


 耳をつんざくような警報の音で、薄れていた意識を取り戻した。

 なにをやっているんだ、私は……。

 急いで立ち上がって目的地へと走る。


 さっきの警報はなんだったんだろう?


 頭の片隅で、嫌な予感がすると理性が騒ぐ。

 うるさい、もう何も考えるな。

 私はさっさと、綾人を助けられる人間を連れて行けばいいんだ。


 降りてくる防災シャッターをぶち破りながら進むと、

 ちょうど保健室から二見先生が出てきたところだった。

 手には救急箱を抱えている。


 私の必死の形相で何かを察したのだろうか、

 私を視界に認めると二見先生は口を開いた。

「さっきの音は何だ? 知枝、何か知っているのか?」


 途端、悪寒が走る。


 仮面室の光景が思い出された。

 私が入った時に部屋には3人の大人がいた。

 出る時も人数に変わりはない。


 でも。

 顔ぶれが1人分入れ替わってたじゃないか。

 最初に居たあの男の教師はどこに行ったんだ?


「早く来て、綾人が!」

 私は有無を言わさず二見先生の腕を掴んで、元来た廊下を走り出した。


//



 胸騒ぎがした。

 血の臭いが色濃く漂っていたから。


 仮面室に戻ると、人間が倒れていた。

 4人の大人だ。

 最初に見た3人と、院長が血を流しながら地に臥している。


 それだけじゃない。

 廊下にも、人がたくさん倒れている。

 人を目線で辿っていったら、2つ隣の職員室で視線が止まった。


 ああ、私は馬鹿になってしまったんだろうか。

 そんなゆっくり視線を動かさなくたって。

 あの部屋から漏れてくる音を聞けば、

 何が起こっているか想像がつきそうなものなのに……。


 音が止んだ。


 ぴちゃ、ぴちゃ。

 ナニカが動き始めた。


 職員室の奥の扉があいて、血まみれの男の子が廊下に出てくる。

 血まみれ?

 あれを血まみれと呼ぶのは間違ってはいないが、適切ではない。


 だって、全身が真っ赤じゃないか。

 まみれているなんて生易しい表現では足りない。


 黒くて綺麗だった髪の毛が、今では真っ赤に染まっている。


 アレが自分の体内から流れた血であれば、

 生きて動けているわけがない。

 つまり、ほとんどが返り血なのだろう。


 ナンニンブンノ?


「あや、と?」

 何もおかしな事はないと、気丈に投げかけたはずの声は怯えていた。


 ナンデ?


 朱い男の子がこちらに振り向く。


 その顔は今まで見たことがないくらい、

 とてもとても嬉しそうで、

 この場には不釣り合いなくらい純粋な微笑みだった。


 きっと何かの間違いだろう。

 一歩踏み出す。


「馬鹿なのか、お前は!」

 強い力で引き戻される。

 二見先生は、怖いくらい真剣な瞳で男の子を睨んでいた。


「説明は省くが、アレの今着けている仮面は

 お前の総量に匹敵するパトスを蓄えている。

 それが暴走しているんだ。

 言っている意味は分かるな?」


 男の子は足を怪我しているのか、歩みは遅い。


 いや、赤く染まっていてよく分からないが、

 全身が傷だらけなのかもしれない。

 歩くのもしんどいのか、壁に手をかけて体重を支えていた。


 それでも、

 ゆっくりとこちらに近寄ってくる。


「そんなの……有り得るわけない!

 綾人は、ついこないだまで何も使えなかった。

 私の総量に匹敵するなんて、そんな訳が!」


「有り得るんだよ!

 お前の場合は、打消し打足した。

 長年かけて少しずつ増やしただけだ。

 アレはたった1つを突き抜けさせた。

 おまけに外に出しにくい感情を、な。

 お前に比べれば与えた数は少ないが、

 1つ1つをずっと溜め込んできたんだ。

 何年間もな!」


 何を、何を言っているのか理解できない。

 ……けれど、2つだけ分かった事がある。


 目の前の男の子は絶望的なまでに強く、

 そして、

 何をしたがっているのかを。


「しかし、笑っているなんておかしい。

 本来あれは、静かに怒るものだ。

 変えられない現実と、変わらない自分に……。

 暴走なんて生易しいもんじゃないかもしれない。

 仮面に浸食されている可能性がある」


 走るぞ、と私にだけ聞こえるように呟いて、

 二見先生は私の手を掴んで引っ張った。


 もう片方の手で、パトスを練り上げ、

 前方の男の子に対して槍のようにそれを投げつける。

 満身創痍のはずの男の子は素早い動きでそれを叩き落とした。


 二見先生は強い力で私を連れ立っていく。

 もはや何も考えられない私は、手を引かれるままに走った。


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