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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
1章 孤児院の子どもたち
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仮面室での恐怖

「暴走しねーんじゃなかったのか、人間相手にはよぉ。

 これは二見先生の責任問題だよ」


「そんなのは後でいいだろ。

 俺たちの7年間が無駄になるところだった。

 さっさと止めに入ってりゃ良かったんだよ。

 何が、『なるべく放任して経過を観察する』だ。

 くそが」


 2人の男は僕を何度も殴りつけて、女は1人でノッポを連れて行った。

 反射的にパトスを反応させようと思ったが、

 教師にばれてはまずいと、中断する。


 結果、肋骨と足首がいかれた。

 僕は自力で立ち上がれなくなった。

 2人がかりで腕を持ち上げて引きずられながら部屋から出される。


 どうなるんだ?

 どこへ連れて行かれるんだ?


 疑問が浮かぶが、僕は自分でも答えが分かっていた。

 仮面室の前まで来て、僕は何もかもを放り出して逃げたくなった。

 でも、痛めつけられた足は僕の言うことを聞いてくれない。


「あ、あの、あいつがいきなり暴れて僕を襲ってきて、

 無我夢中で突き飛ばしただけなんです。

 でも、打ちどころが悪かったみたいで。

 僕は何も……」


「んなわけねーだろ。

 全部分かってんだよ!

 お前が仮面を切り替えられるようになったことも、

 毎日隠れて訓練なんざしてることもなぁ」


 ……今、こいつは何て言ったんだ?

 茫然と教師を見る。


「餓鬼は馬鹿で助かる。

 カメラがなきゃ監視されてないとでも?

 お前らの部屋にはな、盗聴器がしかけてあんだよ。

 そういう場所をわざと作れば、そこで悪さをするからな」


「おい、喋り過ぎだ!」

「かんけーねーよ。

 こいつを洗脳し直すのも、もう無理だ。

 餓鬼とはいえ、言えば信じる歳でもねぇ。

 これからは隔離して、そこで実験を続けるしかない」


 教師たちが何を言っているのか半分も理解できない。

 けれど、これだけは分かった――全部ばれているんだ……。

 さーっと血の気が引いていき、思考が真っ白に塗りつぶされていく。


「実験体が犠牲だしたなんてシャレになんねーぞ。

 どうする?」


「まず仮面を奪う。

 皮肉だが、こいつは部屋の中でしかパトスを使ってねぇ。

 盗聴記録をどうにかしちまえば後の事はどうとでもなる。

 日和見なヤツが来る前に済ませちまおう。

 納得はしなくても首を横には振れなくなるだろう」


 仮面は奪う?

 僕の?


 今までずっと出来ないと思っていて、やっとできて。

 知枝を守るのに、

 ……一緒にいるのに必要なのに?


 いや、そもそも『これからは隔離する』って……。

 隔離? そんなのは困る。

 隔離って、つまり、……もう知枝に会えないってことだよな?


 どうする。

 どうすればいい。

 恐怖は駄目だ。

 使い過ぎた。

 怒りか?

 どっちでもいい。

 なんでもいい。

 何か感情を……。


 右手を額に当てようとして、引きはがされ、頬を殴られる。


「妙な真似はするな。

 まぁ、どうせ何もできねーだろうけどな。

 お前に与えた仮面の数は尋常じゃない。

 蓄えた感情もな。

 お前は子供、俺たちは大人だ。

 俺たち上位の人間に逆らえるわけがない。

 ただ、面倒なのはもうごめんだ。

 大人しくしてろ」


 中央にある寝台に寝かさた。

 手足と胴体と首を拘束具でがっちりと固定される。

 力を込めるが、鎖はがっちりと固定されていて動いてくれない。


「おい、暴れんなって言ってんだよ。

 後5年は我慢してもらわねーと俺ら全員が困るんだ」


 頭を押さえつけられた。

 もう僕に動かせるのは眼球しかない。

 視界を教師の指が覆いかぶさるように近づいてくる。


 いやだ。

 いやだ。

 いやだ。

 いや、だ。



 僕は知らぬ間に恐怖の表情を浮かべていたらしい。

 余りの激痛で失神する最中、

 教師がそう言っているのが耳の片隅に聞こえた。


 ……気づくと、仮面室には3人の人間がいた。

 先ほどノッポを連れて行った女が合流したようだ。

 何事かを真剣な表情で話し合っている。


「さっきの生徒は、保険室で二見に預けてきたわ。

 すぐにはこっちに来られないと思う。

 反対してるのは、あいつだけだったから何とかなるわよ。

 院長先生に声かけて来たから、後で、」


 大きな破砕音が鳴り、女の声が遮られる。


 音の方に視線をやると、ひしゃげた扉と女の子の姿が見えた。

 知枝だ。


 寝台に磔にされている僕を見ると、

 知枝は浮かべている表情をより一層強めた。


 今まで見たことが無いくらい怒っている。

 異常なほどの大きな感情の波が彼女を包んでいた。


「私は綾人を学園のパートナーに選びます。

 綾人を離してください。

 私が我儘を言えば、パートナーは指定できるはずですよね?

 前例があるのは知っています」


 大人たちは息を呑んでいる。

 知枝の言う事が正しかろうとそうでなかろうと、

 激昂した知枝を止める術を教師たちは持っていないだろう。


 彼女を作ったのは、ここの大人たちだ。

 そして、僕はそんな彼女をずっと見てきた。

 止められる人間なんて、いるわけがない。


「それは出来ない」

 それでも、

 説得くらいはできるかもしれないと思ったのか、男は声を発した。


「なぜですか?」


「簡潔に言えば、君より彼の方がこの孤児院にとっては重要だからだ。

 彼は実験に選ばれた特別な子だ。

 もう7年間も実験を続けている。

 ……今更やり直しは利かない」


 そんなの――私たちには関係ない。

 身体から絞りだすかのように、知枝は唸った。


「私はここを全部壊して出ていくのでも良いと思っているんです。

 ずっと今まで我慢してきたんだから、

 我儘くらい聞いてもらえませんか?」


「何を馬鹿な事を言ってるんだ。

 そんな事をしたって行き場なんてあるわけないだろう。

 そのくらい分かるはずだ!」


「でも、少なくとも綾人と、」

 言葉が途切れた。


 ……知枝がその場に倒れて、後頭部から血が流れだす。

 その背を踏みながら、知枝を殴りつけた男――院長が入ってくる。

 手には金属バットをぶら下げていた。


「君の我儘に付き合っている暇はないんだ。

 君は金づるだ。

 変わりなんていくらでも利く」


「院長先生……よかった。

 ほとほと困っていたところです。

 でも、これからどうしますか?

 彼女、起きたらまた暴れるでしょうし」


「彼女はもう学園に送ってしまおう。

 後3年なんて必要ない。

 まったく……。

 少しは二見先生の言う事に耳を傾けるべきだったかな?

 確かに過剰にやり過ぎたようだ。

 制御の難しい傀儡なんて意味がなかったよ」


 院長は、屈んで知枝の傷を確認した。


「このくらいなら化け物は死にやしないだろう。

 ふん。

 死んじまったとしても、

 こいつから得た貴重なデータはいくらでもある。

 二見に責任を押し付けて、手打ちにしてもらおう」


 知枝の後頭部からどくどくと血が流れていく。

 それはどう控えめに見ても、

 さっさと治療しなければならない類の怪我じゃないのか?

 僕に、どうにか、できない、だろうか。


 五体も拘束具で固定されている。

 大人は4人、子供は2人。

 こっちは、どちらも死に体で動けやしない。

 仮面(きょうふ)を奪われ、感情は沸き起こらない。


 唯一、働く思考は何か考えようとする度に、頭の中で声を被せてくる。

「逆らうな」、と。

 声はずっと囁いていて、

 小さな子供たちが何度も何度も殴られる映像を見せつけてくる。


 独房にいれられ、食事は無く、水も止められ、眠りを妨害される。


 不安、焦燥、恐怖、怒り、無念、嫌悪、軽蔑、

 嫉妬、罪悪感、妬み、苦しみ、悲しさ、切なさ、絶望、憎悪、空虚。

 そして、諦念。


 あらゆる感情が混ざりあって、全てが僕に諦めろと説得してくる。

 子供は大人に逆らったら、生きてはいけない……。


 院長は1人の男を顎で指して、知枝を連れていけと命令した。

 男は知枝の腕に肩を回して、引きずるようにして彼女を連れて行く。

 どこか、遠くへ。


 その光景が……夢で見た映像と繋がって。

 ――それは、夢でもなんでもなくて現実で。


 逆らったら生きられないとして。

 生きたとして、それにどれ程の価値があるっていうんだ?

 僕の中で、何かが弾けた。


 腕を持ち上げる。

 抑えていた拘束具があっさりと外れる。

 首の拘束具を引きちぎる。

 足のモノも少し力を入れると、簡単に取れる。

 羽交い絞めにしようとしてきた男を殴る。

 呆然と立ち尽くす女を殴り、何事かを喚く院長を蹴る。

 知枝を掴んでいた男は、悲鳴を上げると知枝を捨てて逃げだす。

 起き上った院長を突き飛ばして壁まで吹っ飛ばす。

 女は動く気配がないから無視する。

 男の襟を掴んで持ち上げてみる。

 呻いたので殴る。


 それだけで、

 ……たったそれだけの事で、声を発するものはいなくなった。


 物心ついた時から渦巻いていた感情を

 あざ笑うかのように、いとも簡単に事を為せた。

 嗤ってしまうくらい脆い。


 なんだ、本当はこんなに簡単に……。


 知枝が呻いた。

 近くに屈んで必死になって名前を呼ぶ。


 知枝がよろよろと、こちらを見た。

 よかった、まだ治る見込みはありそうだ。

 そうだ、二見先生を連れて来よう。


 立ち上がろうとして、鋭い音が室内に響く。

 僕は前のめりになって倒れた。

 手をついて、なんとか知枝を下敷きにせずに済む。

 知枝が悲鳴をあげた。


 太ももが熱い。

 足を庇いながら音の方へ振り返る。


 院長が拳銃を構えており、銃口から硝煙が立ち昇っていた。

 銃声はなおも続く。


「馬鹿が! 大人に逆らう     るんだ。

 仮面の研究には       ばいい。

 ちくしょう、ふざけやがって     なよ。

 この程度      ないぞ。

 死      殺してやる」


 知枝は身体を起こし、泣きじゃくりながら僕の身体をゆする。

 院長は面白そうに知枝の頭に銃口を向ける。


「ここまで来たら学園への言い訳など必要ない。

 お前は死ね」

 院長は一呼吸おいて冷静に狙いを定めて撃った。


 僕は、知枝を突き飛ばして狙いから外す。

 左腕に新しい弾痕が刻まれた。


 起き上った知枝は、素早く院長に近寄る。

 院長がトリガーを引く方が早い!

 銃はガチンッと音を鳴らす。


 ……しかし、弾は放たれない。

 院長は回し蹴りを喰らって、倒れた。

 見開いた目は視点があっておらず、起き上る気配はない。


「綾人、大丈夫? ああ、こんなに……。

 無理に動かさない方がいいよね。

 すぐ二見先生を呼んでくるから!」

 言って、知枝は駆けだした。


 ……でも、駆けだしたところで、

 何がどうなるっていうんだろうか?


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