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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
4章 デッドエンド
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デッドエンド

 僕は左腕を前に差し出した。

 怪訝な顔をしながらも、千影はソレにワイヤーを巻き付ける。


「なんだ、抵抗しないのか。

 もう、諦めたか」

「うん、もういいんだ」


 伸ばしたワイヤーを手繰り寄せようと、

 千影は緩慢な動きでワイヤーを掴み直す。


「千影、最初に言ってたよね。

 『あの時とはカタチが違う』って。

 覚えてたの?

 でも、僕が何をしようとしてるのか分からないみたいだね。

 もしかして、忘れてしまいたかったのかな?」


「は?」

 僕はワイヤーの絡み付いた左腕に触れる。


 僕は、その義手を外した。


 接合部が外れ、自由落下する左腕を模した無機質なレプリカ。

 パトスを込めてやらなければ、1mmだって動かせやしない人工物。


 もう、余力の無い僕には不要の代物だった。


 千影の瞳孔が見開かれ、落下する義手を眼で追っている。


 それがなんであるか気づいて、

 ――僕の左肘から先に何も存在しないのを確認した。


 千影の表情が見る見るうちに恐怖に染まっていく。

 今すぐにでも泣きだしそうですらあった。


 残った右手で義手に巻きついていたワイヤーを掴んで、

 思いきり手繰り寄せる。


「な、何やってんだ! 自殺行為だろ!」


 藍が叫んだ。

 黙って逃げればいいのに、

 声を出して存在を示すなんて、そっちこそ自殺行為だ。

 なんだか、おかしかった。


 千影はショックから回復していないように見えたが、

 身体が無意識に反応したのだろう。

 片足を出して踏みとどまり、

 僕の右手と繋がっているワイヤーを消した。


「無駄だって! あの時、一度見せただろ!」

 右手でポケットから心の宝石を取り出して砕く。

 それを左肘の切断面にあてがうと、そこが緑色に光り輝いた。


 上半身をひねって、左腕を千影の方へと向ける。

 左肘から先の無形の腕がぎゅるぎゅると音を立てながら、

 まるで水が内側から湧き上がるようにして伸びあがっていく。


 その不透明に輝くパトスが千影の首を覆った。


「戻れ」


 声に出して念じると、首を掴んだ無形の腕は、

 千影の身体ごと引き連れて一瞬で縮んだ。


 額が付きそうなほど近づいた千影を生身の右腕で抱きしめる。

 次いで、

 左腕として機能させたパトスを2人の全身を包む殻のように変形させる。


 抱擁。


 小さい時、いつも慰めてもらった。

 抱きしめてもらった。


 だから、最後くらいは、抱きしめてあげたかった。


 頑張ったね、って。

 つらかったね、って。

 大丈夫いつも一緒だよ、って。


「あ、ああああああああああああああああああああ。

 やめろ、離れろ!」


 腕の中で千影が暴れる。


 しかし、僕たちを包んだ殻はそう簡単には壊れない。

 小さい頃、何度も叩いたのに全然割れてくれやしなかったから。


「ごめんね、知枝。

 ずっと一緒にいてくれて、ありがとう。

 ……一緒に死のう」


 目を瞑り、知枝を抱いたまま後方へと跳んだ。


 真後ろ壁面は崩れている。千影が殴って破壊した場所だった。


 僕たちは空中へと投げ出され、

 一瞬の浮遊感の後、

 重力に手繰り寄せられて落下する。


 抱き寄せている知枝の温もりだけに意識を集中させる。


 ごめん、知枝。

 僕は君を守れなかった。

 僕を守らせてあげることも、できなかった。


 もし、僕の命を使って千影をどうにか静められたとして、

 知枝は哀しむだろう。

 それを自分の手で為したと分かれば、

 どうしようも無いくらい苦しめることになるだろう。


 知枝は、僕の左腕を奪っただけで、感情が壊れてしまった。

 僕が死んでしまったら、知枝がどうなるか想像もつかない。


 だからせめて、

 自己満足でしかないけれど、

 最後は一緒に、2人とも苦しまないように……。


 長く感じられた抱擁の末、僕たちを鋭い衝撃が襲った。



 デッドエンド。

 僕たちは死んだ。


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