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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
4章 デッドエンド
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チーム壊滅

 千影は僕ら3人が集まっているのにも関わらず、無造作に突っ込んでくる。

 彼にとっては、何人いようが脅威にならないのだろう。


 一歩下がって千影を待ち構える。

 右ストレートが飛んできたのを見て、

 両腕で練り上げた障壁をそれに合わせた。

 重い衝撃を感じながらも、やはり障壁は壊れない。


 が、空いた手で障壁の縁を掴まれた。

 壁ごと持ち上げられ、地面に叩き付けられる。

 身体をこすりつけながら、地面を転がり廻った。


 肩をしたたかに打ち、脳が揺れる。

 眩暈を起こす視線の先に、

 千影の勢いをつけた蹴りが襲いかかってくる。


 片腕を振り上げて障壁を練り上げる……が、

 無様な状態で作り上げたこれがどれほど役に立つだろうか。


 僕の中で、死が現実味をもって這い上がってくる。


 眼前に迫った死が僕の障壁を噛み砕いた。

 無駄だと知りながらも、もう片方の手で顔を覆う。


 ……訪れたのは死ではなく、驚きの声だった。


「なんだこれは」


 僕の両腕をぶち破り頭部を破壊するはずだった千影の脚は、

 中空で縫いとめられていた。


 その線を目で追った先には、両腕を掲げた二見先生の姿が見える。

 二見先生が放った2本のワイヤーが、千影の動きを止めていた。


 自分と同じ能力を使われて、千影は戸惑っているようだった。

 その思考から回復するより早く、

 僕は千影の体重を支えているもう一方の脚に飛びつく。


 千影は舌打ちをしながらこちらに振り向くが、もう遅い。


 痛む身体に鞭を打ちながら、両腕を使って力いっぱいに引き寄せる。

 支えを失った千影は、背中から地面に倒れ込んだ。

 僕は、足を持ったまま身体を一回転させ、

 勢いをつけて千影を再度地面に叩き付ける。


 そこに真が強襲をかけて、左手に掲げた鉄槌を振り下ろした。

 しかし、知枝はそれを片腕で障壁を作って易々と防ぐ。

 千影は笑みを浮かべた。


 それを受けて、真も怒りをにじませた表情の中に笑みを浮かべる。

 腰のベルトに括り付けた伸縮棒を右手で手繰り寄せ、

 2つ目の鉄槌を叩き込む。


「無駄だ」

 これも片手で受け止めた千影が吠える。


 真の笑みはより一層深くなり、両腕に携えた武器を手放した。

 左手で伸縮棒を取り寄せ、右手で心から受け取った宝石を握り砕く。


 赤い宝石から漏れ出た光が伸縮棒を伝った先、

 パトスで具現化した戦斧に吸い込まれて、斧の先端が光り輝いた。


 千影の余裕そうな表情が、一瞬で真剣なものに変わる。


 真は、両腕で持ち直した怒りの鉄槌を千影へと振り下ろす。

 千影はこれを両腕で障壁を練り上げて迎え撃つ。


 真と心を足した能力は、千影という化け物を上回ったらしい。


 強烈な破砕音を鳴り響かせながら、

 千影の掲げた腕ごと腹部を重撃ですりつぶす。

 千影が背にしている床は耐え切れず、粉塵を巻き上げながら陥没した。


 事を為した真はその場から飛びのき、藍と交代する。


「お前はもう終わりだ」


 藍が持つ灰色に光り輝く刀身のナイフは、

 何の障害も無く千影の胸を刺し貫く。


 刹那。

 

 莫大なパトスとパトスの奔流がまばゆい光と爆風を産み、

 僕ら3人はその場から吹き飛ばされた。


 受け身も取れずに無様に床を転がっていく。


「お兄ちゃん! 大丈夫?

 どこか痛いところはある?」


 倒れ込んでいる僕の傍らに心が近づいてきた。

 ポーチから出した宝石を砕いて、僕の身体をやたらめったらにさする。

 全身を覆っていた痛みが少しだけ引いていった。


「これ、新しい宝石」

 と、差し出された緑色のそれを心から受け取る。


「藍! どうなったんだ、刺せたのか!」

 傍らの藍に向かって叫ぶ。


「ああ! 確かにぶっ刺してやった。

 出来る限りパトスを込めてな!」


 返ってきた藍の言葉は、憎しみを使い果たしたのか、

 いつもの不愛想ではなく、どこか楽しげな音色を含んでいた。


「ボクらだって、千影をやれるんじゃないか!

 みんなで頑張って何とかなった!」


 沸き起こる達成感を表現するかのように叫ぶ真。

 自信を回復した真を見て、傍らの心も顔を綻ばせて笑みをこぼす。


 視線をやると、プレハブの上に腰を掛けていた水城は、

 目を見開いて呆然とした顔で佇んでいた。


 目の前で起きていることを認めたくないとでも言うように、

 ただ一点を凝視している。


 すぐ傍で足音が聞こえたので振り返ると、

 二見先生が倒れたままの僕に向かって手を差し伸べていた。


「よくやった。

 一時はどうなるかと思ったが、見事な、」


 二見先生の声が途切れた。


 言葉の端を残しながら、

 首に巻きつけられたワイヤーに引っ張られて、

 屋上の中央に引き寄せられる。


 その軌跡を目で追い切った頃には、

 二見先生は千影の足元で倒れていた。


「僕に……何をした……。

 なんで、こんなにも力が減っているんだ!」


 力強い言葉と共に再度ワイヤーを飛ばす。


 その先に立っている真は、

 倒れた二見先生を放心したように見つめていた。


 何が起こったのか分からず、

 襲いかかるワイヤーを頭で認識できていないらしい。


「何やってんだ、馬鹿が! 死にてぇのか……」


 藍は真の身体に体当たりをして、

 ワイヤーの軌道線上から真を逸らした。

 都合、ワイヤーは藍を束縛して千影の元に吸い寄せられる。


 藍は空中で防御障壁を練り上げたが、

 藍の障壁では千影の攻撃を防ぎきれない。

 胸部をしたたかに殴りつけられて、吐きだした血と共に地に臥した。


 その光景を見て、やっと事態に気付いた真は、

 怒声をあげながら千影に駆け寄った。


「真! やめろ!」


 声が届く猶予など無かっただろう。

 理性を失った真は、すぐに千影に昏倒させられる。


 あっさりと。


 実にあっさりと僕らのチームは壊滅まで追い込まれてしまった。


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