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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
4章 デッドエンド
32/37

才能の差分

 光に慣れた千影が僕へ視点を合わせてくる。

 眉根をぴくりと動かしたのが見えた。


「お前は……あの時の……」

 7年前とはいえ、あの頃の面影くらいはあったのだろう。

 これで、最初のターゲットは僕に決まってくれた。


「やぁ、千影。

 1週間ぶりだね。

 それとも、君にとっては7年ぶりなのかな」


「っ……。その声……。

 綾人は、……お前だったのか。あの時とはカタチが違うな。

 やはり殺し損なっていたか。僕をずっと騙していたんだな……」


「知枝を返してくれ」


「彼女はお前を恐れている。

 お前を殺す事が、僕の存在意義だ。

 ……友達ごっこはもうおしまいだな」


 千影の腕が動く、その直線上を飛来する点を避けると、

 耳のすぐ横を鋭く伸びていく

 パトスで作り上げたのワイヤーが通り過ぎていった。


 千影は意に介さず、飛び上がりながら殴りつけてくる。

 それを片手で作り上げた障壁でガードする。


 一瞬の停滞。


 しかし、力に耐えきれず障壁は脆く崩れ去る。

 そのくらいは、やってのけるだろうと覚悟はしていた。


 攻撃の停滞を利用して、

 前傾姿勢で千影の下をくぐるように前へ飛び込む。

 ちょうど背中のすぐ後ろに鋭い風圧がよぎった。


 そのまま前に駆け出しながら肩越しに背後を見ると、

 地に降り立った千影がこちらに飛びかかろうとしている。

 向きなおりながら、覚悟を決めて、

 両手で先ほどの間に合わせとは質の違う防御障壁を練り上げた。


 重い衝撃がすぐに訪れる。


 僕にとっての力いっぱいの障壁、それは功を為した。

 パトスをじりじりと消費しながらも千影の力任せの剛腕を防ぐ。


 1回、2回、3回。


 勢いをつけて放たれる右ストレート。

 腕を叩き付ける度に、千影の顔に戸惑いの色が見え隠れする。

 ここまで攻撃を防がれた経験など千影にはないのだろう。


「うおおおおおおおおおお」

 千影が4回目の打撃を加えてきた絶妙のタイミングで、

 背後から真が鉄槌を振り下ろした。


 眼にも止まらぬ速さで、

 真の攻撃の軌道上に片方の手のひらを合わせる千影。


 けれど、真が作った斧はそんな生易しい打撃なんかじゃない。

 その鉄槌は千影の作った壁を木端微塵に砕く、


 ……はずだったが戦斧は千影を裁くことはなく停止する。

 障壁はヒビが入りつつも、衝撃が突き抜けることはなかった。


 驚く真へ振り返り、自分へと振り下ろされている獲物を掴んで、

 真ごと力任せに振り回す。

 眼前に迫った真がぶつからないように障壁を消して、屈んで避ける。


 千影は遠心力をつけて、近くに忍び寄っていた藍に向かって真を放った。

 藍は真を受け止めたが、勢いを吸収しきれず2人とも倒れ込む。


 僕から背を向けた千影に、パトスを込めた蹴りを叩き込む。


 が、見えない壁に遮られた。

 千影の背の5cmほど手前で足が止まる。


 急いで身体を引き戻し、

 千影が振り向きざまに放ってくるワイヤーを避ける。

 それが頭上を通過する瞬間、僕はそれを掴んだ。


 外壁に叩き付けてやるッ。


 足を踏み込んでワイヤーを思いきり振り回そうとして、

 ワイヤーが瞬時に消えた。


 僕は支えを失い、体勢を崩して無様に倒れこむ。

 再度作り直されたワイヤーが飛んでくるのを視界の端で捉えて、

 片手で障壁を作って防ぐ。


 首を狙ったワイヤーは障壁に阻まれて地面へと落ちる。


 安堵するのも束の間、凄い力で足を引っ張られた。

 千影がもう片方の手で作っていたワイヤーに足を取られたらしい。

 浮遊感を感じてぐるぐると回された後、壁に叩き付けられた。


 衝撃で屋上の壁が音を立てて爆ぜた。

 ……もう少し強くぶつかっていれば、落ちていたかもしれない。


 そう考えながらも、痛む身体を酷使して身体を左に逸らせる。

 さっきまで背を預けていた壁が、千影の魔手によって完全に崩れ去った。


 痛みに耐えながら、出来うる限りの速度で千影から離れる為に走る。


 ――ワイヤーには気を使い過ぎる程に気を付けないとまずい。

 さっきだって空に放り投げられていれば、

 そのまま死んでもおかしくはなかった。


 この建物は5階建てだ。

 落ちれば無事で済む訳がない。死ぬ。


 仮に壁に叩き付けられて落下しなかったとしても、

 その後の追撃を防げなければ、

 同様に空へと投げ出されてしまうことになる。


 繰り出されるワイヤーを避け、壁で弾く。

 今度はワイヤーに意識をまわし過ぎたせいで、

 俊足で近づいてきて放たれた右フックを捌くことができなかった。


 何とか腹部に障壁を間に合わせるが、

 手で意識して作ったそれに比べれば、強度が弱過ぎる。


 千影のフックは展開した障壁を易々とぶち破りながら、

 僕の腹を刺し貫いた。

 叩き付けられて床に転がる。


 込み上げてくる嘔吐感をぶちまけると、赤いものが混じっていた。

 今ので内臓をやられたのかもしれない……。


 息をつく暇もなく眼前に千影が迫る。

 反射的に繰り出した拳は、当然の如く千影に避けられる。


 その突き出した手が千影に掴まれるかに見えた時、

 藍が繰り出した横手からの鋭い蹴りが千影に襲いかかった。


 錐もみをしながら千影は吹き飛ぶ。


 ……だが、痛みを与えるには至らなかったらしい。

 千影はすぐに立ち上がると、服についた汚れを優雅に払った。


「クソが。

 ほとんどダメージにはならんようだな。

 まともに障壁を張られたら、オレではどうにもならない」


 藍に起こしてもらって、僕は心から受け取っていた宝石を砕いた。

 手から湧き上がる光り輝くパトスを腹部にあてがう。

 すると、光に吸い取られるように痛みが引いていった。

 消耗していた感情の波が幾分か、大きな流れを取り戻してくる。


 千影は、藍に一撃を加えられたというのに、狙いはあくまでも僕らしい。

 藍に警戒はしながら、僕の方に向かって突っ込んでくる。

 それが千影の最大の存在意義だからだ。


 あの日、孤児院で暴走した僕を止めるために、千影は生み出された。

 僕が死ななければ、千影は存在し続けるだろう。

 知枝のトラウマと共に。


 軽いステップを刻んでから繰り出した藍の蹴りを、

 千影は危なげなく潜り抜ける。

 身体を回転させて勢いをつけた再度の回し蹴りも、

 左手で作った障壁によって阻んだ。


 腕を払いあげることで藍の体勢を崩す。

 絶好のチャンスにも関わらず藍には構わず、

 千影はあくまで僕へと肉薄してくる。


 相手の力量の方が高い以上、無駄なパトスは消費できない……。


 千影の左フックをにおわせたフェイントを見切り、後ろ回し蹴りを躱す。

 一本立ちになった足元に飛びつこうとしたが、

 横殴りで放ってくる右腕に遮られた。


 千影の背後から真が鉄槌を横殴りに叩き付ける。

 これを千影は片手の障壁で易々と防ぐ。

 もう片方の手でワイヤーを伸縮棒の柄の部分に巻き付け、

 強い力で引かれると、真は武器を取り上げられてしまった。


 真の手から離れたそれは、

 棒の先に具現化されていた斧の形をしたパトスを霧散させる。


 千影は、パトスのなくなった伸縮棒を詰まらなそうに遠くへと投げた。

 真は既に新しい伸縮棒を手にし、

 額に汗をにじませながら千影を牽制する。


 僕が放ったローキックは障壁すらないのに千影に遮られ、

 傍らに迫った藍の右フックは障壁によって防がれた。

 チャンスとばかりに頭上から振り下ろされた真の鉄槌は、

 大きく後方へと下がることで避けられてしまう。


「綾人、てめーちゃんとやれ。

 手加減するんじゃんねぇ。

 ぶち殺されたいのか」


 障壁すら必要とされない僕の攻撃のせいだろう、

 藍が怒りを込めて睨んでくる。


「ふざけてる訳じゃない。

 この仮面じゃ千影相手には無理だ……打撃は多分通らない」


「ふん。

 あいつを助けたいなら、せいぜいオレを守るんだな」


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