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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
4章 デッドエンド
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愛くるしい肢体

 事件はあっさりと幕を引かれた。

 学園長の言う通り、これ以上は何かが起こり得ることはない。

 起こったとして大事には至らないだろう。


 不可解だったのは、

 生徒たち狂言犯が何日もの間どうやって暮らしていたのか、という点。

 彼らが学園から去ってから昨日まで、

 買い物を行った履歴すらないからだ。


 千影が痛めつけすぎた狂言犯たちは、

 数日経っても一向に目を覚まさない。


 七枷・七瀬が他の生徒を盾に使ったせいで、

 全員が全員、酷い有り様だった。


 事件の解決にあたった二見先生は一応の責任問題として、

 水城先生は副担任として、

 通常の業務と並行しながら彼らの看護にあたる事になった。


 誰かが意識を吹き返せば、この事件はさらに進展するだろう。

 誰もがその時を待っていた。


 しかし、組織としての学園はそう悠長には構えていられないらしい。

 〝誘拐事件〟は片付いたのだからと、

 学校の休校が解かれることになり、2月1日から再開することになった。

 その旨を生徒たちに告げ、寮に戻ってくるようにと働きかける。


 誘拐事件は狂言だったし、

 それに学園は犯罪者を取り締まる為に存在する。

 そのエキスパートを大量に飼っているのだ。

 学園の中で犯罪を行うなんて、それこそ自殺行為に等しい。


 個人部屋やトレイなどを除いて、

 全ての個所に監視カメラが設置されている。

 これを潜り抜けて罪を犯すのは不可能だし、

 それを承知で行ったとして、すぐに学園全体に知れ渡ることになる。


 だから、学園で犯罪をするなど

 自らを捕まえてくれと言っているようなものだ。


 多かれ少なかれ、多分みんながそう思っていた。

 こうした安全な環境を目当てにして

 学園に入学する生徒がいるくらいなのだ。


 学園内で犯罪が起こるということは、

 つまるところ防ぎようのない大災害のようなモノ以外有り得ない。


 それから2,3,4日と時間が過ぎ去っていき、

 さしてイベントのない平凡な日常が戻ってきた。



//



「あれ?」

 僕は首を傾げる。


 脱衣籠に服が入ってなかったのにも関わらず、

 風呂場には2人の少女が向かい合わせに浴槽に浸かっていた。

 どちらもきょとんとした顔をしている。


 湯船で温まった肢体は、ほんのりと赤く染まっていて綺麗だ。

 染みひとつとない、つるりとした肩口は、

 その柔らかい感触を触れずとも表現しているかのよう。


 水気を含んだ髪の毛は、その重さによってだらりと垂れさがり、

 いつもより幾分か髪が伸びたように見える。

 それが少女たちを普段より大人びて見せ、

 そのギャップになんだか脳がとろけそうだった。


 2人が顔を見合わせ、僕の顔を再度見る。


 徐々に視線がさがって、僕の下腹部辺りに2人の焦点が合う。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああ」

 心が奇声をあげながら立ち上がり、腕で自分の身を隠した。


 湯船に漬かっていれば肩までしか見えていなかったのに、

 これでは逆効果である。


 そんな冷静な理性とは裏腹に、僕は条件反射的に

 (つまり不可抗力だけど)

 ――視線を這わせて、その一つの芸術の全体像を脳に刻み込もうとした。


 華奢な肩、腕、鎖骨、胸、肋骨、お腹、お臍、下腹部、太もも、膝。


 女の子特有の丸みを帯びた肩は優しい。

 夏が遠ざかり厚着という憎たらしい布のせいで、

 すっかりご無沙汰だった白い腕は流麗に。

 膨らみかけの胸は内なる可能性を秘め。

 細い身体に浮き上がった鎖骨や肋骨はエロティシズムを含む。

 柔らかそうな腹部と、触りたくなるような小さなお臍。

 下腹部は湧き上がる湯気によってシルエットしか拝むことが出来ないが、

 そのせいで逆に骨盤までも見透かせてしまいそうだ。

 普段はスカートに隠れて見えない逆三角形から伸びる太ももは、

 食べてしまいたいほど健康的で、

 すがりついて頬ずりしたいくらい美しかった。


 その肢体を嘗め回すかのようにお湯が零れ落ちていく。

 抱きしめたら壊れてしまうんじゃないか、

 と思うくらいの淡い芸術品だ。


 羞恥に歪んだ頬は、火照った身体以上に赤身を帯びて、

 普段の心からは考えられない新しい妖しい一面だった。


 当たり前ではあるが、普段は服を着ている恰好しか見ていないから、

 その全身が占める肌色の比率が何だか新鮮だった。

 湯気と掲げた腕のせいで大事な秘部は見えないが、

 それはそれで想像力を掻き立ててくれる。


 突然、僕の目線から庇うように真が心を抱きかかえた。

 都合、双子の片割れの背面が見えることになる。


 真心は一卵性双生児なので、

 性格はともかくカラダのカタチはよく似ている。


 垂れさがった髪の毛のせいで、

 残念ながらうなじを見ることは叶わなかった……。


 痩せているため白い肌に脊柱が浮かび上がっていて、

 その有機質さが淫靡だ。

 ウェストのくびれの下、日頃のトレーニングの賜物か、

 臀部は流線形を描きながらもきゅっと引き締まっている。


 なるほど、さっきの姿の反対側はこうなっているのか、と感心する。


 頭の中で高速な演算が行われ、

 先ほど見ていたデータと今見ているデータが組み合わさる。

 3次元なデータの完成!

 瞬時にそれを脳内のデータバンクに保存していく。


 演算が終わる頃には、

 真心の裸体は再び湯船の中に埋没してしまっていた。


 振り向きながら、真が僕の事を親の仇のように、ねめつけてくる。

 手で顔に触れ、仮面を怒りに切り替えたのが見えた。


 ちょっとした静寂が訪れる。

 真は黙したまま動かない。


 ああ、そうか。

 始めにアクションを起こしたのは、

 こっちだから僕から喋らないといけないのだろう。

 状況を説明しなければならない。


 しかし、僕の頭は先ほどの芸術データの

 脳内バックアップを大量に取るのに夢中で、働いてくれなかった。


「真心に、下心はない」

 あ、なんか上手い事を言ったかも、なんて自画自賛しようと思った。


 次の刹那、


 どこからか飛び出した伸縮棒を大きく振りかぶりながら、

 真が襲いかかってきた。


「さっさとでていけ!

 ぶち殺すぞ、てめーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 振りかぶるという姿勢の都合上、前身が丸見えであるのだが、

 ……僕は好奇心よりも死の恐怖にかまけて、

 自分の持てる能力の最大限を駆使して防御障壁を練り上げる。


 掲げた腕に鈍器の重撃が覆いかぶさってくる。

 真の持つ伸縮棒の先端に、

 感情で作り上げた巨大な斧が具現化されていた。


 本来、真のような華奢な女の子が持ち上げることすら敵わない。

 けれど、タイミングよく具現化させることで、

 単に振り下げるだけの強力な武器となる。


 なんとか壁で攻撃を受け止めたものの、

 衝撃を全て和らげることはできず、肩口がミシリと悲鳴を上げた。

 踏ん張っていた足が耐え切れず、無様に背中から転倒する。


 目の前で、浴室のドアが壊れるかと思うくらい、

 思いきりよく閉められた。


「心、大丈夫! 汚されてない?」

 浴室からこもった声が聞こえてくる。

 視姦しただけだというのに、酷い言われようである。


 やれやれ。

 一緒に住んでいる以上、こういう事もあるだろう。


 などと、自分の失敗を棚にあげながら視線をあげると、

 ……ラスボスが、仁王立ちしていた。


「なに、してるのよ?」

「ご、ごかいだ」


 知枝の指がくいっと動くと、僕の首に何かが巻きついた。

 ……感情で作り上げたワイヤーだ。

 知枝が腕を引き上げると、

 つられて僕の身体も首に引きずられるようにして、膝立ちになる。


 く、くるしい……。


「なにしてるのって、聞いてるの。

 誤解かどうかは、綾人の返答次第でしょ?」


 知枝は屈んで、僕の顔を覗き込んできた。

 ……目が据っている。


 額と額がくっつきそうなほど近い。

 触れたら知枝は暴走する。

 それは、知枝も分かっているだろう。


 けれど、正直、

 感情が昂ぶり過ぎている知枝が何をしてくるのか分からなかった。

 行き過ぎた感情は行動を支配するからだ。


 恐怖で嫌な汗が湧き出てくるのが自分でも分かった。


「あ、あのですね。

 ……洗濯物の籠にですね、あの、脱いだ服がね?

 入ってなかったのね?」


 手をがくがくと震わせながら、籠を指差す。

 2つあって、片方が女性用でもう片方が男性用だ。

 女性用の方は蓋が開いたまま、衣類が詰め込まれるのを待っている。


 僕が先ほど衣類を入れた男性用の方は蓋が閉じている。

 つまり、これはそういった合図なのだ。

 蓋の開け閉めで、お風呂に入っているかどうかを判断する。


「そうね。

 確かに開いたままになってるわね。

 でも、綾人くんは洗濯機が動いていることに気付かなかったのかな?

 それにお風呂場の電気はついていたはずだよね、分からなかった?

 2人も入っているのに、

 まったく物音もしなかったと、そう言いたい訳?」


 気づいていたし、分かっていたし、

 水音は微かではあったが確かに聞こえていた。


 でも、それらの違和感が形を持って符合した時には、

 既に僕は浴室の扉に手をかけていたのだ。


 ……それに、なんというか、

 ――ちょっとばかりの期待感も相まって、

 そのまま「開ける」の選択肢を選んでしまった訳である。


 だが、

 僕たち人間はいつでも聖人君子な正直者で居られる訳ではないのだ。

 悲しいことに。


 自分を偽ってでも、罪悪感に駆られてでも、

 つかなければいけない嘘もあるのだ。


「ご、ごめんなさい。

 まったくもって、これっぽっちも気づきませんでした。

 不徳の致す限り、あっいや、

 不注意ゆえに起こってしまった不慮の事故なんです……」


 ワイヤーを発している腕が持ち上がる。

 僕自身の体重がかかって、首がさらに締まる。


「私に、それを信じろって言うの?」

「じ、じんじで、ぐだざい」


 知枝の表情は変わらない。

 いつまでこのままなのだろう、

 このままでは酸欠で意識が落ちてしまう……。


 と苦しんでいたら、ワイヤーは実にあっさりと引っ込められた。


 腕をついて、吐きそうになりながら咳と酸素の吸引を繰り返す。


「お風呂の順番を決めます。

 綾人を最初に入らせるから、終わったら浴室に近づかないこと。

 約束できるよね?」

「は、はい」


 即座に返事をする。

 返事が遅れたらまたワイヤーが飛んできたかもしれない……。


 数十分後、風呂から出てきた2人に土下座をして謝った。

 心は恥ずかしさで、真は怒りで顔が真っ赤になっている。

 カタチは同じなのに対称的な2人だった。


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