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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
3章 使い捨てのチーム
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無力な子ども

 学園に戻ると同時に、指示通り学園長室へ4人で赴いた。


 賛辞、賛美の言葉が僕たちに降り注ぐ。

 学園長から直々に言葉をかけられることは初めての経験だった。


 僕個人からすると、大して緊張感を持っていなかった今回の事件は、

 やっぱりというか、学園の経営側から見れば大惨事だったのだろう。

 自分の認識の弱さに多少は恥じた。


 よくここまで語彙が豊富なモノだと感心するくらいの感謝の言葉を、

 藍が遮る。


「さっきから聞いていると、もう全部終わったような物言いだな。

 どうして言い切れる?

 生徒だけでここまでの事を仕出かせるとは思えない。

 そうだろう?」


 ともすれば失礼にも聞こえる藍の言葉にも、

 学園長は柔和な顔を変えずに優しげに応じる。


「ええ、藍くんの意見はもっともだと思いますよ。

 ただ、問題になり得る部分は取り除いたと言って良いでしょう。

 生徒は全員戻ってきたのですから。


 彼らが回復次第、尋問は始めます。

 しかし、学園側としての落ち度は皆無な事が証明されましたから、

 後は何がどうなっても片付けられる話です」


「いくらでも揉み消せるってことか?」

 藍の挑発に、しかし学園長の表情は一片だって変わりはしない。


 まるでそれしか表現できないかのように、柔和に微笑み続けている。

 気味が悪かった。


「受け取り方は人それぞれだと思いますよ」

「別にどうでもいいがな。

 報酬さえ貰えればオレは満足だ」

 言って、藍は踵を返して学園長室から出ていく。


 僕は口を開いたが、特にかける言葉も出てこなかった。


「では、僕たちもこれで」

 それだけ言って、藍についていく。


 真心を促して、全員で学園長室を出た。



//



 寮の自室に戻ったところで、

 それまで後ろから着いてきていた真が前に進み出た。

 首輪をテーブルに放り投げて、足早に寝室へと向かっていく。

 大きな音を立てて、寝室の扉が閉じられた。


 心と顔を見合わせる。

 真は交戦の後からずっと様子がおかしかったが、

 無遠慮に追いかけても大丈夫だろうか?


 ……迷っても答えなど出ない。

 決心して僕らは真の後を追った。


 真はベッドの上で体育座りをして、枕を抱きながら俯いている。


「真、大丈夫?」

 おずおずと近づいて、真の背中を撫でる心。


 真は枕を放り投げ、すがるような形で心に抱きついた。

 小さくなった姉の背を妹は優しく撫でる。


「ごめん、心。

 ボクが弱いばっかりに、危険な目に合わせるところだった……」

「真……」

「実際は危険な目に合ってないんだ。

 自分を責めるのはよせよ」


「ボクは、ボクは1人もやれなかったんだぞ!

 藍に手伝ってもらって1対1になっても遅れすらとった。

 ただの一般生徒を相手にできなかったんだ!」


「それは薬が、」


「そうさ!

 薬を使われたらボクは一般生徒に敵わないってことだろ?

 何のために何年も我慢して訓練してきたんだ。

 何のために……。

 こんなんじゃ心を守ってあげられない」


 二の句が継げなかった。


 脳裏に孤児院の頃の事が浮かんでくる。

 何年も、何年も歪な研究にさらされていた。

 僕らにとって、それは日常でしかなかったけれど、

 それでもやっぱり辛かった。


 逃げ出したいほどに辛くて、それで僕は……孤児院を……。


「それに、……それにだ。

 ボクらが逃げることを選んだ相手を、千影は倒したんだろ?

 それも、一人で……。

 千影一人で済むなら、ボクたちは何の為にいるんだよ!」


「……千影は。

 あいつは制御が利かないんだ。

 だから、相手の鎮圧ができたと二見先生が判断したら、

 5つもつけている首輪で気絶させられる」


「千影が出るまでもないヤツらをボクたちが片付けるってわけだ」


「……穿った見方をすれば、そうなるかな。

 学園では千影が一番強い。それも圧倒的にね。


 ただリスクが大きすぎるから、あまり千影は出てこない。

 そうじゃないと、……千影は相手を殺してしまうかも知れない」


 隣の部屋で扉を開閉する音が鳴った。


「綾人! 綾人、どこにいるの?」

 知枝の声だ。

 検査室から帰ってきたのだろう。


 寝室のドアを開けて声をかけると、心配そうな顔の知枝が駆け寄ってきた。

「ふ、二見先生から、

 仕事で撤退命令が出たって聞いたけど、大丈夫だった?」


「ああ、僕は大丈夫。

 真がちょっと怪我をしたくらいで」

「こんなのなんだってないさ!」


「よかった……。

 誰か大怪我でもしたのかと思った……」

「今日の仕事は、千影をバックアップに用意していたんだ。

 だから、元から逃げる準備は万端だったって訳」


「そう、なんだ。

 ……なんでそんな大事な作戦に出させてくれなかったんだろう!

 私の代わりに二見先生が入ったんでしょ?

 そんな事をされたら、私のいる意味がなくなるじゃない!」


「ボクたちに意味なんてないよ。

 千影さえいればいいんだ!」

 真の激昂は止まない。


 どうしたの? という目線を僕に投げかけてくる知枝。

 僕は簡単に今日の経緯を話した。


 それを聞き終えると、知枝は言った。

「真。

 真は……怖くはないの? 犯罪者と戦うことが」


「怖くなんてないさ! 心と一緒にいれなくなることが怖い。

 心を失うことが怖い。

 でも、ボクじゃ守りきれないから腹が立つんだ」


「…真は偉いね。

 その気持ちがあれば大丈夫だよ。


 私もね、ずっと綾人を守りたいと思ってたの。

 でも、どうしても怖くなっちゃって、

 それで綾人に前衛と後衛を交換して貰ったんだ。


 綾人が傷つくのが怖いのに、それでも私は前線には出られない。

 私に比べたら、真は凄いよ」


「偉いとか凄いとかじゃないんだよ。

 ボクじゃ力が足りないのが問題なんだ」


「一人も倒せなかったって言うけど、そんなの必要ないじゃない。

 心は傷一つないんだし、ちゃんと一緒に逃げてこられたでしょ?

 心を守ることが真のやりたいことなら、逃げてもいいの。

 相手なんて関係ないよ。

 ね?」


 知枝の優しい言葉に、真は反感を抱こうとしながらも、

 結局は「まぁそうだけどさ」と落ち着きを見せる。

 そんな真を知枝は羨望するような眼差しで見つめた。


「それでいいんだよ」

 僕は真の頭をがしがしと乱暴に撫でた。

 恥ずかしがって手を振り払われても、何度も何度も乱暴に撫でまわす。


「やめろよー」

 笑みが、零れた。


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