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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
3章 使い捨てのチーム
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交戦開始

 出てきた人間は8人。

 その顔ぶれは、……誘拐されたはずの生徒たち本人だった。


 犯人と思しき人間は一人もおらず、

 生徒たちは拘束の類もまるでされていない。


 みな一様に、おかしさを噛み締めるかのように、

 口元で鋭利な弧を描いて嘲笑している。


 彼らの中の例外、捜査ファイルNo1

 ――最年長の生徒はこめかみに皺を刻みながら、前に出て来た。


「1チーム分まで寄越して良いと言っただろう。

 足りてねーとは聞かされてはいたが、半分しかいねーじゃねーか。

 なめてんのか?」


「……どういう事か、説明して貰えるかな?」


 事前に想定していた事態のどれとも一致しない状況に疑問を覚えて、

 僕は言った。


「金は?」

「指定された通り、このカードの中に入っている。

 暗証番号は『9991』」


 ポケットから出したカードを相手に見えるように掲げて、

 実際に番号を押す。

 カードの液晶に引き落としモードが表示されたのを確認させ、

 キャンセルボタンを押す。


 カードをしまい、気を取り直して質問を繰り返す。


「説明、してもらえるかな?」


「誘拐なんざ最初からねーんだよ。金はもらうがな。

 オレらは自分たちの意志であそこから出た。

 厳しい訓練と拘束された自由の割に待遇は悪りーし、

 孤児育ちばかりが出張って優遇されやがる」


 だから――、

 と怒りの中に嘲りのような表情を込めて、生徒No1は嗤う。


「だから、転職でもしようと思ってな。

 先方からは、実力を示せと言われている。

 学園の1チームをぶっ殺して、証明することにしたって訳だ」


 No1が言い終わるやいなや、藍が飛び出した。


 棒立ちのまま、何の予備動作もない体勢から

 一瞬で地面を蹴って生徒の群れに近寄った。

 元々立っていた位置のコンクリートの地面が抉れている。


 藍は一番近くにいた生徒をパトスで作ったナイフで突き刺した。

 それだけで、生徒のまとっていたパトスの波が

 爆発でもあったかのように飛散し、

 そいつは崩れ折れるようにして昏倒する。


 その隣にいた生徒の反応は実に見事だった。


 呆気にとられながらも、

 防御障壁を張って藍から突き出されるパトスのナイフを弾いたのだ。


 惜しむらくは、相手が藍だったことだろう。


 その超反応に何の感慨も感想も浮かべることもなく、

 藍は障壁の維持に夢中な生徒の足をローキックでへし折った。


 苦痛の余り前かがみになった相手の顔面を

 わしずかみにして体勢を崩させ、後頭部を地面に叩きつける。


 割れた後頭部から血が滴り、地面をぬらす。


「藍、待て! まだ話が終わってない!」


 度肝を抜かれたのは敵対している相手だけでない……、

 僕も同様だった。


 その言葉が藍を止めた訳ではないだろうが、

 既に臨戦態勢に入った敵の集団を前に追撃はしなかった。


 藍は自分についている首輪を指し示す。


「言質を取ったんだ、もう話す必要もないだろう。

 お前が何を言ってるか理解できない。

 オレの邪魔をするな」


 言葉には憎々しげな響きすら混じっている。


「し、しかし……」

 そのまま他の生徒に襲いかかってもおかしくは無かったが、

 藍は軽いステップで元いた位置に戻った。


「喋りたいことがあるなら、さっさと喋れ。

 それが終わった時が、あいつらが地にす時だ」


「意表を突いたぐらいで威勢に乗るなよ。

 クソ野郎が……」


「だから、お前らはいつまでも経っても弱いままなんだ。

 犯罪者の前でも同じ事を言っていろカス共。

 その前に死んでなかったらな」


 生徒たちから嘲笑が消えていた。

 圧倒されていたのは一瞬で、既に怒りで表情に染め上げている。


 話があるならさっさと終わらせろ、

 とでも言うように藍はこちらに向かって顎をしゃくった。


 話を端的にまとめなければ藍がキレるだろう。

 首輪越しにここの映像を見ている二見先生も分かっているようで、

 『残りの2人の確認だけ』と指示が飛んでくる。


「……こっちが把握している生徒と人数が合わない。

 2人足りないけど、どこにいるんだ?

 それから、……投降するつもりはないか?

 今なら停学ぐらいで済ませてもらうように僕から頼もう」


 後半は、僕個人の提案だ。


 足りない生徒は、僕ら特別クラス所属の元孤児の2人だ。

 相対しているのは一般生徒でしかない。

 先ほど藍が不意打ちをついたようにはいかないだろうけど、

 たった6人で僕ら4人を相手に出来る訳がない。


「ふざけやがって……ふざけんじゃねーぞ!

 お前らはオレらに潰されるんだよ!

 自分の心配をしたらどうだ!」


「ハッ! 雑魚如きが大きくでたな。

 だが、割の良い仕事だ。

 雑魚には変わりないが、そこらの犯罪者よりは仮面を期待できる」


 羞恥に表情が歪む生徒たち。

 そこにあるのは、恐れでも怯えでもない。

 あくまで交戦するつもりなのだろうか。


 犯罪者と相対する為だけに育てられてきた僕らと、

 一般家庭で育って途中から訓練を開始した彼ら。

 実力の差は歴然だ。


 先ほどの藍の立ち振る舞いを見たというのに、

 何が彼らを駆り立てるのだろう。

 煽られたことによる羞恥でしかないのであれば、

 ……あまりに愚かだ。


 再度、説得を続けようと言葉を考える僕をよそに、

 彼らは口の端を釣り上げて笑みを浮かべた。

 No1がポケットに手を入れて何かを取り出す。

 他の生徒もそれに倣って同様に動いた。


「これがなんだか分かるか? 分かんねぇよなあ。

 お前ら特別扱い共の長年の研究成果とやらが無駄になる代物だ。

 舐めやがって、ゆるさねぇぞ。

 せいぜい後悔するんだな」


 全員が錠剤のようなものを飲み下す。

 敵は、心底楽しそうに高圧的な笑みを浮かべ、


 ――次の瞬間、彼らをまとっていたパトスの波が

 跳ね上がりながら大きくなった。


 ……その波の絶対量は僕と同格か、

 あるいは僕の方が少し負けているかもしれない。


 さっきの錠剤が何であるかは分からない。

 けれど、楽観できる状況ではなくなったということは理解できた。


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