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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
3章 使い捨てのチーム
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誘拐事件。取引現場

 二見先生の教官室には、真心が居た。

 2人でソファーに座っている。

 むしろ、当の二見先生がいない。


「あれ、先生は? それになんで真心もいるの?」

「真心って言うなっての!

 知らないよ、連れてこられただけなんだから。

 先生ならここで待ってろって言って、出て行った」


 こくこくと頷く心。

 要領を得ない状況だけれど、真心に聞いても仕方がないだろう。

 心の隣に座って部屋の主を待つことにする。


 5分も経たない内に二見先生が現れた。

 傍らには、珍しく首輪を着けた藍が居る。

 検査の日だからなのだろう。


「あれ? 藍、検査はもう終わったの?」

「切り上げさせた。

 急な話で悪いが、君たち4人に仕事を頼みたい」と先生。


「知枝姉ちゃんは? 兄ちゃんの指示はどうすんのさ」


「まだ検査中だ。

 指示出しの後衛は全員分、私が携わる。

 だから、後衛は必要ない。

 心には現地でのサポートを頼みたい。

 何分、敵の数が把握できないからな」


「4人も出るって……、そこまで重大な事件なんですか?」


「この前の誘拐事件の件で連絡があった。

 身代金の要求が来ている。

 こちらの受け渡しの人数は最大1チームまでと相手は言っていたが、

 向こうの戦力が分からない。


 事件に応対した人間まで誘拐されてしまうという

 最悪の事態もあり得るので、少数精鋭で行こうと考えている」


「オレたちが攫われた場合はどうするんだ?

 まぁ面子から見て、使い捨てなんだろうが」

 藍が皮肉げに言う。


 孤児たちの中でも、過去に問題を起こしたことのある問題児たち。

 使い捨ての中の使い捨て。

 僕たちのチームは、そういった仕事が特によく回ってくる。


「まさか。

 危険な任務につかせ易いというのは事実だ。

 しかし、お前たちが重要だということもまた、事実だ。

 少なくとも、私個人としてはお前たちを失う気なんてさらさらない。


 まず話し合いとしてお前たちに出向いてもらう。

 出来る限り、人質の救出を優先して欲しいが、未知数が多過ぎる。

 危険だと判断した場合には、人質を見捨ててでも撤退させる。

 その為に、私が全員分の後衛を担当する」


「そうなったら、解決できないじゃん。

 いいの?」


「いや、事件発生以来はじめての大チャンスだからな。

 今回で全てを解決させるつもりだ。

 もし、お前たちの手に負えない場合には、

 ……千影を出して全てを鎮圧させる」


 千影の名前を聞いて、耳を疑った。

 千影をあそこから出すなんて余程の事だ。


「そ、そんな事をしたら、

 その場にいる全員が千影にやられて……」


「大丈夫だ。

 お前たちが逃げた後で千影を投入する。

 その後の事は気にするな。

 すべての責任を私が持つ」


「でも、千影だって……そんな事は望まないでしょう」


「綾人、分かってくれ。

 この事件は重大なんだ。

 何としても、どんな形になったとしても、

 今回で終わらせなければならない。


 失敗は許されない。

 それに千影は最終手段。

 あいつは制御がまったく利かないからな……。


 お前たちが居れば解決できない事件などないだろう。

 あくまで保険みたいなものだ」


 釈然とせずとも頷くしかなかった。

 そもそも、僕らに選択権や拒否権などは最初から有りはしない。


 続けて二見先生が作戦の優先度を告げる。


 絶対に失敗してはならない。

 だからこそ、柔軟に動く必要がある。


 どこまでが失敗でどこからが成功と呼んでいいのか、

 その線引きは難しい。

 けれど、現実として物事が起こっている以上、優先順位は存在する。


 まず、人質だが、どちらか選択しなければならないのであれば、

 年齢が若い者を優先して助ける。

 そして、年齢の如何に関わらず、

 僕たちと同じ特別クラスの孤児2人は、優先順位は一番低い。


 作戦を聞き終えると、本来後衛であるはずの心も首輪を着ける。


「綾人、身体の怪我の方はもう大丈夫か?」

 教官室から出ていこうとして、二見先生に呼び止められた。


「ええ、だいぶよくなりました。

 この通り、もう何ともないですよ」


 僕は指先をぐーぱーぐーぱー開いたり閉じたりしながら答える。

 そんな事にさほど意味はなかったが、

 先生は僕の手をちょっと見てから頷いた。


「ならいんだが……無理はしないように」


 その言葉に同意して、僕はチームの元へ戻る。

 僕たちは学園を後にした。



//



 そこは県境にある廃ビルだった。

 立地条件も悪く、何年も見捨てられた無骨な造りの建物だ。

 この地下1階にある駐車場が犯人から指定された取引現場だという。


 ここまで運んでくれた運転手の水城先生にお礼を言って、

 この一帯から一時的に離れてもらう。


 その車に連なって、

 救出した生徒を運ぶための車も何台か遠ざかっていく。

 あの車に、何人が乗って帰れるのだろうか。


「二見先生、到着しました。

 これから、4人で現場に向かいます」


『分かった。

 先ほど話した通りに作戦を進めてくれ。

 こっちは、ビルのすぐ傍で待機するようにする。

 仮に千影が出ることになったとしたら、何度も言うようだが、

 絶対に千影の視界に入らないよう気をつけろ』


「千影の出番はないようにしますよ。

 では、行ってきます」


 3人を促して歩を進める。

 左から藍・真・僕の順に一列に並び、

 藍の後ろからポーチを持った心が付いていく。


 地下に4人分の足音が響き渡る。

 予めデータとして知っていたそこは、想像していたよりも広かった。

 所詮は頭の中で思い浮かべる情景などあてにはならない。


 僕たちをすっぽりと包み込んだ地下は広大で、

 遠くに見える向こう側にも同様な出入口が設置されている。


 どこまで歩けばいいんだろう、

 駐車場の中ごろまで進みながらそう思っていた時、

 ビルを支える幾つもの石柱から人間が湧き出てきた。


「そこで止まれ」

 突然現れた何者かが命令する。


 まず、思ったことは。


 ああ、騙されたんだな。

 という素朴な感想だった。


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