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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
2章 首輪付きの学園
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愛くるしい寝顔

 何度寝かを繰り返して、やっと起き上った。


 知枝が起こしに来ないなぁ、

 なんて思いながら毛布といちゃついていた為である。

 ぼんやりと時計を見ると、既に10時を回っている。


 はて?

 なぜ知枝は起こしてくれないのだろうか。

 と考えてから、すぐに思い至った。


 今日は土曜日だ。

 だから起こさなかったのだろう。

 知枝は毎週恒例の検査を受けに行っているはずだ。


 それにしても静かだった。


 この所の生活はというと、僕の前に真心が既に起こされていて、

 にぎやかな生活音を奏でていたのに、今日はそれがない。


 彼女らはまだ起きていないのだろうか、

 と疑問を感じて寝室を覗いてみると、予想通り真心はまだ眠っていた。

 日常の中に規則が無いと人はすぐに堕落する。

 彼女たちも御多分に漏れず、僕と同種の人間なのだろう。


 窓から差し込む日差しが暑かったのだろうか。

 女の子たちは毛布を跳ね除けてしまったようで、

 パンダ模様の可愛らしいパジャマ姿の全身を晒している。


 見つめ合って抱き合うかのようにおでこ同士をくっつけ、

 お互いの腕と足をからめてぐっすりと眠っていた。


 鏡合わせのように双子は存在している。


 聞こえてくる寝息すらも愛おしかった。


「これは僕のベッドだ」

 惰眠によって支配されたままの寝惚けた頭はそう主張してきた。

 ダイブしたい。

 この相似形のど真ん中に潜り込んでしまいたかった。


 孤児院の頃、たまに知枝と一緒に眠っていたことが思い出される。

 自分とは異なる体温は温かくて、それだけで微睡に囚われてしまう。

 だったら、この可愛らしい姉妹に両側から抱きしめられたら、

 永眠出来るかもしれない。


 ……ごくりっ。


「……はっ!」


 いつの間にか口腔内にたまっていた唾をのみ込むと、

 大げさな音を立てて喉がなった。

 それに気づかされて正気に戻る。


 いけない、いけない。

 余りにも軽率な考えだった。

 眠っている女の子にいたずらをするだなんて、

 一緒に住むことを禁止されてしまうかもしれない。


 おまけに彼女らは中学生だ。

 犯罪になってしまう。


 もとい。


 ……2人をこの部屋に呼んだのは理由がある。

 誘拐事件の事は理由の一つでしかなく、一番の理由は違う所にあった。


 リビングで知枝が暴走して以来、

 僕と知枝の関係はぎこちなくなってしまっていた。

 初めての事ではないし、どうせ時間が解決してくれる。

 けれど、一刻も早く元の関係に戻したかった。


 だから、この太陽みたいに可愛らしい2人に

 頼ってみる事にしたのである。


 利用、とも言える。


 そういった心苦しさはあったが、この安心しきった寝顔を見ていると、

 選択自体は悪くなかったのかもしれない。

 特に心なんかは、この所怖くて睡眠が浅いと前に言っていたし。


「ん……んっ……」

 じっと観察していると、心が喘いだ。


 身体をもぞもぞと動かしている。

 声をかけたものかと思案していると、

 心は目をこすりながらゆっくりと起き上った。


「おはよう」

 真がまだ寝ているので、小さな声で心に挨拶をする。


 いきなり声をかけてしまって、心を驚かせてしまうかな?

 と、心配がよぎったが、

 心は僕に焦点を合わせるとにっこりと目じりを下げた。


「おはよう、お兄ちゃん」

 猫を撫でた時のような甘い声で言った。


 そのままベッドの上で立ち上がって、

 ……一歩踏み出して、僕の方に倒れ込んでくる。


「ちょ、ちょっとっ……」「ぐえっ……」


 急に抱きつかれて羽交い絞めにされた僕と、

 踏みつけにされた真が同時に声をあげる。


 心は大した重さではないが、

 不意を突かれて、全体重を急にかけられたせいで僕は体勢を崩す。

 結果、ベッドの上に2人で崩れ折れた。


 咄嗟に心の頭と背中に手をまわして、倒れた時の衝撃を和らげる。

 肘をベッドにつかせることで、

 真にのしかかる体重も多少は抑えられたはずだ。


「んんー」

 心に腕を首に回されて引き寄せられ、

 腹部を足でがっちりとホールドされた。


 真はと言うと、一瞬で目が冴えてしまったようで、

 僕の下でやたらめったらに暴れている。


「誰だっ! ぶっ殺すぞ!

 あん? 兄ちゃんかよ、なにやってんだよ!

 さっさボクの上からどけよ!」


 そうしたいのも山々だったが、変な体勢のまま心に捕われている。


「う、動けないんだ。

 ……真、悪いけど這い出してくれ」

 言って、衝撃で痺れている肘を酷使して隙間を作る。


「最悪の寝覚めだ」

 言いながら真は隙間から抜け出した。

 僕をがっしりとホールドしている心の腕と足を引っぺがす。


「話をしよう。誤解だ」

 両手をあげて降伏のポーズをとる。


「言ってみろ」

 真の鋭い瞳がきつい。


「寝室に来た。

 ちょうど心が起きた。

 いきなり抱きつかれて、倒れた」


 枕の横にある時計は10:15を示している。

 部屋に入ってから15分が経過している。


 ちょうど、というのは御幣があったが、嘘というほどではない。

 ……はずだ。誤差だ、誤差。


 頬を汗が流れていくのが自分でも分かった。

 顎の真ん中まで流れ、終には落ちる。


「ふん。

 心の事はボクが一番よく分かってる。

 知枝姉ちゃんには抱きつかなかったけどな……。

 信じてやるよ」


 言って、心の名前を呼ぶ。

 心も同様に真の名前を呼び、今度は真に抱きついた。

 真は抱きつかれたまま、心の背中をぽんぽんと叩く。


「起きな、心。朝だよ。

 ……こうやって起こすんだ。

 けど、兄ちゃんはやんなくていいからな。

 ボクを先に起こせ」


 優しく叩いていると、次第に、蕩けていた心の瞳に意思がこもり始める。


「なんか、お兄ちゃんの夢見てた」

 真は歯を食いしばらせながら、ものすごい形相で睨み付けてくる。

 寝ぼけていた心も僕の存在に気付いたようだ。


「あ、あれ

 ……お兄ちゃんっ?

 ……さ、さっきのって、夢じゃなかったの?」


 真に睨まれたままの状態で、どう反応していいのか分からない。


 とりあえず、日本人特有の愛想笑いで誤魔化すことにする。

 けれど、それも意味がなかったようで、

 みるみる内に心の顔が真っ赤に染め上げられていく。


「わ、わた、わたわたわたしっ……」

 身体の力が入らなくなったのか、すとんとベッドの上に座り込んだ。


 大丈夫?

 と近寄ろうとする僕を真が手で制止する。


「兄ちゃんは心には毒だ。

 近づかなくていい。

 ……それで、何の用なんだよ?

 何かあるから起こしに来たんだろ?」


 別に用なんて何もない。

 単に何の気も無しに寝顔を覗きに来たのではあるが。


「あ、ああ。えっと、……。

 ああ、そうだ。

 11時くらいから千影に会いに行くんだ。

 

 知枝も検査に行ってるから2人きりになっちゃうけど、どうする?

 お昼までには帰ってくるから、ここにいれば安全だけど。

 どこか行きたい所があるなら連れて行こうか?」


「あのね、兄ちゃん。

 ボクたちはペアなんだよ。

 規則でも問題ないし、2人いればどうにだってなる。

 御守りしてもらうほど子供じゃないんだよ!」


「いやまぁ、そうだけど。

 でも、やっぱり心配だからさ」


「わかったよ。

 ここから出なきゃいいんだろ? 待ってるから、どこへでも行けよ」

 シッシッ、追い払うようなジェスチャーをする。


 ううむ。

 嫌われたものだ。


 中学生という多感な時期だからなのだろうか。

 娘でもできたら同じようにあしらわれるように

 なってしまうのかもしれない。


 しかし、そう悲観した所でどうすることもできない。

 僕は促されるままに寝室から退却した。


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