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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
2章 首輪付きの学園
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恋は戦争 (綾人視点)

 僕たちのチームは今日で巡回を終えた。


 巡回は特に大きな進展も異常もなく、ただただ平穏に過ぎ去った。


 余り外出するなというお達しもあるし、特にするべきこともない。

 巡回以外の時間は部屋に引きこもりっきりである。

 それが余計に平穏さを誇張しているのかも知れない。


 結局、藍は一度も巡回に現れなかった。

 けれど、藍は見かけに寄らず存外真面目な性格だ。

 僕たちに合流しなかっただけで、

 一人で見回りをしていたのではないかとも思う。


 知枝が巡回の時に言っていた通り『決められた巡回ルート』

 では意味がないと、目を光らせているのかもしれない。


 ソファーに身体を埋めてぼんやりと考えていると、

 隣に座っている心が腕を引っ張ってきた。


「どうしたの?」

「お兄ちゃん、……頭撫でて欲しい」


 一緒に暮らし始めてから、心の甘え癖が加速している。

 どこへ行くにも僕の後をついてきて、

 その後にすがるように真が引っ付いてくる。


 考えてみれば、真心はまだ中学生なのだ。

 今回の事件もそうだが、

 学園の都合であれこれと振り回されて不安なのだろう。


 せめて、僕はお兄ちゃん役として

 思いきり甘やかしてあげようと考えている。


 手のひらを心の頭にあてがって、髪の毛を優しく撫でる。

 心は気持ちよさそうに目を細めた。

 次第に両足をぶらぶらと揺り動かし始める。


「こ、心! 足ばたばたするのやめてって言ってるじゃん」

 心に膝枕してもらっている真が抗議する。

 足が揺れるたびに真の頭も上下に動くからだ。


「だ、だって、……そうなっちゃうんだもん」

 指摘されると、心は恥ずかしそうに俯いて、

 足をぶらぶらとするのをやめる。

 が、それは一時的なもので時間が経てばまた再開される。


 恨みがましそうな眼で真が睨んでくるが、

 僕のせいではないので目線を逸らす。

 なんでも僕のせいにするのはよくないと思います。


 ソファーの隣に椅子を持ってきて読書をしている、

 はずの知枝と目が合った。

 と、認識したすぐ後に目を逸らされる。


 誤魔化しているつもりなのか知らないが、

 ずっと前からページをめくっていないのを僕は知っている。

 僕の一挙一動を監視するかの如く、

 ジト目で睨んでいるのを僕は知っている。


 真は膝枕を諦めたのか、ソファーと心の間に入り込んで

 抱きかかえるように座ることにしたようだ。

 心は多少面倒くさそうな素振りを見せつつも、

 真のしたい通りにさせてあげる。


「心の頭は撫でやすいね。

 髪もさらさらしてて、気持ちいいよ」

「……えへへ」


 言葉を聞いて真も心の頭を撫で始める。

 左半分の領土を明け渡しつつ、

 撫でるだけでなく髪の毛を摘まんだり梳いたりすることにした。


「ねぇ、綾人」

「なに?」

 向き直ると、知枝は不審そうな顔をして僕を覗き込んできた。


「綾人は……ショートよりロングの方が好きなんだよね?

 この髪型が好きだって言ってたよね?」

 自分の頭から垂れ下がるツインテールに触れながら問うてくる。


「え? そんな事言ったっけ?」

「酷い! 忘れちゃったの? 酷いよ、あんまりだよ。

 この髪型が好きだ、って綾人が言うからずっと貫いてきたんだよ!」


「あ、え。

 いや、可愛いと思うよ。

 知枝に最高に似合ってると思う」


「そうなの?

 お兄ちゃん、……ああいう髪型が好きなの?」


 心が自分の髪を触りながら言う。

 心のようなミディアムな長さじゃツインテールは難しいだろう。


「じゃぁ何、飽きちゃったの?

 それならそうとちゃんと言って欲しい」

「ん、んん?

 いや、だから、あの、いつ言ったんだっけ?

 覚えてないんだけど」


「8歳の時にそう言ったじゃない!

 この髪型が一番似合うって、一番好きだって。

 これ以上に好きな髪型は有り得ないから、

 ずっとそのままで居て欲しいって!」


 まったく覚えがない。

 それに最後の言葉は絶対に嘘だろう。


「えっと、好きだし、似合うとは思うけど。

 その、髪型を強要した事はないと思うよ……」

「そんな事は、この際どうでもいいの!

 どんな髪型が至上なのか聞いてるの!」


「え、えっ? あのちょっと、話しが見えないんだけど……」


「お兄ちゃんは、……どんな髪型が好きなの?」

「そうよ、どんな髪型が好きなのかってさっきから聞いてるのよ!」


 左右に板挟みにされる。

 なんと答えても角が立ちそうだ。

 真に「助けてくれ」と視線を送ると、

 「任せろ」とでも言うように頷いた。


「心は今の髪型が最高に似合うと思うよ」

「真には聞いてないの」


 速攻で撃沈した。

 僕に睨み付ける目玉が2つほど増えてしまう。

 僕を恨むのはお門違いだ。


「お兄ちゃん、正直に言って?

 長い方いいなら、わたし伸ばすから」


「お揃いが良いけど伸ばすのは面倒なんだよなー」

「真には言ってないの」

「……はい」


「に、似合う髪型なんて人それぞれだと思うよ」

「そんな事は分かってるわよ!

 綾・人・は、どんな髪型が好きなのかって聞いてるの!

 ロングが好きなの、それともショート?」


 何も髪型で人を好きになる訳じゃなし。

 結局の所、人が先に来てその人に似あう髪型は

 なにそれって言うのが本来のあり方だと思うけれど……。


 そうは言っても「ショートが好き」なんて言おうものなら、

 今すぐにでも髪を切りだしかねない雰囲気すら漂っている。

 しかし、「ロングが好き」と言えば心は傷つくかもしれない。

 真に恨みを持たれるおまけつきだ。


 どっちなのよ!

 どっちが好きなの?


 と半ば意味が取り違えられているような詰問になりつつあるのを、

 頭を抱えてやり過ごす。


 徐々に声量が大きくなる声に耐えながら、

 自分の髪の毛を掻き毟って考えて……閃いた。


「僕はおさげが好きなんだ! 髪の長さは関係ない」

 どうだと言わんばかりに宣言した。


「知枝、ちょっと髪留め貸して」

 知枝は不機嫌そうに口を尖らせたまま、ツインテールを崩した。

 受け取った髪留めを使って、心に髪の毛の房を2つ作ってあげる。


「ほら、かわいい」


 心をソファーから立たせて、みんなの目の前でしゃんとさせる。

 余り髪は長くないが、結えないほどではなかった。

 所謂、ピッグテールの出来上がりである。


「心、すっごく可愛いよ!」

 真はソファーから立ち上がって、

 目を輝かせながら嬉しそうに心の頭を撫でようとする。


 心がその手を俊敏に払った。

「やめて、……髪型が崩れちゃう」


 立ち上がったばかりのソファーに再度崩れる真。

 可哀想だったので、心の片方のテールをほどいて、

 同じように真の髪を結ってあげた。

 サイドテールである。


「真もかわいいね」


 基本的に真心は一卵性双生児なので、

 黙って立っていれば区別がつかないくらいに似ている。


 真は右、心は左にテールを作ってあげることで

 2人がアシンメトリーな感じになった。


 キャラ付もこれでばっちりだ!


 2人を並べて立たせて眺めていると、

 知枝が急にばたばたと寝室へ向かった。

 かと思ったらすぐに戻ってきた。


 手には大きな化粧箱を持っている。


 それでせっせとサイドテールを作った。

 黙ってこちらを見てくる。

 というか、睨んでくる。


「可愛い。すげー可愛い」

 ちょっとした気恥ずかしさもあって、棒読みちっくに答えてしまった。

 もっと感情を込めて言ってあげた方がよかったかなと後悔する。


「ふーん、そう」

 と、知枝は澄まして呟いてから勢い込んで問うてくる。


「片方がいいの? 両方がいいの?

 それとも三つ編みとかの方がいいの、

 どうなの?」


「そんな事を言われても見た事ないし、分からないよ」

「じゃぁ、今決めて!」


 そう言うと、

 持ってきた箱から取り出した道具類を使ってのモデルショーが始まった。


 ご丁寧にウィッグまであるようで、

 「本当にショートでも良いのか」という事を確かめる為に、

 心の髪型を何度もいじくるはめになった。


 そもそも、心はショートではなくミディアムだ。

 ショートでも、セミロングでもない。

 ミディアムなのだ。


 何時間も差異が分からないような微妙な調整を行ったあげく、

 最初の髪型が一番という事になった。

 知枝はロングのツインテールで、心はミディアムのサイドテール。



 お風呂から出てきた心が嬉しそうに髪を結おうとしていたので、

 寝癖が付きやすくなるからとか適当なことを言ってやめさせた。


 ストレートもストレートで好きなのである。

 お風呂上りなどは特に。


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