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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
2章 首輪付きの学園
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誘拐事件

 二見先生の話が終わると、もう昼食の時間をゆうに回っていた。


 話の途中で綾人から電話があり、

 ご飯は先に食べてもらうことにしたので、

 昼食を一人でとることになった。


 一人で食事なんていつ以来だろうか。

 そんな事を考えながら食事をすすめる。


 食べ終わっても、答えは出なかった。

 そのくらい、一緒にいるのが当たり前になっている。


 食堂から寮への帰り道。

 ふと建物の隅に視線をやると藍がいた。

 目の前に赤錆たナイフを掲げて食い入るようにそれを見ている。


 一直線に寮に戻ると、大方の家具が取り除かれていた。

 すっきりとし過ぎてしまった部屋の中で、

 綾人はソファーに横たわって考え事をしているようだった。


「ただいま」

 おかえり、と綾人は抑揚のない声で言うと、

 また頭の中の会話に戻ってしまう。


「藍と何かあったの? 難しい顔してるけど」

 さっき挨拶を返してくれたのに、

 たった今気づいたかのように、私を見た。

 余程、思い悩んでいるらしい。


「いや、何かあったというか……説教されちゃった、……かな。

 頼み事があって藍に話をしに行ったんだけど、

 あーいや、それは聞いてもらえたんだけども。

 その後、世間話のつもりで聞いてみたんだ。

 『感情を暴走させないコツとかってあるの?』ってさ」


「ごめん……、私のせいで変な気を使わせちゃって」

 綾人はきょとんとした目をする。


「え、なんで? あ、ああ、そういう事か。

 いや、違うんだ。

 昨日の事が原因とかじゃなくて、

 前からずっと気になってたから聞いてみただけなんだ。

 ほら、藍って暴走したことないだろ? おまけにペアもいないし。

 だから、ついでに聞いてみたんだ」


 藍は私たち特別クラスの生徒の中でも、さらに異質な存在だった。

 なぜか負のパトスしか集めず、ペアも作らない。


 以前はペアを強制でつけられていたけれど、

 「鬱陶しい」と言ってまったく聞く耳を持たなかった。


 それにも関わらず、

 成績は優秀でパトスの暴走を起こしたことが一度もない。

 実力を示すことで、晴れて願い通り一人で活動することを認められた。


「藍は、なんて言ってたの? 私も聞きたいな」

 綾人が黙っているので話を促す。

 ……聞きたいのは、私の本心でもある。


「『自分の選択ミスを感情のせいにして言い訳をするな』だってさ。

 こうも言ってた。

 『暴走なんてない。

 お前が選んだ結果が間違っていただけだ』ってね。

 藍がどうしてあんなにも強いのか、改めて分かった気がするよ」


 綾人が自嘲気味につぶやく。


 羨望、そして自分では届かないという自覚、

 悲しみ、不安、幾多の感情が綾人の中で渦巻いているのだろう。

 当たっているかは分からない。


 でも、少なくとも、私はそういう気分だった。



//



「昨日、連絡した通りですが……」

 という二見先生の言葉でホームルームが始まった。


 全校集会では失踪者は倍の8人に膨れ上がっていた。

 4人とは、生徒の家庭から連絡があった人数でしかなかったのだ。


 昨日が冬休み明けの登校日だったため、

 欠席している生徒を調べあげ、全て洗い出した。

 その結果、数が増えたのだ。


「このクラスからも2人いなくなっています。

 数日前に学園を出たまま戻っていません。

 他の生徒同様に行動履歴も追えない状態です。

 以前いた孤児院に連絡をしましたが、来ていないと聞いています」


 特別クラスの私たちは身寄りがない。

 孤児院からこっちに来ても学園の外に出ることはほとんどなく、

 あったとしても仕事か買い物程度だ。

 買い物だって学園内で済ませてしまえば、一歩も出ることはない。


 だからと言う訳ではないが、

 自発的に学園から出ていく可能性は低いのではないだろうか。


 それに。


「昨日、全てを調べ終えて共通点が発覚しました。

 確定したというのが正しいかもしれませんが……。

 現在のところ、失踪した生徒は全員、前衛です」


 後衛は誰でもできる、とは言わないが、

 学園の役割において重要なのは後衛ではなく前衛だ。

 前衛は犯罪者と対面して交戦をする。


 当然危険な仕事であるから、

 仕事に駆り出される前に徹底して訓練を行うし、

 学園が保管している仮面を適宜与えて基礎能力を強化していく。


 それに引き替え後衛は、前衛の首輪から得られる情報と

 街中に配置された監視カメラの映像があれば事が足りる。

 学園側での教育にかかっているコストは少ない。


 つまり。


「何者か、個人なのか組織なのかはまだ断定できませんが、

 これらの生徒たちは失踪ではなく、

 誘拐された可能性が非常に高くなってきました」


 あるいは、二見先生は口に出さないが、

 殺害されている可能性も高まったことになる。


 学園がやっている事は真っ当な正義だ。

 けれど、犯罪者からすれば、それはそのまま目の敵になる。

 または、同業者の妨害の可能性も捨てきれない。


 なんにせよ、バラバラな日程で大量の(特定の種類の)人間が、

 自ら望んで集団失踪するなんて有り得る話じゃない。

 誰か、あるいは何かが関わっている事は確かだろう。


「内部に犯人がいる」


 二見先生の言葉にクラスは耳を傾けていたが、

 藍の言った言葉に全員が耳を奪われた。

 声は決して大きくはなかったが、その内容に引き込まれたのだ。


「一色くん、それはどういう意味だ?」

 水城先生が問う。

 藍は水城先生を見据えて、嘲笑しながら言った。


「誰がオレを前衛だと分かる?」

 答えになってないじゃない。

 そんな言葉が脳裏によぎりかけて、


「あっ!」

 私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


 クラス内でも二見先生と水城先生をはじめ、何人かが気づいたようだ。

 理解していない前席の真が私の方を見て、

 「なんでなの?」と説明を求める。


「首輪よ。

 誰が前衛かなんて首輪でもつけてなければ、

 学園のデータベースにアクセスできる人間じゃなきゃ判断できないもの」


 藍はペアがいないから首輪をつけていない。

 その藍を前衛だと分かる人間は、藍を直接知っているか、

 学園のデータベースで調べなければ分かりっこない。


「……失踪した生徒全員の首輪が現在どこにあるか調べさせる」

 二見先生はそう言いはしたけれど、既に答えなんて分かりきっている。

 単なる裏付けのためだろう。


 一般の生徒は仕事でもなければ首輪なんてつけない。

 ましてや、これから帰省するはずだった生徒が

 そんなものをぶら下げる必要性なんてある訳がない。


 その日のうちにすぐに結果は出た。

 失踪した生徒の中で、首輪をつけていた生徒は一人もいない。

 すべての首輪が寮内で保管されていると確認された。


 内部犯か、あるいは実際に犯行に及んでいないとしても、

 少なくとも――内通者がいる。


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