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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
2章 首輪付きの学園
13/37

全校集会

 体育館に入る時は靴を履きかえる。


 入口の下駄箱は、人で溢れかえっていた。

 学園は、他の普通の学校と比べれば生徒数は少ない。

 それでも全校生徒が一堂に会するとなると、

 下駄箱が混雑する程度にはなる。


 他のクラスの生徒たちが、

 じろじろと無遠慮に私たち特別クラスの一団を見てきた。


 私たちのクラスは、仕事をするために育てられてきたという性質上、

 学生としての行事にほとんど参加しない。

 特別クラスの生徒は学ぶ為にいるのではなく、行動するためにいるからだ。


 物珍しさもあって、自然と目線が向くのだろう。

 あるいは、嘲笑の的なのかも知れない。


 「孤児院育ちは高待遇で良いな」、

 という言葉を学園内で何度か耳にしたことがある。


 学校内で首輪をつけるのは私たち特別クラスの前衛だけだ。

 いつでも仕事に対応するためではあるが、

 一般の生徒たちからは『首輪付きの奴隷』と揶揄されている。


 首輪は通信機の役割を果たすが、

 暴走した前衛を遠隔で気絶させる機能も持つ。

 それを皮肉っているのだろう。


 普段履くことがない体育館シューズは、汚れ一つなく綺麗だった。

 足を通すのも両手で数えるくらいしかない。


 履きなれないシューズで体育館へ入ると、

 建物の中だというのに空気がひんやりと冷たかった。

 入口の近くに立てかけてあったパイプイスを持って、

 先導された場所に腰を据える。


 私たちのクラスが最後だったらしく、全校集会はすぐに始まった。

 学園長が登壇して話始める。


「既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、

 みなさんに集まっていただいたのは、本校の生徒の失踪事件に関してです。


 帰省予定の生徒がいつまで経って帰ってこないという親御さんからの

 連絡を冬休み中に受けており、まだ解決には至っておりません。

 ご実家へ連絡もまったく無いという不可解な状況となっています。


 これから、失踪した生徒の捜査記録をデータとしてみなさんに

 お配りしますので、何かあれば担任の先生を通じて情報提供を

 お願いします。

 また、みなさん自身も身辺には気を付けるよう留意してください」


 大げさな話だな、というのが素直な感想だった。


 冬休みというのは一つの区切りなので、

 帰省してそのまま学園に帰ってこない生徒はいくらでもいる。


 親に対して心苦しい生徒は、

 連絡もせずにそのままどこかいなくなる人も少なくない。

 連絡がないのは、まだ心づもりがついていないだけなんじゃないだろうか。


 こんな事は毎年の恒例行事みたいなもので、

 「脱走」、と呼ばれて揶揄されている程だ。

 学園の事を監獄と皮肉る生徒が多い。


 私たち孤児育ちにとっては馴染の深いものだが、

 校内に張り巡らされている監視カメラの量に窮屈さを感じているのだろう。


 そんな事をぼんやりと考えていると、

 配信されるデータについて説明するために他の教師が登壇した。


「えー、私の方からデータの説明を行います。

 えー、みなさん、えー学園でお配りしている携帯端末を出してください。

 えーデータベースにある『失踪事件捜査ファイル』を閲覧してください。

 えー、サイトの上部に記載されている生徒が今回の事件に、

 いえ、えー事件性の裏付けは確実に取れている訳ではありませんので、

 えー事件だと仮定した場合の話ではありますが。

 えー、被害者の生徒です。

 えー、顔写真も添付しているので頭の中に叩き込んでおいてください。

 えー、この事件、えーもちろん事件と仮定した場合の話ですが…………」


 神経質なまでの「えー」と不自然なまでの再仮定を要約すると、

 こういう事らしい。


 該当の生徒は4人。

 学園の校門をくぐって以降の行動履歴が記録として存在しない。


 つまり、冬休みの間中ずっと公共の機関を使わず、

 買い物もしていないという事になる。

 携帯端末も電源が切れていて、GPSで場所を特定することもできない。


 まだ事件性があるかどうかは不明なので、

 警察などの機関には連絡を入れていない。

 事実確認をしてから協力を要請するとのことだった。


 ……とは言うが、これは建前で不都合な情報をもみ消したいからだろう。


 学園は犯罪者を捕まえる為に存在する。

 大義名分は文句なしだけれど、

 その為に行っている事は全てが潔白という訳ではない。


 グレーではあるが、成果が出ているから黙認されている事柄も多く、

 ちょっとバランスが崩れるだけで面倒な事態にならないとも限らない。


 大げさな話だな、という感想はもうどこかに消え去ってしまった。


 人数は大したことはないが、

 行動記録が残っていないというのが有り得ない。

 これはもうどっからどう見ても事件だ。


 仮に当事者が(学園から脱走したいなどで)望んだとしても

 履歴を残さないためには、第三者が衣食住の世話を焼いている可能性が高い。


 だから、これは事件として扱うべきだろう。

 もし、当事者がもう死んでいるのであれば、

 衣食住を用意する必要はないが当然それも事件である。


 それも、大事件だ。



 全校集会が終わった。

 一クラスごとに順番に退場することになる。

 出口に一番近い私たちのクラスが最初になった。

 教室での諸連絡も既に終わっているので、今日の学業は終了となる。


「藍、話があるんだ。

 今日これから2人で話したい。

 ちょっと時間をもらえないかな?」


 綾人がクラスメイトの一色(いしき)(あお)に声をかけていた。

 藍は同じチームでもある。

 前衛なのに首輪をつけず、他の誰にも気を許さない不良みたいなものだ。


 髪は長くもなく短くもなく、適当にただ伸ばしたという感じ。

 黒を基調とした赤の格子柄のシャツに、黒のスラックスを履いている。

 格好と口調のせいで威圧感があるが、私と綾人と同い年の男の子だ。


 面倒くさい、全身でそう表現しながら振り向いた藍の眼は、

 恨むような、睨むような瞳をしていた。

 そんな視線を向けられても、綾人は柔和な顔で声をかける。


「頼むよ。

 本当に大事な話なんだ。

 藍にも損はさせないからさ」


 数秒間にらみ続けた後、藍はぶっきらぼうに視線をそらして言った。

「ついてこい」


 綾人が私の方に向き直る。

 一部始終を見ていた私は、聞こえていたことを伝える為に頷く。


「私も二見先生のところに用事があるから。

 それが終わったら寮に戻るつもり」


 分かった、と綾人は短く答えると

 既に靴を履きかえて出口へと向かっている藍の所へと急いで駆け寄った。



//



 二見先生の教官室は非常に簡素だ。


 作業机、その上にパーソナルコンピュータ。

 学術書をしまうための天井まで届く本棚が左右に4架ずつ。

 来客のための長机とソファーが2つ。

 これだけ。


 部屋の主はまだ現れない。

 ソファーに座って、昨日の事に想いを馳せる。


 綾人には孤児院の事件の記憶がない。


 正確に言えば、仮面が暴走、いや浸食されていた時の記憶がないらしい。

 綾人は仮面室から私が連れていかれそうになった後からは

 何が起こったのかを覚えていないそうだ。


 孤児院でのあの事件はこういう事になった。


 死傷者は0だが、負傷者は大量。

 ほぼ全ての教師と3人の孤児が重傷になり終わった。


 事の発端は、綾人とノッポ。

 2人の子供が感情を暴走させて争いが起こり、どちらも重傷を負う。

 2人の諍いを鎮圧後、実験体である綾人の暴走を隠ぺいするために

 秘密裏に仮面を奪取、独房に入れることを画策する。


 その事に怒りを覚えた私が暴走するが、すぐに鎮圧された。

 この際、院長により発砲騒ぎになっている。


 元々、孤児院の非倫理的なやり方に不満を覚えていた教師が

 この件で立ち上がり、職員室にて院長側と対立した。

 その末、互いに暴走して争いに発展する。


 保健室でノッポの手当てを行っていた二見先生が戻ると、

 職員室は負傷者による血の海と化していた。


 院側のやり方に日ごろから口を出していた二見先生は、

 残っていた院長派の人間に襲われて、これを返り討ちにした。


 何とも都合の良いでっち上げではあったが、

 少なくともたった一人の生徒が起こした殺戮というよりは現実味がある。


 残った人間と学園にとって都合の良い創作は、

 あっさりと受け入れられ、第4孤児院は閉鎖されることになった。


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