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首輪付きの奴隷 - チートな彼女と僕 -  作者: 桐原 冬人
2章 首輪付きの学園
12/37

真と心 (知枝視点)

 仮面は自動操縦だ。


 切り替えてさえしまえば、

 後は半自動的に身体が勝手に〝目的〟を果たそうと動作する。


 初めはちょっとした小さな感情の欠片でも、

 胸の辺りからどくどくと感情を膨れあがらせて溢れ出す。


 ……そんな事はなんの慰めにだってならない。


 私はスイッチを押し下す。

 その結末を選んだのは他でもない私だ。


 私は確かな意思を持って、綾人を拒絶している。

 そして、排除しようとするのだ。

 私のセカイから。


 後衛(マスター)前衛(スレイブ)

 あるいは、指揮者(マスター)奏者(スレイブ)

 呼び方はなんだって構わない。

 元々の言葉が示す通り、それは主人と奴隷の関係だ。


 奴隷は正常な判断ができない。

 だから、後衛が冷静に判断を下す。

 当然、判断が遅れれば奴隷は性能を十全には発揮できない。

 これもまた当然の話だが、

 直接相対している訳でもないから、判断の遅延はいつまでも付きまとう。


 それを十分承知で、頭に血が上った状態の奴隷よりはマシだとして、

 学園ではペアを組んで役割を分担する事にしている。

 交戦の後、奴隷が暴走したままであれば、主人(マスター)はペアを止める。

 奴隷の標である首輪を使って、傷ついた相方を気絶させるのだ。


 綾人の言う通り、私は誰かの従者(スレイブ)にはなれそうもない。


 孤児院での毎日の生活で、人が傷つくのを見るのは慣れていたはずだった。

 けれど、一度も傷つけられず、傷つけたこともなかった幼かった私は。

 孤児院が崩壊したあの事件で、

 たった一度傷つけられ、たった一度傷つけただけで、

 まったく使い物にならなくなってしまった。


 あんなにも痛いなんて思わなくて、

 それ以上の苦痛を易々と与えてしまう自分が怖くなった。


 もうまともに人に触れることも、触れられることも叶わない。

 壊れてしまわないかと不安で、壊されてしまわないかと恐ろしくて。


 それにも関わらず、誰かに触れられれば私は容易にスイッチを押しこみ、

 暴走する。

 目の前の敵を壊そうとしてしまう。


 誰の言葉も受け付けず、暴走した私を受け止められる人間も存在しない。

 だから、私は主人として恥じないよう理性を保ち続けるしかない

 ……はずなのに。


 朱い男の子が私を追いかける。

 この光景が腐食されない限り、

 綾人を心から受け入れる日は訪れてくれないだろう……。



 翌朝、自分で作った瓦礫の山の中で綾人に謝った。

 摩耗しきった悲しみは、涙を流させてはくれなかった。

 不格好に、大して感情も込められず、ただただ謝罪の言葉を口にした。


 綾人は加害者である私を優しく笑って許してくれる。


 私がそのような純粋さで綾人を恐れずに済む日は来るのだろうか……。



//



 教室へ向かう前に学生課に寄る。


「喧嘩して部屋を荒らしてしまったので、

 壊れた家具を撤去してください」

 綾人が言った。


 あまり正直に話すと私は独房に入れられるかもしれない。

 そう気遣ってくれて、事実だけ簡潔に伝えた。

 業者の人があの光景を見たら、喧嘩どころじゃないと気づくだろうけれど



 教室は空席が目立った。

 まだ時間が早いからだろう。


「あー、兄ちゃん、知枝姉ちゃん。おはよー」

「……おはようございます」


 席に着くと、

 前席の月見里(やまなし)(まこと)月見里(やまなし)(こころ)が挨拶をしてくる。


 2人ともつややかな黒いショートカットに、

 パンダ模様がかたどられた、とんちきなパーカーを羽織っていた。

 下は、冬だというのにショートパンツを穿いて、

 真が黒で心が白のストッキングで太ももまでを覆っている。


 私と綾人も共に挨拶を返す。


「真心は冬休みどうだった?

 何か変わった事はあったかな」

 綾人が口を開いた。

 真と心は双子の姉妹なので、綾人は真心と略している。


 年齢は14歳で、彼らが学園に来た頃からの付き合いがあるためか、

 私たちの事を姉や兄と言って慕ってくる。


「略すなって言ってるじゃん!

 ていうか、会うのだって1週間ぶりだし、特になんもないよ」


 私たちの所属するクラスは特別クラスで、

 この教室に集まっているほとんどの生徒は孤児院育ちだ。

 そのため、帰省する家もなく必然的に寮に残ることになる。

 だから、長期休暇でも学園内でばったりと会うことが多い。


 特に真と心のペアは、私たちのペアと同じチーム

 (4組のペアで1つのチームを組む)

 なので、お仕事があれば顔を合わせたりすることもある。


 真が前衛で心が後衛だ。

 2人は双子という特性上なのか、

 2人合わせた時の能力が特殊なせいもあって、

 まだ中学生なのにClassはDを与えられている。


「心はどう? 何か良いことあった?」

「あっ……特にない、です。

 ごめんなさい」

 心は真の袖を掴みながら、申し訳なさそうな声で言った。


 姉の真に活発さを吸い取られてしまったのか、

 心は引っ込み思案でいつもおどおどしている。

 綾人だから返答しているようなもので、

 知らない人間相手だと怖がって何も喋らない。


「兄ちゃん、心をいじめんなよ」

「わたし、……お兄ちゃんにいじめられてないよ」

「だってさ」

 綾人が心の頭を撫でる。


 触れられる際に多少びくついたが、

 髪を撫でられる内に徐々に表情が和らいでいく。

 小さな猫みたいに。


「兄ちゃんはどうなのさ。

 何か変わったことあったの?」


「変わったこと? なんかあったかな。

 ふわぁ。

 ……ああ、昨日仕事があったんだけど、

 捕まえた犯人がすごく強かったよ。一般人なのに」

 あくびを噛み殺しながら言う綾人。


「なんだよ、だっさいなー。

 相手が強かったんじゃなくて、兄ちゃんが弱いからじゃないの」

「そんな事ないよ。

 ねぇ、知枝?」

「……私はちゃんと対応できてれば苦戦なんてしなかったと思う」


「そうかなぁ。

 だって、どこにも所属してなかったんだよ? あの人。

 訓練もしてないのに、2種類も使いこなしてたんだよ、仮面。

 おまけにパトスの能力化もしてた」


「そんなの珍しくないだろ。

 最近、よく聞くじゃん。

 その程度なら」


「いやー、僕はあんなの初めてだったから驚いたよ。

 冷や汗でまくりだった。

 1回、まともな障壁も張れずに思いっきり蹴りくらわせられたし」


「お、お兄ちゃん! ……大丈夫だったですか?」

「まぁ、生身でくらったわけでもないし、

 結果的に大したことなかったよ」

「よかった……」


 会話をしている内に、時間は過ぎて次々と生徒が集まってきた。


 けれど、空席が完全には埋まりきらない内に担任の二見君子先生と、

 副担任の(みず)()俊彦(としひこ)先生が入ってきた。

 2人とも、カジュアルなスーツの上に白衣を羽織っている。


 二見先生は空席を見渡して、話しを始める。


「おはようございます、みなさん。

 冬休みも開けたということで、と言っても、

 みなさんの生活は対して変化がないでしょうし、

 本来なら本日はただの業務連絡で終わる予定なのですが……。

 冬休み中に問題が起こりまして、これから全校集会が開かれます。

 重大な連絡がありますので、みなさんにも参加していただきます」


 その後、冬休み中の犯罪件数や対応したチーム、その他、

 今後の仕事に役立つと思われる情報の共有が行われた。

 そんなやり取りを15分程度した後、クラス全体で体育館へと向かう。


「知枝、昨日の事件についてまとめてレポート提出よろしく」

 二見先生は私にそう言って、近寄ってきた。


「はい」


 私は少し迷ってから、二見先生に言うことにする

「今日ちょっと相談があるので、

 終わったら教官室に行ってもいいですか?」


 二見先生は少し考える素振りを見せた後、

 「ああ、もちろんだ」と簡潔に同意した。


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