battery
「テオさん……起きてくださいよぉ~」
寝ずの番と決めていたがいつの間にかうつらうつらとしてしまっていたらしい。俺の早朝の安眠が、少女の眠た気な涙声によって破られる。
ぼやける視界を細め、無理やりピントを合わせると、今だ朝になり切らない灰色の空をバックに、涙を大きな目に一杯浮かべたオリガの姿だった。
「……どうした?」
「なんだかわからないんですけど、森の中が騒がしいんですよぉ……!」
そう、声を詰まらせながら俺にすがってくるオリガ。
……あまり、知らない男に無防備にしすぎないようにいってやらないとな……。
と、そんな事はどうでもいい。確かに、オリガの言うとおり、森の中全体が騒がしいように思える。
ち……やっぱり、昼間の魔物の死骸からもう少し離れたところに野営するべきだったな。
俺は眉根を寄せながら考えた。
何故だかしらないがオリガは俺に抱きついた状態で再び眠りについたようだ。まったく、どんな神経してやがる。
……考えられる原因は二つか。
1つは、人間が魔物の死骸を回収しにきたか、もう1つは魔物を食べる魔物が現れたかか……。
前者も厄介だが後者となるとより面倒な事になるな。
あの魔物は“ナイト”だった……だとすれば“ポーン級”が4体は居てもおかしくはない……いや、夜だからそれ以上か。
「っち……予定より速いが、もう出発するか……」
と、俺はここで重大な問題に気がついてしまった。
「……こいつ、どうしよ」
俺の視線は、俺の腹を枕にして寝息をたてるオリガに注がれた。
「ちぃ……やっぱ、思ったとおり、魔物……しかも、“ポーン級”が8体かよ」
俺は、背中に背負うオリガを抱きかかえ直すと、魔物たちに気がつかれないようにその場から走りのいた。
目指すは麓の街、夜通しかけて走り抜ければ到着できないことはないはずだ。
……なるべく、背中の少女を起こさないように、俺は再び静かに抱え直した。