betray
俺は気まずく重い気持ちを抱えながら日の沈みつつある海岸線をオリガと共に歩いていた。紅の沈み行くかなしい残光に胸が締め付けられる。あと丸一日後にはオリガをタレイアの、エンゲル商会のものに引き渡さなくてはならない。
マリーの宿屋を出てからこれまで、脳裏を掠めては消える焦燥だった。オリガを失うかもしれないという、焦燥。
気がつくと俺たちはリンポート最西の岬にたどり着いていた。景勝地としても名高いリンポートらしく、こぎれいな浜を見下ろす美しい岬だった。嫌味でない程度に人の手が入っているところを見るときちんと管理されているのだろう。
岬から真正面を見据えるように朱の光が照り映える。おそらく俺たちの背中側ではそろそろ星が見え始めているだろう。一方目の前のオリガは髪の毛を赤く透かせながら海を見つめているようだった。
残光の溶ける海原を一陣の風が舞って漣を立てる。そのまま俺たちに潮の香りを運んだ風は街の方までとおりぬけていく。
「テオさん、わたし、ここ最近の旅でわかったことがあるんでです」
風の音が止むか止まないかのうちにオリガの声がポツリと聞こえた。
「わたしがタレイアの家から飛び出したのは、自分を変えたかったからなんです」
日は徐々に、しかし素早くその茜色の光を濃く染め上げていく。
「でも、逃げ出した先でテオさんと出会って、結局テオさんに甘えて……そのせいで何度もテオさんを傷つけました」
「ッそんなこと……!」
「わたし、そんな自分が本当にイヤなんです! このままの自分じゃイヤなんですッ! わたし……テオさんのことが好きなんです!!」
――それは、魂を震わすような絶叫だった。いつの間にか俺へ向き直っていたオリガの眼からは涙がながれ、頬を濡らしていた。それは沈み行く夕日の最後の残光に照らされ、何よりも美しく見えた。
「オ……リ、ガ」
喉から血が出るような絶叫を受けた俺はそれ以上言葉を続けることが出来なかった。それは今まで表されることのなかったオリガの心の発露なのだろう。今まで封じ続けてきて、ついに蓋をしきれなくなったオリガの激情。
「わたしは、変わろうと言いながら逃げていただけでした。今度こそ、逃げずに戦ってみます……!」
誰とかと聞くよりも先に俺の愚問の応えは示された。
「自分自身と……!」
しかし、翌朝、オリガは忽然と姿を消していた――




