One true time I hold to
小さな音をたてながら、薪が燃える。夜の闇に支配された森の中の、俺たちがいる一角を煌々とてらしながら。
「あの……改めて、昼間は助けていただきありがとうございました……」
俺は……いや、俺たちは今ふもとの街へ行くために森の中で野宿している。
俺一人ならば少なくとも日が沈むまでにはたどり着けただろうが……まあ、壊れやすい荷物を扱っているのだと思えば諦めがつくな。
「いや……気にすんなって、助けたのは俺のかってだし、無視できるほど俺だって大人じゃないしな」
と、俺は火を絶やさない様に薪を弄くる……振りをしながら少女から目をそらしていた。
何故かって? ……そりゃあよ、この子がよ……あんまりにも無抵抗すぎるからだよ!
俺は視線をなるべく下に下げて少女のほうを見ない様にしているがわかる。
明らかに俺の事を見ている。しかも……あの、夕時に自己紹介してきた時の……あの時の綺麗過ぎる目で。
「…………あの」
暫くの気まずい――少なくとも俺はそう感じた――沈黙のあと、少女が口を開いた。
「……なんだ?」
視界の端で少女の長い、柔らかな茶髪が揺れるのを感じつつ、なるべく愛想よく答えようと務める。
が、如何せん“女”っていうイキモノとは話し慣れていない。昔師匠が言ってたな。オンナってのは怖いんだって。
「あの……テオさんは、半竜人なんですか?」
……なかなか、深いところをついてくる質問だな、おい。
テオ、それが俺の名前だ。母さん、ニンゲンの母さんがつけてくれた、ニンゲンの世界ではありふれた名前だ。
本来、こんな名前をハーフとは言え竜人につける親なんていうのはほとんどいない。
だから、この少女は戸惑っているんだろう。俺が、昼間に見せたあの光景と一緒に。
「……ああ、そうだ。俺は半竜人だ。ニンゲンの母親と、竜人の父親でな」
うーん、これ言うのって実は師匠以来じゃないか? ……て、ことは十年以上ぶり、てことか。どうりで懐かしくかんじるわけだ。
俺の言葉に何をおもったのか、再び好奇心の雰囲気を濃くする少女。
ちらり、と視線を上げれば爆ぜる炎のせいだけではなく、目をキラキラと輝かせている少女と目があった。
「竜人のお父さんですか……」
「――ああ」
ほう。と夢見るようなため息をつく少女。どうやらこの子は思った以上にメルヘンな思考回路の持ち主らしい。
……竜人の父親。
少女の夢を壊すようだが、俺はほとんど父さんの事を覚えていない。
覚えているのは、家の出入り口から、狭そうに出て行く鱗の生えた大きな背中くらいだ。
あとから、師匠に聞いた話した話だと、父さんは俺が4歳の時におきた戦争で傷を受けてしんでしまったらしい。
竜人は身体中を覆う鋼の鱗が鎧の代わりになるが、一度傷を受けてしまうと中々治らないのだ。
多分、それが元で父親は死んだんだろうと……。
「……母は、タレイアの貧民街出身だときいた」
とはいっても、どう考えてもあの人貧民街の出身じゃないだろ、て言いたくなるようなことは山ほどあったけどな。
……まあ、そんなことはともかくとして。そんな二人から何故俺が生まれたなんてことは想像がつかない。
「そうだったんですか……」
ふと、顔を上げれば再び少女の目は夢のなかをさまよっている。
おそらく、少女の頭の中では貧民街の少女と、里からなんらかの事情で追い出された獣人との恋物語が構築されているにちがいない。
いや、まあ、実際その通りなんだろうけどさ。
「はぁ……まあ、そろそろ寝るぞ。明日は早いうちに出発して、森を抜けたいんだろ?」
俺はそういって未だ夢を見る少女に声を掛ける。
て、おもったらまじでねてるじゃねーか。
……はあ、マイペースな奴。
橙色の炎に照らされた少女の寝顔を覗き見てため息を着くと、俺は炎が消えないように胡座をかいた。
普段であれば火を消したとしてもこの辺の野生動物に襲われることはまずないだろう。
だが、今回はこの少女のこともある。万が一のために寝ずの番ををきめた。
「生き地獄だ……」
たとえ、太ももを少女の枕代わりに使われたとしても。