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Date a lament!


 人間と獣人との間に生まれた子供は、その力に驕おごり、人の心を忘れる事を“覚醒”という。


 そして、“覚醒”を迎えたハーフたちは、その強さや、獣人の親の種族によって、4つのランクに振り分けられる。


 小型草食系獣人を片親とする最弱のポーン、大型草食系から小型肉食系のビショップ、大型肉食系の対外的には最強とされるクイーン。


 しかし、百年に1度生まれるか生まれないか、絶対数は限りなく少ないが、それら3種をはらかに超越する、竜人と人間のハーフの“覚醒”……“キング”!


 地上最強の戦闘能力を持つ竜人と文明をもった人間との間の子は、“覚醒”すると、この世に災いを齎す存在として、生まれ変わる……


 存在することすら、許されないものとなって……







 「テオ……さん、あれ……」


 後ろ背に隠したオリガから怯えた声が聞こえる。


 正直、俺だって震えたい気分だぜ……


 俺は、さっきドワーフのおっちゃんに助けられ、冷静に成った頭で思考する。


 ちっ……あんとき助けてもらえてなかったら、俺もああなってたな、多分。


 その俺を助けてくれた恩人は、今は殴られて庭の端っこにぶっ飛ばされている。師匠も同じだ。


 俺はその折り重なって倒れる2人のオヤジの姿を横目で捉えて、ふと苦笑した。


 不謹慎だということはわかっているが、2人の体はやたら頑丈だ。多分大丈夫だろう。


 問題は、オリガとマリーだ。


 オリガの方は多少青い顔をしているようだが、まだ喪心していないようだが、マリーは多分目を開けたまま気絶してる。


 でも多分理由は師匠がボコボコにされたからでも、最強種の魔物が現れたからでもない。


 ……俺は、今や戰いの舞台となってしまった庭を見渡した。ついさっきまでかかっていた洗濯物、踏み荒らされた緑や花。


 ここは、マリーが丹念に丹念に磨き上げてきた粗末な庭だ。だと言っても俺もマリーも気に入っていた。


 「ふぅ……オリガ、ちょっと、待っててくれ」


 「て……テオさん?!」


 俺は、別に、ついさっきまで世界征服だとか言ってた奴の野望を阻止する正義の味方のつもりはない。


 むしろ、生まれて初めて会った、俺と同じ半竜人の境遇に理解と同情すらある。


 それでも……


 「家族を……仲間を傷つけられて黙ってられる程、俺は人間出来てねぇんだよ」


 再びふつふつと怒りの感情が湧き上がってくる。その激しすぎる感情を制しながら、目の前でついに“覚醒”を終えたキング級の魔物を見据え、過去を振り返った。


 師匠の教えは常に実践実施にあった。つまり勿論、魔物を学ぶという事も、座学以上に戦わせられる方が多かった。


 対外的には最強だと言われるクイーン級の魔物ですら、どこから連れてきたのか戦わせられる事もあった。


 しかし、そんな中で、唯一座学のみで済ませられた魔物がこいつだ。


 級と扱われてはいるが、ただ一種類のキング。


 それが、俺も含めて全ての半竜人の“覚醒”した姿だ。


 「オリガ、お前はマリーの所へ行って、空きがあったら2人で逃げろ」


 最早、先程までの醜い竜人の姿でも、法衣に身を包んだ聖職者の姿でもない。


 歪な鱗に全身を覆い、ふたまわり以上大きくなった魔物から目を離さず、俺はいった。


 実際、見ることすら初めてだが、“覚醒”した半竜人のスピードは“覚醒”前とは比べものにならないという。


 目を離せる様な相手じゃない。


 「そんなっ……テオさんを置いて逃げるなんて……!」


 「俺はっ……! お前達を護りながら戦える程……お前達が傷つくかも知れない事を心配しながら戦える程、器用じゃねーんだ!」

 

 俺の出した突然の大声に、オリガの怯える気配がする。魔物も、俺という存在を認知してしまったようだ。


 「いいか、魔物が此方に向かってきたら俺が全力でそれを受け止める、お前は、その時に全速力で走れ、せめて、お前だけでも逃げろ」


 なるべくこれ以上魔物を刺激しないように、声を潜めて喋る。魔物が俺に気づいてしまった以上、これ以上の刺激は望ましくないだろう。


 「わかり……ました……」


 ゴメンな、オリガ


 ……ありがとう。


 その瞬間だった。


 鈍色に変色した鱗を日の光に反射させながら、魔物、グスタフは風の様な速さで走り込んできた。


 「くそっ……! オリガ、今だ!」


 俺も、己の体に流れる竜人の血をもって、全力でその速さに、力に対抗する。


 しかし、俺の足がたった3歩動いた程度で、魔物は俺にぶつかり、その3歩ですらぶつかられた衝撃で巻き返されてしまう。


 だが、俺の竜人の広い視界は、確かにオリガがマリーの元へ辿り着き、マリーと共に逃げた所を見ていた。


 ギリギリと、拳が握りつぶされそうに成る程の握力が、魔物の手に加わる。


 「っぐ……」


 へっ……初めてカタリナとあった時のこと思い出すな!


 だったら、今度も助けててやんなきゃな……!


 全身に力がみなぎる感覚がする。


 竜人の血以上に俺に力を与えてくれる想いが、目の前の厄災レベルの魔物へ挑む気持ちを生んでくれる。


 「しゃっ……どりゃあああ!」


 俺は、全体重をかけてくるグスタフに対し、力の限り、それをはねのけ、一瞬の時間を作ると、もう一回、腕の骨が折れるのではないかという程の力をこめて、グスタフを殴りつけた。


 面白いほどの勢いでぶっ飛ぶ魔物。


 これで僅かだが間合いが取れた。


 ぶん殴ってなお、ほぼタイムラグなく体制を立て直すグスタフ。


 だけど、こっちだって力を込めるには十分すぎる時間だったぜ?

 

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