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knight rhapsody

 「ん……」


 「……起きたか、毎度毎度よく眠るな」


 俺は、あの後神祇官と別れた後にすぐに懇意にしてもらっている宿屋に駆け込んだ。


 本当はオリガが倒れたことを教会の牧師やら医者やらに見て欲しかったのだが、だだでさえ混じり物の俺は教会に近づき難いというのに、さっきのあの騒ぎだ、今更巻き返せないし、医者なんかそもそもこの田舎にはいやしない。


 結局、神祇官騒ぎにも腰を浮かすことのなかった年寄りの宿屋の大女将に診てもらうしかなかった。


 結局、あの大女将(ババア)の出した結論は緊張でたおれたんじゃろ、そのうち起きるじゃろ、いいじゃろ、の三言だけだった。


 それから大体やく20分弱、俺は手持ちギリギリの金で借りた二つ目の――俺の身体からすればとても小さい――ベッドに腰掛けて、オリガの目が覚めるのを待っていた。


 漸く、若草の光が瞳からこぼれる。


 そのことに、どうしようも無く安堵している自分に、目を背けて。


 「テオさん……」


 若干辛そうに顔を歪めながら体を起こそうとするオリガを俺は慌てて制した。


 「お、おい! 無理しなくていい……宿のババ――大女将の話だと、随分精神に負担がかかったらしい。もう少し眠っておけ」


 俺の言葉に、再び硬い枕に頭をうずめるオリガ、柔らかな薄茶色の髪の毛が波打つ。


 と、同時に。


 「ありゃりゃ! これは可愛いお客さんだこと! 本当にテオの唐変木のお連れさんかね!」


 突然、俺とオリガの部屋の薄いドアを豪快に開いて、恰幅の良い中年の婦人が入ってきた。


 元々の赤ら顔に満月を思わせる満面の笑みを浮かべて入ってきた彼女は、ズカズカと、不快ではない無遠慮な足取りでオリガのベッドと俺の中間程度の位置へやってくると、そのふっくらとした手のひらをオリガの額に当てた。


 突然の乱入者の登場に、オリガは驚きを隠せないようで、翡翠色の瞳を零れそうな程見開いていた。


 「おい、マリー、オリガが驚いてるだろう」


 「うん、熱はないみたいだね! 私はマリー! この村唯一の宿屋の、たった1人の美人女将さ!」


 しかし、俺の疲れの溜息とともに吐き出された言葉はあっさりとなかったことにされた。こいつ、絶対わざとやってるな。


 俺がなおも言葉を続けようと口を開くが、それよりも先にマリーの舌が回転する。もしかしたらこいつには舌が二枚あるのかもしれない。その癖嘘をつくのは滅法下手だが。


 「うんうん、顔色もイイし、もう一休みでもしたら大丈夫そうだね! お昼ご飯にはマリーおばさん特製のスペシャルおじやが待ってるからね、腹ペコにして待ってるんだよ!」


 マリーおばさん、ねぇ……たしか、俺がこの村に最後に来た時にはマリーお姉さんだったはずだ。自信満々に言っているが漸く現実を見出したんだろうな……と、それより。


 「マリー、コレが依頼の……」


 俺が、オリガの荷物と一纏めに自分のベッドの小脇に置いておいた荷箱をなるべく慎重に渡した。ある程度しれている仲とは言え仮にも依頼主だ。


 マリーは、荷物を差し出そうとする俺に向かって、突然眼を釣り上げて、指を突き立ててきた。


 な?


 「あんた! 連れの女の子を気絶させるったあどういうことだい! 婆ちゃんからあんたが女の子連れてきたなんて言うから散々期待させておいて、こんな可愛いを倒れさすなんて! 爺ちゃんが聞いたらなんていうかねぇ……」


 っ――師匠!?


 「おい、まさか師匠いんのかよ!?」


 「3日前にね、丁度帰ってきたとこだよ、婆ちゃんが呼びに行ったよ」


 くそっ! この時期はもっと北の方に言ってるはずだったから来たのに!


 俺の脳裏にそんな考えがかすめたその時。


 「かぁーえってきとったかぁ!! この馬鹿弟子があああああ!」


 轟音、怒声と共に、ドアが吹き飛んだ。


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