26話
「帰らなくてもいいの?」
草原の上でルスクと少女は手を握り、横になっている。
日は完全に落ちてしまい、辺りは暗くなってしまった。
横になると夜空に浮かぶ星がよく見える。
「言ったじゃないですか。私は今日、つまり明日まで一緒にいます」
「心配されない?」
「されるでしょうね。でも大丈夫でしょう。お母様ならすぐに私の無事を確認出来ますから」
「そう言うもの?家族って」
そう少女が言うとルスクは苦笑した。
「どうでしょうね。家のお母様は色々おかしいですから」
「あなたのお母さんも龍なの?」
「いえ、自称人間ですよ」
「自称?」
少女は首を傾げる。
「人間だった、と言う方が正しいでしょうか?自分では人間だと言い張ってますが」
「キメラにされたの?」
「違いますよ。ちょっと難しい事情があるんです」
「ふーん」
少女は納得した様な、してない様な顔して言った。
「あたしも欲しいな、家族」
「自由になったらつくればいいじゃないですか」
ルスクは少女の横顔を見て微笑んだ。
「そうだね」
「そうです」
2人の間に涼し気な風が流れた。
その風で草は揺れ、雲に隠れた月がひょっこり顔を出す。
「そう言えば、あなた名前は?」
「名前?」
ルスクが聞くと少女は、不思議そうな顔をした。
「名前・・・・・・考えたこともない」
「名前が無いんですか?」
「うん」
悲しげな表情をして、少女は答えた。
「それなら私がつけてあげましょう」
「いいの!?」
「別にいいですよ。そうですねぇ~」
う~んと、ルスクは唸りながら考えこむ。
「ちょうど月が綺麗なのでルナなんてどうですか?」
「ルナ、それがあたしの名前!?」
かなり安直な名前だが、気に入ったようだ。
「そうです。あなたは今日からルナです」
「ルナ、ルナかぁ~」
嬉しそうにルナは、自分の名前を復唱する。
「じゃーあなたは?」
「私ですか?私はルスクです」
「ルスク、ルナ、ルスク、ルナ、ルスク、ルナ」
何が嬉しいのか、何度も何度も交互に言って「ふふ」と小さく笑う。
「何がそんなに楽しいんですか?」
「だって名前もらったんだもん!」
「そんなに嬉しいんですか?」
そう聞くと大きく「うん!」と、返事をした。
「そうですか・・・」
「へへへ~」
ルスクはルナの頭をそっと撫でる。
「そろそろ今日が終わりますかね」
ポケットから懐中時計を取り出し、ルスクはルナに言った。
「あっ、そうだね」
ルナは立ち上がった。
そして擬態魔法を解くことができ、ルスクに比べると小さな赤い龍が現れる。
「それじゃ、お別れですね」
「うん、あたし色々な物を見て回るんだ!」
「気をつけるんですよ?また捕まっても知りませんからね」
そう言うとルナは飛び立った。
そして別れ際にルナは言った。
「ありがとう、ルス―――――お母さん!!」
その言葉を同時にルナは夜の闇に消えて行った。
「お母さん・・・ですか・・・」
ルスクはほくそ笑み、祭の所へ行くためその場をあとにする。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おかえり、ルスク」
ロウは一人部屋。
祭達は、三人部屋なのでルスクはそぉっと部屋のドアを開けた。
部屋に入ると同時に、ルスクは祭にそう言われた。
祭は部屋に備え付けられているイスに座り、ランプの明かりで本を読んでいた。
隣のベッドでは、ミディアが寝息をたてている。
「龍の子とのお別れはすんだ?」
「本当に、なんでもお見通しなんですね、お母様は」
「でも最後の最後までその子が龍だって気づかなかったけどね」
そう言ってパタンと本を閉じた。
「で、なにしてたの?」
「それはですね」
ルスクは今日の事を祭に全て話した。
「へぇ~そんな事が。ルスクから巻き込まれるなんて中々レアな事件だね」
「そうですね。いつもお母様が中心でしたし」
「それは嫌味?まーいいけど・・・。それにしてもあの子が助けたなんてね」
「お母様知ってたんでしょ?あの子がキメラだって」
「まぁね。出会った頃から気づいてたよ?でもあの子は自分で探して見つける事を望んだしね」
「全く・・・人が悪いですね」
ルスクは苦笑する。
「ま、いいです。どうせ明日はロウが『なんで飯作ってくれなかったんだよ!』ってうるさいでしょうから、明日に備えてもう寝ます」
「そう。それじゃ私も寝ようかな」
2人はベッドに横になった。




