16話
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※誤字修正しました。
「へぇ、じゃー私はアリシアさんの姑になるんだ」
「そっそうなりますね。マツリさん」
「やだなぁ~。お義母さんでいいよ」
ははは~と気さくに笑う祭とは裏腹に、アリシアの顔は笑っていない。
そしてアリシアはシルヴァの胸ぐらを掴む。
「どう言う事だシルヴァ。私は聞いてないぞ」
「当たり前じゃないか、今言ったんだから」
「ッ!それより何故マツリさんが母さんなんだ。百歩譲って妹だろう?」
「そんなの母さんだから母さんなんだよ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「まーまー、アリシアさん。ワケは私が話すからさぁ」
祭はアリシアをなだめる。するとアリシアはスッとシルヴァを離した。
シルヴァは、祭の家族の長男に当たる。
約550年前、木の実を取っていた祭が森で迷っていたシルヴァを保護したのだ。
わけを聞くと、シルヴァはハーフヴァンパイヤだそうだ。本来交わる事のない種族同士が子をなした。
しかし人間の母親は、シルヴァが産まれたと同時に死亡し、父親は自分との混血児を恐れ、逃げてしまった。
ハーフのおかげでヴァンパイヤの弱点である日光を克服しており、ヴァンパイヤの特性である不死性で産まれてからまともに歩けるようになるまでの3年間、飲まず食わずの生活を送っていた。
そんなある日、森に迷いこんだ時に祭に保護されたのだ。
それは当時シルヴァが7歳の時だった。
「いや、その説明だとマツリさんが何百年も生きているみたいじゃないか!?」
「生きてるよ、約800年。正確には833年だけど」
そう言うとアリシアは頭を掻いて考え込む。
「一体何なんだマツリさんは!?その髪じゃヴァンパイヤでも無いし、エルフでも500年が限界。前も聞いたがあなたは一体何者なんだ!?」
「えっとね・・・?話はかなり遡るんだけどさ」
祭は、約800年前の出来事等をミディアの時のように丁寧に話した。
「まさか・・・、そんな事が!」
「歴史じゃあの国は、龍の国とかなり互角でやり合ってから負けたってなってるけど、本当はもう一杯一杯だったんだよ?こんな小さな女の子に頼るくらいにさ」
自重気味に祭は、自分の体を見る。
「結局私もすぐ自由になったけどね。ま、皆と暮らせたりしたし別にいいかな」
「あなたは・・・あなたは怒らないんですか!?」
「怒ったよ?当時は。もう涙も枯れちゃったしね。それに何より」
祭は一拍空け何故か少し怒った顔をするアリシアに言った。
「何より、私の中では楽しい、嬉しい、面白いが大前提なんだよ」
「・・・・・・本当にあなたは大物だ」
「いや~、それほどでも」
照れた様子で祭は、頭をポリポリと掻く。
「それでなんで気づいたの?私の闇魔法は完璧だったはずだよ?」
祭は椅子に座り直していたシルヴァに話しかけた。
「僕は魔力に敏感だからね。母さん、一度街で魔力を『気体』にしたろ?あの時に既に街に母さんがいる事は分かってたんだ」
「あ~、だから気づいたんだ」
「ふふふ、僕をなめちゃいけないよ~」
シルヴァは、イタズラに成功した子供の様な顔をして喜んだ。
「母さん」
いきなりシルヴァはさっきまでの笑顔を消し、真剣な顔で祭を見つめる。
「呼んだのはちょっと忠告?と言うか頼みがあるんだ」
その真剣な眼差しと言葉に祭はゴクリと生唾を飲む。
「母さん、早急にこの国を出てくれないか?」
「? なんで?」
その突拍子の無い言葉に祭は首を傾げる。
「僕はちょっと国の上層部と顔がきくんだ。で、母さんはアーディウス帝国とメイラストール皇国が戦争をしてるのは知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「それじゃ、この国がアーディウス帝国と同盟を組んでるのも知ってる?」
「うん、知ってるよ。で、それと私がこの国を出るのがどう関係あるの?」
「僕が独自に調べたところ、母さん、グレンデルの討伐、誘拐犯の再起不能化。色々やったみたいだね」
机の引き出しから書類を取り出し、シルヴァは言った。
「単刀直入に言うよ。国は母さんを欲しがってる」
「へ?なんで?」
「戦力になるからさ。母さんを戦地に送り込んでアーディウス帝国に恩を売りたいんだよ」
「えー、めんどくさい・・・」
祭は嫌そうな顔をした。
が、シルヴァはまだ真剣な顔をしている。
「事態はそう単純な物じゃないんだ。母さんと姉さんはいいかもしれないけど、ミディアさんだっけ?あの子を人質に取られたら母さん、行くだろ?」
姉さんとはルスクの事だ。
「行くよ」
何の思考もせずに祭はそう答えた。
「それが問題なんだ。多分それで戦争に勝ってミディアさんが無事に帰って来ても母さんはこの国を許さないだろう?」
「だろうね。きっと潰す」
「だから早急に出て行って欲しいんだ。この国の為に、僕に出来た家族の為に」
そう言われて祭は腕を組んで、しばらく考え込んだ。
そしてまたシルヴァの方を向いて言った。
「分かった」
「ありがとう、もし戦争が終わったらまた遊びに来てくれないか?」
「はいはい、それまでは大人しくしとくよ」
背を向けたまま手をひらひらと振って、祭は校長室を後にする。
しかしそれが結果として、あんな事になるとは誰も予想はしていなかった。
「ルスク、ミディア、帰るよ」
授業中だった1―4の扉を開けて、生徒の視線を浴びながら祭は言った。
「は?それはどう言う・・・?」
「・・・なんで?」
「理由は歩きながら話すから、急いで支度して」
「? 分かりました」
首を傾げながら、ルスクとミディアは帰り支度をする。
「それじゃ皆さん、さよーなら」
そう言って祭は教室の扉を閉めた。
「マツリ、一体どう言う事です?」
授業中の為、誰も居ない廊下は3人の足音が響く。
「ちょっとこの国から出ていかなきゃいけない用事が出来たんだ。あっ、そうそう、2人に合わせたい人がいるんだよね」
その日は、ミディアにシルヴァを合わせ、そして訳を話してから宿に戻った。
この日、登校1日目にして祭達の学生生活は終わりを告げた。
学園編を期待していた人には申し訳ありません。
ちなみに学園編はどこかで再開させるつもりがあります。
前回の話で何故シルヴァが祭の事を見破ったかについてですが、あれは、人事担当の者に掛かっていた闇魔法を起こすエネルギーである、祭の魔力で見破ったのです。
10話の時点でシルヴァは、魔力だけで祭が王都に来ている事に気づいていました。これは、祭の魔力に敏感だと言いたかったのですが不備があり申し訳ありませんでした。
魔法の定義や制約が分からないと言う物もありましたのでそれは、作者の脳内設定をまとめて、後日投稿したいと思います。




