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魔女と呼ばれた私の不本意な救世行脚  作者: 津々浦 うら


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大きな針の修復



夜の帳が町を包み始めた頃、一行は再び、先程の町に戻ってきていた。急な雨に襲われ、出発を明日に伸ばしたからだ。

宿屋にて地図を広げ、その地図の東側には確かに赤い印だけが記されている。

「この森に行く途中にいくつか村があるようじゃな。」

コツコツと自慢の蹄でミトンが地図を叩いた。

「これって星屑の欠片なんでしょうか?」

「その可能性もある、調べるしかないだろ。…休息は大事だ。早く寝ろ。」

ゼロスがベッドに腰を下ろした。

「でも、あの時計塔直した後も気になることがあるんだ。」

イチルがふと、窓の外に目線をやった。

彼女の視線の先では再び規則正しく時を刻む時計塔が月光に照らされていた。

「ふむ、イチルはなにがきになったんじゃ?」

「うーんなんて言うんだろう…時間を取り戻したというのに……塔の中心部に残ってたあの不思議な魔力痕?みたいなのがあったような気がして。」

イチルの言葉にゼロスが眉を寄せる。

「詳しく話せ。」

「なんていうか、感覚ね?感覚なんだけど、直してた時感じたんだ。回路の隙間?に星屑特有の痕跡があった気がして。」

「まさか今回の星屑の欠片はここで起きた現象と関連があるのか?」

一瞬沈黙流れたかと思えば、ゼロスの低い声がそれを破った。

「偶然とは思えないな。明日森から調べてみるぞ。」





一行はまず町外れに佇む古い書庫を訪れた。そこでは代々時計師の系譜を持つ老人が暮らしている。書庫の奥深くで埃にまみれた古文書を調べていると、驚くべき記述が目に留まった。

『魔星の時代:時間軸に歪みが生じた際、星屑が時空結節点に降り注ぐ。通常の星屑とは別種の「時晶石」は永久に時間を固定する力を持つ。また時晶石はとても稀で、発見には時晶石を持ち、石どうしを引き合せる必要がある。』

「時晶石……?」

「推測じゃが…時計塔の中心部にあった奇妙な魔力はそれかもしれんのう。」

「でもまだ完全には理解できないなぁ、本当にそんなものがあるの?」

パラパラとイチルがページをめくる。読み進めていくと、一ページに目が止まった。

「『時晶石は持ち主の時間感覚を侵蝕し永遠に同一の瞬間に閉じ込めうる』だって。」

ゼロスが険しい顔で立ち上がる。

「その核に星屑が干渉したのかもしれん、すぐ東の森へ向かうぞ。」

「うん!でもその前に…」

本を閉じた彼女は窓辺に歩み寄り外を見渡す。時計塔の針は規則正しく動き続けているのに塔の上層部だけが微かに虹色に輝いている。

「あれか。」

ゼロスが即座に察した。

「町長さんに話してくるね、ゼロス着いてきてくれる?」



夜明け前。一行は東の森へ向かう準備を終えた。荷物を背負い門を出ようとしたその時──

「お待ちください!」

町長が息を切らせて駆けてきた。手には小さな箱。

「先程はありがとうございました、お二人が気づいて下さっていなければまた同じことが起こるところでした。これは先程塔の清掃時に見つかったものです。あなた方に託すべきと思いました。」

箱を開けると中に星屑の半分ほどしかない小さな結晶があった。淡く脈打つその輝きは間違いなく──

「時晶石…。」

「危険なものなのでは?」

町長が不安げに尋ねる。

「この町にあるよりは安全だ。それにこれがあれば森にあるだろう時晶石を正確に見つけることができるからな。」



感謝の言葉と共に町を後にし東へ。街道を抜け深い森へ入るにつれて木々の間から青白い光が零れ始めた。地面に点々と落ちた結晶の欠片が月光を反射している。

「うん、時晶石が反応してる。この通り道みたいだね。」

すると突如ミトンが立ち止まった。

「臭うぞ……! この先に大きな魔力の塊がある!」




森の奥深くで一行が発見したものは想像を超えていた。巨樹の幹に埋め込まれるようにして蒼白く輝く結晶体。それは塔で見た時晶石の欠片と瓜二つだった。しかし倍ほどの大きさがある。

「これが本体か……」

ゼロスが刃を鞘に納めながら慎重に近づく。

「森全体の魔力バランスが崩れている。この結晶のせいだ。」

結晶表面には細かい傷跡が幾つもついていた。誰かが故意に干渉しようとした形跡だとミトンが言う。

「狙われているってこと?」

「可能性はあるのう。時を操れる道具など悪用したい者は山程いる。」


パキ…


突如結晶の表面が波打ち始め辺りに歪んだ光が走る。空間そのものが引き延ばされ時計塔の針を思わせる魔力の波動が渦巻き始めた。

「逃げるぞ!」

ゼロスが叫ぶが、遅かった。ミトンが突然石のように硬直し時間を失ったかのように動かなくなる。続いてイチルの足元から徐々に時間が抜け落ちていく感覚を感じた。

「イチル! 急げ!」

ゼロスが腕を掴むが自分自身も膝から下の感覚が薄れていく。結晶を中心に半径十メートル以内が完全に時間停止フィールドとなったのだ。

「このままじゃ全員……!」

イチルが必死に抵抗するが体が鉛のように重く動かない。

「冷静になれ。お前のその審判の目で弱点が分からないか?」

ゼロスの声だけが正常に聞こえる。

「やってみる!」

一度目を左手覆い、確認すると、光っている箇所が二箇所見えた。

「ゼロス!見えた、ウィンドアロー!」

カキンとか細い音が鳴っただけで、石には小さな傷しかつけることができなかった。

するとゼロスは僅かに動く左手に魔力を宿し、小さな炎を放った。イチルの付けた小さな傷を狙うと、石が二つに割れた。

「いまだ!星屑を引き抜け!」


イチルは最後の力を振り絞って結晶の核に刺さっている星屑の欠片へ手を伸ばす。指先が触れると凄まじい吸引感。全身の時間を奪われる恐怖の中で藻掻いていた。

『時間を守れ…。』

頭の中に突然声が響いた。それは結晶そのものが発する訴えのように感じた。

「分かった…!絶対守るから!」

次の瞬間、眩い光が破裂する。破壊したはずの時晶石は核を取り込み元通りになっていた。イチルの手の中には、煌めく星屑の欠片があった。

ミトンが突然動き出し咳込んだ。

「何が……? 我輩は眠っていたのか?」

「時間が止まってたの。」

「だが核は封印できたし星屑も回収できた。きっとこれ以上悪用されることもないだろうな。」

結晶は依然として蒼白い光を放っているものの先ほどまでの暴走は収まっている。時晶石にはミトンが結界を施し一行は森を後にすることにした。




「じゃあ封印するね。」

パラパラと絵本をめくるととある一ページに星屑が吸い込まれて行った。時計塔を眺める人々が笑顔で映っているページだった。空には星が一つ輝いている。

「ふむ、イチルよここに書いてある文字が読めるか?」

ミトンが蹄で指した場所には小さく文字が書かれていた。

「サブ…シスト…?」

イチルが呟くと、ゼロスの動きが完全に止まった。びっくりしてパチクリと目を見開き、すぐに瞬きすると、ゼロスは再び動き出した。

「こ、これは…なんともやばいっぽい技じゃのう…。」

「俺今止まってた?」

「ごめん!!!」

「お前なあ…いい加減に「サブシスト!」…おい!」

ごめーんと笑いながらいうイチルを見て、ゼロスはため息を吐いた。



「…次の目的地は?」

ミトンが地図を拡げる。

「北の方で『時間の狭間』と呼ばれる領域が噂されておる。そこには巨大な時晶石があるとも。」

夜空には無数の星が煌めいている。星屑探しの旅は続くが今は一つ確信できたことがある。

自分たちの行動は誰かの時間を取り戻し未来を繋いでいるのだと。イチルは胸いっぱいに清々しい思いを抱きながら星空に向かって拳を握った。

「それじゃ、行きますか。」

ミトンとゼロスが無言で頷き三人は夜闇の中歩き出す。彼方で時計塔の鐘の音がかすかに響いていた。



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