第三十二章 その二 ゲーマインハフトの逆襲
夜になった。
ゲーマインハフト軍の装甲車部隊は、レーア達のいる地下基地の近くまで来ていた。戦闘機は補給のため、東アジア州の最前線基地に帰還していた。
「どうやら、我々がここに来る事がわかっているらしいね」
ゲーマインハフトは赤外線暗視スコープで辺りを見渡しながら言った。部下が、
「どうしてですか?」
ゲーマインハフトはその部下にスコープを渡し、
「地面を見てご覧よ。赤外線の放射がまだらになっているだろ? あれは土を掘り返した証拠さ。地表の土と地中の土とじゃ、赤外線の吸収量が違うからね」
「なるほど。だから夜を待つために装甲車でわざわざ黒海を迂回したのですね」
ゲーマインハフトはニヤリとして、
「それもあるけどね。連中の出方を見ようと思ったのさ。思った通り、地雷を埋めたよ」
「どうなさるのですか?」
部下が尋ねる。ゲーマインハフトはスコープを部下から受け取り、
「危険を冒すのは好きじゃない。ここから、奴らを攻撃するよ」
「しかし、この距離では、ジャッカルしか使えません」
ゲーマインハフトは高笑いして、
「ジャッカルで地雷を叩くんだよ。その上で地下入口に接近し、モグラをいぶり出すのさ」
部下達はポカンと口を開けて立っていた。ゲーマインハフトは通信機に、
「地表をジャッカルで叩くんだよ。地雷を爆発させ、モグラ共をおびき出すんだ」
と命じた。二十台の装甲車から、何十発もの地対地ミサイルであるジャッカルが発射された。ジャッカルは地表に命中し、敷設された地雷を誘爆させた。壮絶な火炎と煙が夜空に舞い、地面に轟音が響いた。
「うわっ!」
地下室で仮眠をとっていたレーア達は、震動で飛び起きた。ナスカートが毛布を投げ飛ばして、
「敵さんが地雷源に入ったのかな?」
「かも知れないな。潜望鏡で見てみよう」
ディバートが言って立ち上がる。レーアはカミリアに、
「でも今の震動、ちょっと変じゃなかった?」
「そう?」
カミリアは首を傾げた。
「第二波、攻撃開始!」
ゲーマインハフトが命令する。再びジャッカルが何十発と発射され、地面に命中し、地雷を誘爆させる。
「ああ、奴ら、地雷をみんな吹っ飛ばしているぞ。どうしてわかったんだろう?」
ナスカートが潜望鏡を覗きながら言った。レーア達は立ち上がった。
「わっ!」
潜望鏡にジャッカルが命中し、ナスカートは思わず尻餅をついた。その直後、スコープがパリンと割れて破片が飛び散り、煙がモワッと出た。ナスカートは立ち上がりながら、
「畜生、これじゃこのまま地下に閉じ込められてやられちまう」
レーアとカミリアは天井を見上げた。パラパラと砂埃が落ちて来る。ジャッカルの攻撃は止む気配がない。
「ハハハ、これで勝ったよ」
ゲーマインハフトは得意満面でいた。すると部下が、
「本部から緊急連絡です」
「何だい?」
ゲーマインハフトは苛ついて尋ねた。部下は恐る恐る、
「基地がパルチザンの奇襲を受け、大打撃を受けたそうです」
ゲーマインハフトは蒼ざめた。
「何だって!? すぐに他から救援を差し向けさせな」
「ところが、他の基地も同様に奇襲を受け、救援どころではないようです」
「……!」
ゲーマインハフトは歯軋りした。
「急進派め、味な真似をしてくれたね」
彼は舌打ちして、
「仕方がない。本部を潰されたら、大帝に申し開きができない。空軍を最前線基地から一足先に行かせて、我々も戻るよ。間に合わないかも知れないけどね」
「はい」
ゲーマインハフト軍は攻撃を中止し、ゲーマインハフトの装甲車を先頭にして帰還を開始した。
「どうしたんだ?」
ディバートが天井を見上げた。震動が止み、静寂が訪れていた。ナスカートが、
「また罠か?」
「様子を見てみよう」
ディバートが言うと、レーアが、
「危ないからよしなさいよ。もし罠だったらどうするの?」
「大丈夫。ちょっと外を見るだけだよ」
ディバートは階段を駆け上がる。それにナスカートと二人の男のパルチザンが続く。ディバートは地下入口のカムフラージュ用の岩を退けて、外を見渡した。そこには硝煙の臭いがするだけで、誰もいなかった。只装甲車の去る音が、遠くから微かに聞こえて来るのみである。ディバートは、
「本当に行ってしまったのかな?」
「どういう事だ?」
ナスカートも外に顔を出した。するとドラコス・アフタルが、
「わかったぞ。東アジア州で、パルチザンが動き出したようだ。本拠地を叩かれたゲーマインハフトは泡を食って帰還して行ったのだよ」
ディバートとナスカートは顔を見合わせた。
「やったぞ。これでヨーロッパに行ける」
ナスカートが言った。ディバートは頷いて、
「ヨーロッパはこの戦いの勝敗を分けるポイントになる。何としても、解放しないとな」
と呟いた。