第三十一章 その三 カリカント・サドラン捕縛
レーアとカミリアによって岩がどけられ、ディバートとナスカートが通れるようになった。四人はやがてソッと地上に顔を出した。カリカント・サドラン達の装甲車は、沿岸のに爆撃に気を取られていて、レーア達の方を見ている者はいない。ディバートとナスカートは対戦車砲を構えた。するとレーアが、
「待って! 爆撃機に気づかれるのはまずいわ。ソッと近づいて、司令官の装甲車を抑える方が得策よ」
「わかった」
ディバートは対戦車砲を下ろし、外に出た。四人は状態を屈めて、サドランの装甲車に後ろから接近した。ディバートが右手でカミリアとナスカートに左へ回るよう合図をした。ナスカートはカミリアを伴い、装甲車の左側に向かう。ディバートとレーアは、右へと回り込む。サドラン隊は誰も四人には気づかず、花火大会でも見物しているような騒ぎで、黒海の方を見て喜んでいた。
「ハッ!」
ディバートとナスカートが一斉にサドランに飛びかかり、ライフルと対戦車砲を突きつけた。周囲の部下達はハッとして銃を向けたが、
「やめとけ。司令官の頭が、トマトみたいに潰れるぜ」
ナスカートがサドランの顔に対戦車砲を押しつけた。サドランは目を見開いて冷や汗を流し、
「銃を下ろせ」
部下達は銃を下ろした。ディバートが、
「銃を地面に投げろ。ゆっくりとだ」
部下達は言われるがままに銃をゆっくりと地面に投げた。カミリアが装甲車に近づき、
「中に入りな」
部下達は中に入り、扉を閉じた。カミリアは銃を一つ拾い、扉の取っ手に差して留め金にした。
こうして、全部で五台あった装甲車を全て抑えたレーア達は、サドランに通信機で爆撃中止を命令させた。
「全機本部へ帰還せよ。後は我々がやる」
サドランは屈辱にまみれて言った。ナスカートはニヤリとして、対戦車砲を構え直し、
「そうそう、素直が一番だよ。さてと。用済みだから、死んでもらおうかね」
「ひっ!」
これにはサドランだけでなく、レーアもカミリアも仰天した。
「ナスカート!」
レーアが止めようとするより早く、ナスカートは引き金を引いた。ボンという音がした。レーアとカミリアは思わず目を閉じた。しかしそれは空砲だった。だが、あまりのショックにサドランは口から泡を吹き、気絶してしまった。ナスカートはニヤリとして、
「ディバート、こいつを人質にして、ヨーロッパの帝国軍を潰そう」
「ああ」
ディバートは呆れ気味である。レーアとカミリアはムッとしてナスカートを睨み、
「バカ!」
と彼の尻を蹴飛ばした。
「いてて!」
ナスカートは笑いながら叫んだ。
「とにかく、重爆撃機が帰還したのは何よりだったよ」
ディバートが言うと、レーアとカミリアも頷いた。そんな彼等の様子を遠くからゲーマインハフト軍の歩兵二人が監視していた。
「さァ、基地に戻ろうか」
ナスカートが蹴飛ばされてヒリヒリする尻を撫でながら言った。彼はサドランの装甲車の奥で震えていた中隊長を叩き出して縛り上げると、運転席に座った。
「もうすぐ他のパルチザン達が到着する。そうしたら、二班に分かれて、ヨーロッパ帝国軍攻撃部隊と守備部隊を編成しよう。もう一方の帝国軍が気になるからな」
ディバートが助手席に着いて言った。
レーア達は地下入口に戻ると、瓦礫をどけて、ドラコス・アフタル達のいるところへ降りて行った。
「よくやってくれた、アルター君。これで反撃できる」
アフタルは気絶して縛り上げられたサドランを見て言った。ディバートは頷いて、
「とにかく、ここから輪を広げて行かない事には、どうにもなりませんからね」
その時だった。猛烈な震動が地下を襲い、格納庫のあちこちに亀裂が走った。
「何だ?」
一同が一斉に上を見た。ナスカートが、
「重爆撃機が戻って来たのか?」
「いや、違うよ」
アフタルが格納庫の隅のレーダーを覗いて言った。皆が彼の後ろに集まる。
「黒海の対岸から、無数のミサイルが接近して来る。恐らく、ゲーマインハフト軍のものだ」
「えっ?」
再び強烈な震動が地下を襲う。ナスカートが舌打ちをして、
「そうか、あっさり引き上げたのは、そのためだったんだな」
「黒海対岸への攻撃は、こちらからは不可能だからな。断然不利だよ」
ディバートが腕組みをする。レーアは不安そうに、
「どうするの?」
ディバートは彼女を見て、
「もちろん戦う。他にどうしようもないからね」
「……」
レーアは無言で頷いた。