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第三十一章 その二 ミリア・ダスガーバン

「カミリア君、アルター君達に帰還するよう信号弾を撃ってくれ」

 ドラコス・アフタルが言った。カミリアは頷き、銃に信号弾を取り付け、空へと打ち上げた。

 ディバートはその信号弾に気づき、

「戻るぞ」

と他の一隻に合図し、地下入口へと滑走した。その時だった。遂にGGKー818と819の爆撃が開始された。ナパーム弾が火を噴き、たちまちのうちに黒海は火の海と化した。

「畜生!」

 ナスカートは苦し紛れに対戦車砲を撃った。光束が重爆撃機のうちの一機の右主翼を掠め、ふらつかせた。途端に隊列が乱れ、重爆撃機同士が激突してしまった。三機が爆発し、巻き込みも含めて七機が黒海に向かって墜落し始めた。

「やった! よォし!」

 ナスカートは水上艇が揺れ動くのも構わず、対戦車砲を連射した。しかし、重爆撃機は光束を食らってもふらつく事なく、水上艇目がけてナパーム弾を投下して来る。ディバート達の水上艇が火に囲まれ、もう一隻は爆発し、何人かが海中に飛び込んだ。

「ナスカート、飛び込め! 焼け死ぬぞ」

「わかった!」

 ディバート達十人は黒海にダイブした。やがて彼等の水上艇も爆発した。重爆撃機は次第にレーア達のいるところに接近して行く。カミリアと他の三人のパルチザンが対戦車砲を連射した。しかし外装を傷つける事はあっても、貫く事はできず、ナパーム弾の投下は徐々にレーア達に迫った。その時カミリアがハッとして、

「そうだ、投下用のハッチを狙えば……」

 彼女は対空砲塔を動かし、撃った。しかし、なかなか開いたハッチには当たらず、その上それに気づいた重爆撃機が上昇し始めた。

「届かなくなった!」

 パルチザンの一人が叫んだ。レーアは何かいい方法はないかと思案した。

(どうすれば、あの重爆撃機を止められるの?)

「プハッ!」

 ディバート達が陸上に出て、対空砲塔のそばにやって来た。重爆撃機はすでに彼等の頭上に来ていた。

「地下へ!」

 ディバート達はカミリアやレーア達女性パルチザンを庇いながら、何とか地下に飛び込んだ。次の瞬間、ナパーム弾の炎が対空砲塔を包み込み、爆発させた。爆風に煽られながらも、何とかレーア達は地下に逃げ込んだ。

「あの化け物、どうやって落とすか、だな」

 ナスカートが言った。ディバートは、

「何かいい手立てはないかな?」

「一つあるわ」

 レーアが言うと、一同が一斉に彼女を見た。レーアは震動が伝わる地下で、

「敵の司令官を抑えるのよ。今敵はここに気を取られているわ。装甲車に近づくいい機会だと思うの」

 するとナスカートが、

「なるほど。高校の居眠り常習犯のレーアにしちゃ、冴えてるぜ」

「うるさい、ナスカート!」

 レーアは真っ赤になって怒鳴った。ナスカートは苦笑いして頭を掻いた。


 大帝室で、ザンバースはミッテルムが持って来たケラルのアルバムを見ていた。そこには、何枚もミリアの写真があった。

「ドックストン……。貴様はミリアとどういう関係だったのだ?」

 二十年前、連邦制施行十周年記念パーティの時、ケラルとミリアが連れ立っていた事など、ザンバースが思い出すはずがなかった。

(ミリアのこの幸せそうな顔はどうだ……。あいつは、私には決してこんな顔をしてくれなかった……)

 ミリアの顔は、どれも天使の微笑みとも言えそうなくらい輝いていた。本当に心の底から喜びが溢れているように見えた。ザンバースの胸の内に突然嫉妬の炎が燃え上がった。彼はアルバムをシュレッダーに放り込んだ。たちまちアルバムはミリ単位に切り刻まれた。

「どうなさいましたの、大帝?」

 マリリアがいつの間にか部屋に入って来ていた。ザンバースはハッとして、

「マリリア、いつからそこに……?」

「たった今ですわ。ノックをしても、お答えがなかったものですから」

 マリリアは意味ありげな顔でフッと笑った。ザンバースは目を伏せ、

「そうか……」

と呟いた。


 ディバートとナスカートとレーアとカミリアは、ホバーカーで元いた秘密基地まで戻った。四人はそれぞれ対戦車砲、レーザーライフルを持ち、崩れた岩やコンクリートを縫って、外へ出た。ディバートが小さい穴の前で立ち止まり、

「レーア、通れるか?」

 レーアはディバートを見上げて、

「何とか通れそうね」

 彼女はナスカートとカミリアの横をすり抜け、ディバートの前に出ると、ライフルを彼に渡し、穴に頭を突っ込んだ。彼女はスッと入って行ってしまった。その時、パンツ丸見えだったのは、緊急時につき、誰も何も言わなかった。ナスカートが、

「さっすがレーアちゃん、どこもつっかえないのね」

「うるさい!」

 石が飛んで来て、ナスカートに当たった。ディバートはクスッと笑って、

「岩を退けてくれ、レーア。もう少しで俺とナスカートも通れそうだ」

「私が行くよ」

 カミリアもライフルをディバートに渡し、手で後ろを向くように指示した。ディバートは背中を向けたが、ナスカートはトボケようとした。

「撃つよ」

 カミリアが真剣な顔でナスカートを睨む。ナスカートは肩を竦めて背中を向けた。

「ナスカート、振り向いたら本当に撃つからね」

 カミリアが念を押しながら穴に入る。

「何で俺だけなんだよ?」

「ディバートはそんな事しないからさ」

 カミリアがキッパリ言った。彼女はギシギシと身体を軋ませて、何とか穴を通り抜けた。そこは少し広くなっており、その上はもう外である。カミリアはレーアに目配せして、岩を退けた。レーアは顔を真っ赤にして、

「もう、重たいなァ」

と言ったので、カミリアは苦笑いして、

「レーアはナイフより重いものを持った事がないのかい?」

 レーアも苦笑いして、

「非力なのよ」

と応じた。

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