第三十章 その三 最後の砦
カリカント・サドランの部隊は、エメラズ・ゲーマインハフト軍の近くまで来ると停止した。装甲車の中からサドランが現れ、
「ゲーマインハフト、手柄の横取りはさせんぞ。連中は我が軍が追いつめたのだ。貴様は手出しするな」
するとゲーマインハフトはフフンと鼻を鳴らして、
「言ってくれるじゃないか。あんたの部隊はボスポ海峡で大敗したんだ。この戦闘の主導権は私にあるんだよ」
とハンドマイクで怒鳴った。
「黙れ、ナルシスト野郎!」
「何だってェッ、野蛮人が!」
二人がいがみ合っている隙に、レーア達は態勢を立て直し、反撃に転じた。対戦車砲が次々にサドラン部隊とゲーマインハフト軍の装甲車を撃破する。ゲーマインハフトはハンドマイクに、
「後退! 対戦車砲の射程外に出るんだ。ジャッカルの方が射程が長い」
ゲーマインハフト軍は後退を始めたが、サドラン部隊は前進を始めた。サドランはゲーマインハフト軍をチラッと見て、
「腑抜けが……。突撃しろ!」
対戦車砲をかい潜りながら、サドラン部隊は突き進んだ。彼は戦闘機に、
「援護しろ。奴らの入口を叩け」
MCMー208と209は機銃を撃った。ディバート達は素早く奥へ退避した。戦闘機の銃撃が続く中、地対地ミサイルのジャッカルが乱れ飛び、地下入口を粉砕した。
「畜生、これじゃ反撃できないぞ」
ナスカートが悔しそうに言うと、アフタルが、
「いや、大丈夫だ。元来た道を戻り、途中の出口から地上に戻り、連中を背後から叩く。黒海へ追いつめれば、勝算はあるよ」
と言った。
「手緩い! NCー7とPー6を使え! 奴らを地下の基地ごと吹き飛ばすのだ!」
サドランが叫んだ。戦闘機はミサイル攻撃に切り替え、地下入口付近を攻撃した。
「モグラ共め。いぶり出してやる」
サドランはニヤリとした。
一方ゲーマインハフトは、
「全く、呆れた野蛮人だよ。あれじゃ大帝の令嬢まで一緒に殺しちまうじゃないか」
と呟き、肩を竦めた。
「むっ?」
サドランはその時、管に気づいた。
(そうか、連中は逃げ道があったのだ)
彼は通信機に、
「MCMー208と209は管を叩け! 奴らの逃げ道を潰すんだ!」
と命じた。戦闘機はすぐさま管を攻撃した。
「うわっ!」
中を走っているホバーカーに小石がたくさん降って来た。ナスカートが上を見て、
「畜生、気づかれたか?」
「とにかく、全速力で切り抜けるしかない。ここじゃ反撃のしようもないしな」
ディバートが言った。ホバーカーは何十台と連なって、通路を走った。
まもなく一行はY字路にさしかかった。アフタルが、
「右へ行ってくれ。別の地下基地がある。そこから外に出て反撃に転じる」
「了解」
戦闘機は、分岐点があるとも知らずに、官邸跡地の方へと爆撃を続けて行った。
「す、すげえ……」
巨大な格納庫に着いて、ナスカートが声を上げた。レーアもびっくりしていた。アフタルは、
「武器こそ揃っていないが、ここは我々の最後の砦だ。ここからは一歩も後には退けんよ」
「はい」
格納庫には高速水上艇や水中ブースター、機雷、対空砲塔があった。レーアが、
「これはどうやって手に入れたんですか?」
「警備隊のものをちょっと拝借しました。ですから性能は抜群ですよ」
アフタルは気まずそうに答えた。レーアも苦笑いした。
「なるほど」
ナスカートとディバートは高速水上艇に近づいた。
「こいつは使えるな。すぐに出せますか?」
ディバートが尋ねる。アフタルは頷いて、
「黒海沿岸へ繋がるエレベーターがある。それで高速水上艇を上げて、黒海に出られるよ」
「わかりました。こいつで連中を対岸へおびき出します。海を隔てれば、海上戦力のない敵は不利になるはずですし、戦闘機も海上なら狙い撃ちできます」
ディバートが力強く語った。アフタルは大きく頷いて、
「うむ。やってみてくれ」
ディバートとナスカートは他に五十人程伴って、高速水上艇三隻をエレベーターに移し、地上へと上がって行った。
「大丈夫かしら?」
レーアは不安そうに呟いた。カミリアは彼女の肩に手を置いて、
「大丈夫さ。ナイトは姫のところに必ず帰って来るよ」
「えっ?」
レーアはキョトンとしたが、カミリアはクスッと笑った。
サドランはレーア達がどこに行ったのか完全にわからなくなり、大いに苛立っていた。
「畜生め、ふざけやがって! 本部に増援を要請しろ」
「はい」
サドランはムカムカしながら、ゲーマインハフトの装甲車を睨みつけた。
(あのナルシスト野郎さえ現れなかったら、今頃は……)
彼は勝利の美酒に酔い痴れている自分を想像した。
ザンバースはミッテルム・ラードから連絡を受けていた。
「ドックストンの部屋を隈無く捜索致しましたが、何も出て来ませんでした。全く不可解です」
「そうか。ご苦労。もう奴の事はいい」
「はっ」
ザンバースがテレビ電話を切りかけた時、ミッテルムが、
「あっ、そうです。そう言えば、奴の若い頃の写真がありまして、レーアお嬢様にそっくりな女性が一緒に写っていました」
「何!?」
ザンバースは仰天して受話器を握りしめた。
(ミリアだ。ミリアが……。しかし何故奴と一緒に?)