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第三十章 その一 レーアの反撃

 地下の一室にケラルの遺体が安置されていた。ケラルの周りには、レーア、ディバート、ナスカート、カミリア、ドラコス・アフタル、その他大勢のパルチザンが立っている。レーアは肩を震わせて泣いていた。アフタルが一同を見渡して、

「ドックストンさんの死を無駄にしないためにも、敵を撃退する。偵察隊の報告では、サドランの軍も戦闘機と共にこちらに向かっているそうだ。歩兵を出して来たのは、ゲーマインハフトの軍と思われる」

「畜生、今度こそ目にもの見せてやる!」

 ナスカートが拳を震わせて叫ぶ。彼はレーアに目を向けた。彼女はケラルの顔を手で触れながら、何かを呟いていた。レーアの頬を伝わる涙がケラルの顔に一粒、二粒とこぼれ落ちる。ディバートはソッとレーアの肩に手をかけ、

「さァ、レーア。首領を送り出そう」

「ええ……」

 レーアはケラルから離れて目を伏せた。

(何故人は戦うの?)

 彼女の心を(よぎ)った怒りにも似た疑問であった。


 エメラズ・ゲーマインハフトの率いる軍の歩兵の攻撃で、地下への入口はもう少しで崩壊しそうだった。

「サドランもこっちに向かっているよ。あの野蛮人が到着する前に、片をつけたいね」

 ゲーマインハフトは言った。副官は、

「はっ!」

と敬礼した。

 歩兵達は遂に地下への入口を破壊し、中へ乗り込んで行った。ゲーマインハフトはそれを双眼鏡で確認し、

「フフフ……。これでサドランの出る幕はないね」

と呟いた。


 その頃、カリカント・サドランの部隊は、管が通っているところを発見しながら、パルチザンの秘密基地へと進んでいた。

「急げ。あのナルシスト野郎がパルチザンに攻撃しているんだ。ナルシスト野郎に手柄を横取りされる訳にはいかん」

 サドランは怒鳴り散らした。しかし部隊は、時速二十キロくらいで進んでいるため、パルチザンの基地まであと一時間はかかる計算だ。サドランは通信機を掴み、

「MCMー208と209は先に行ってナルシスト野郎に手柄を横取りさせるな」

「はい」

 二種の戦闘機はサドラン達を残して一足先にパルチザンの基地を目指した。


 地下の入口付近で、ゲーマインハフトの歩兵とパルチザンの銃撃戦が展開されていた。対戦車砲が次々に歩兵を吹っ飛ばした。しかし歩兵は強力な防弾服を装備しているため、軽い打撲傷ですみ、再び入口に近づいて来る。ライフルが中へと撃ち込まれ、パルチザンが何人も倒れた。ディバート、ナスカート、カミリア、そして他の多くのパルチザンが、外へ外へと必死に反撃する。レーアはアフタルと共に奥にいた。

「私が行けば、彼等は撃てません」

 レーアが外へ出ようとすると、アフタルは、

「いけません。貴女が今ここを出て行ったら、パルチザンは間違いなく消し飛ばされます。奴らがこんな回りくどい戦法で攻撃しているのは、貴女がここにいるからなのです。いくらザンバースが気にしていないとは言っても、貴女は連中にとってはこの上もない戦利品なのです。ですから出てはいけません」

と彼女を止めた。レーアはアフタルを見たが、何も言い返せない。

(私にはなす術がないの?)

 また一人、二人と、パルチザンが倒れた。レーアは近くにあった多弾頭手榴弾を持って、入口に駆け寄った。そして階段を駆け上がると、外へ飛び出した。

「レーア!」

 ディバートが驚いて止めようとしたが、すでにレーアは入口の外にいた。ナスカートが、

「レーアはどういうつもりだ?」

「わからん」

 歩兵達は相手がレーアとわかると、途端に撃つのをやめた。レーアは多弾頭手榴弾のピンを抜き、歩兵達に向かって投げた。手榴弾は五つに分かれて爆発した。しかし、歩兵達は一人も倒れていない。レーアは唖然とした。

「ど、どうして……?」

 ゲーマインハフトは双眼鏡でレーアを見て、

「ほォ。大帝の令嬢は、写真より実物の方がずっと綺麗じゃないか。捕まえさせろ。大帝への最高の手土産になる」

「はい」

 歩兵達はライフルを肩にかけ、レーアにジリジリと迫って来る。レーアはハッとして一歩退いた。彼女は階段を踏み外して、転がり堕ちた。

「はっ!」

 ディバートが素早く彼女を抱きとめると、二人は抱き合うような態勢になった。互いの顔も近い。

「羨ましいぞ、ディバート」

 ナスカートが呟いたのをカミリアが聞き逃さず、

「バカ言ってるんじゃないよ!」

と頭を叩いた。

「大丈夫か、レーア?」

「ええ。ありがとう、ディバート」 

 レーアはディバートから離れ、もう一度階段を駆け上がると、外へ出た。するとそこは歩兵に取り囲まれていた。レーアはハッとしたが、退く訳にはいかない。歩兵の一人が、

「ここはお嬢様のような方がいらっしゃる場所ではありません。我々と一緒においで下さい」

と手を差し出した。レーアはその手をピシャリと撥ねつけて、

「嫌よ。ここにいるわ。貴方達のところになんか行かない!」

「ならば、中にいる連中を全員射殺するまでです」

 歩兵達は一斉に入口にライフルを向けた。

(どうすればいいの?)

 レーアが考え込んでいると、上空に戦闘機が七機現れた。車輪を失った四機は基地に帰ったのだ。歩兵もつい空を見上げた。レーアはその隙をついて、歩兵の一人の顔面に強烈なキックを浴びせた。

「ぐわっ!」

 歩兵は虚を突かれてもんどり打って仰向けに倒れた。ライフルを地下に向けていた他の歩兵達は、仰天してレーアを見た。レーアは続けざまに歩兵を蹴り倒す。彼女のお転婆は伊達ではない。格闘技も習っていたのだ。レーアの凄まじい蹴りと、スカートの下から覗くパンティに圧倒され、歩兵達は交代し始めた。ディバートとナスカートは何事かと入口から顔を出した。

「うへえ……。何か、百年の恋も冷めるような光景だな……」

 ナスカートが言った。ディバートは只唖然としていた。

「それ!」

 レーアはまさしく孤軍奮闘していた。歩兵達はレーアを殺す訳にはいかないので、彼女を素手で捕まえようとするが、どうにもすばしこくて捕えられない。

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