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第三章 その一 シークレットサービス

 連邦第一放送の夕方のニュースは、ザンバースの総裁代理就任を伝えていた。

 レーアはそれをディバートやリームと共にテレビで見ていた。彼女はベッドごと檻の中に入れられている。

「昨日、心臓の発作で亡くなったエスタルト・ダスガーバン総裁の代理に、実弟であるザンバース・ダスガーバン連邦警備隊総軍司令官が就任しました。我が連邦の憲法の規定では、軍属は政治に直接参加できませんが、代理という事でもあり、実力も人望もあるという事で、連邦議会もザンバース司令官の就任を認めました。就任式は明日行われます」

 ディバートはテレビを消した。彼はレーアを見た。

「どうだ? これで少しはわかっただろう? 君の親父さんは、少しずつ連邦を帝国に戻そうとしているんだ」

「まだはっきりわかった訳じゃないでしょう? 私は信じてないわよ」

 レーアは大声で反論した。ディバートは苦笑いしてリームを見た。その時、部屋の隅にある机の上の通信機が鳴った。

「はい、アルターです」

 ディバートが応答する。すると男の声が、

「ザンバースは、ホバータクシーの会社を(しらみ)潰しに当たらせているようだ。まさかとは思うが、警戒してくれ」

「わかりました」

 レーアはそれを聞き、

「ほォら、ごらんなさい。もうわかってしまうわ。あのホバータクシー、盗んだんでしょ? そこから足がつくわ」

「とんでもない。盗んでなんかいないよ」

 ディバートはレーアを見返して言う。レーアは、強がり言って、と思いながら、

「じゃあ、どうしたのよ?」

「造ったのさ。我々の組織を侮らないで欲しいな」

 リームが得意満面の顔で答えた。レーアはビックリしてリームを見た。

「そんなに大きな組織なら、直接行動に出たらどうなのよ? こんな回りくどい事をしないで」

 レーアはこの人達は頭が悪いのかも知れないと思った。レームは呆れ顔で、

「わかっていないな。ザンバースの正体が発覚したら、最初に狙われるのは君なんだぞ」

「!」

 レーアはドキッとした。そんな事は想定していない。

「もちろん、ザンバースがどれほど悪い事を考えていようが、君には全く関係ない。だからこそ、君をここに連れて来たんだ」

「えっ?」

 レーアはディバートの意外な言葉に仰天した。

「まだ君には教えられないが、我々の組織のリーダーは、君の命を心配している。だから、君には我々の同志になって欲しいんだ」

「同志、ですって?」

 レーアはジッとディバートを見た。

「そうだ。嫌か?」

 レーアは考え込んだ。

(彼女になってくれって言われるより、答えが難しいわ)

 多分だが、彼女ならすぐにOKしているだろう。しかし、彼等の組織の内状もわからない今、同志になってくれと言われても、即答は無理だ。

(私が狙われるという事は、婆ややケラル達も狙われるの?)

 そんなレーアの心配を見透かすかのように、ディバートが言い添える。

「大丈夫だよ、レーア。ザンバース邸の使用人達は狙われたりしないよ。ザンバースの敵が用があるのは、ザンバースと君だけだ」

「何でそう言い切れるのよ?」

 レーアは疑問をぶつけた。ディバートはフッと笑って、

「当たり前だろう。使用人を殺すと脅かしても、ザンバースを動かす事はできないからさ。君を殺すと言えば、さすがのザンバースも見殺しにはできないだろう?」

 懸けられる命によって、それほど反応が違うのだと言われ、レーアはショックを受けた。

(婆ややケラル達が危険な目に遭っても、パパは何もしてくれないというの?)

 レーアはそんな事を思いたくなかった。

「でも、どうして貴方達の同志になるの? そんな事したって、私は狙われるんじゃないの?」

 レーアは何とか反論したくて、無理を承知で言い返した。

「我々の組織は、反ザンバース派の中で最大規模を誇る。だから、我々の同志に手出しする愚か者はいない」

「貴方達の組織が大きいのはわかったけど、私を同志にするメリットがないわよね。私が殺されようがどうしようが、貴方達の組織には直接関係ないでしょ?」

 レーアはいいところをつけた、と思い、ニッと笑った。ディバートは肩を竦めて、

「確かにそうだな。君を同志にしても、戦う事はできないし、逃げる時には足手まといになるし、場合によっては裏切られるかも知れないな」

 何となくムカつく言い方だが、その通りだ。レーアは勝ち誇ったようにディバートとリームを見た。

「さっきも言ったように、我々のリーダーは君の命を守りたいと思っているんだ。だから、君を同志にしたいのさ」

 しかし、レーアはその答えに納得していなかった。レーアが同志にならなければいけない理由は、もっと深いところにあったのである。


 ザンバースは警備隊総軍司令官室の椅子に座り、事務次官のタイト・ライカスからの連絡を待っていた。

「わかったか?」

 テレビ電話が鳴った途端、彼は受話器を取った。

「まだ何もわからないようです。かなりの大物が動いていると思われます」

 モニターの向こうのライカスは、恐縮していた。

「そうか。それならレーアの命は安心だな。もういい。放っておけば、向こうから何か仕掛けて来るだろう。それまで待てばいい」

「はっ」 

 ザンバースは受話器を戻した。そして背もたれに寄りかかり、目を瞑った。

「もしやエスタルトの最後の腹心の部下達が……。総裁直属のシークレットサービス(秘密諜報機関)だとすると、私にもどうにもならんからな」

 総裁直属のシークレットサービスは、例えエスタルトが死んでも、彼の生前の方針を次の総裁が選出されるまで絶対に変えない。彼等はザンバースの動きを陰ながら捉えていたかも知れないのだ。

 副総裁という職務のない連邦政府は、このような事態を迎えると、混乱するのであるが、総裁亡き後、選挙なしで副総裁が総裁に就任するのは民意を反映していないというエスタルトの意見で、副総裁の地位は置かれなかった。エスタルトもまた、独裁者であり、横暴であったのには変わりないが、ザンバースとは比較にならないものである。

「連中が私の真の計画を知っているとなると、大変なことになる」

 ザンバースは目を開いた。

(しかし、エスタルトの暗殺があっさり成功した事を考えると、それは万に一つもあり得んな)

 しかしザンバースは甘かった。シークレットサービスの強大な力は、警備隊とは違った意味で連邦に大きな勢力圏を張っている。エスタルトの本当の味方が、その中に何人いるかは、誰にもわからないのである。つまり、ザンバース派でもエスタルト派でもない一派もあるのだ。ディバート達がそのいずれに属しているのかは、順を追って明らかになるだろう。

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