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第二十九章 その一 ケラルの休暇願い

 オリエント地方区と呼ばれた地方の上空をかつてない程の戦闘機の大編隊が飛行していた。MCMー208とMCMー209である。最高時速はマッハ五、グラスファイバー装甲、忍者(ステルス)加工という隠密行動専用機だ。垂直離着陸機能を持ち、機銃が左右に各三、小型ミサイルが左右に各一、大型ミサイルが一あり、定員は二名である。208と209の違いは色だけだ。208は黒、209は灰色である。

 ディバート達は、西アジア州の州都アンカルから百キロ先に設けた偵察基地からの連絡で、戦闘機の接近を知った。

「もうお出ましかよ。空からの攻撃には脆いぜ、ここ」

 ナスカートが悔しそうに言う。アフタル元知事は、

「いや、官邸の地下は、核の直撃を受けない限りビクともしないシェルターになっている。そして、そこから黒海沿岸まで秘密通路が通じている。そこを行けば、付近のパルチザン隊と連絡が取れるはずだ。うまくすれば、連中を返り討ちにできる」

 ディバートはアフタルを見て、

「それは初耳です。一体どうして?」

 アフタルは苦笑いして、

「私だって、何も無為に過ごして来た訳ではないよ、アルター君。ザンバースがやがて何か事を起こすだろうと思って、密かに造らせていたのだ」

「なるほど……」

 するとレーアが、

「戦うのは仕方がないというのはわかったわ。でも、敵をむやみに殺すのだけはやめて。司令官を叩けば、それで全て片がつくはずよ」

 ディバートはレーアを優しい眼差しで見て、

「わかったよ、レーア。努力しよう」

 レーアはそれを聞き、微かに笑った。


 連邦の元首都で、帝国の帝都となったアイデアルは、ようやく夜明け迎えたところだった。共和主義者達のリーダーであるケラル・ドックストンは、部下達からの連絡で、アンカルに戦闘機の大編隊が接近しているのを知った。

「行かねばなるまい。あの方との約束を守るためにも、レーアお嬢様のお命をお助けしなければならない」

 彼はそう決意し、ザンバースに休暇を申し出た。ザンバースはまさかケラルがアンカルへ向かおうとしている等とは夢にも思わなかったので、休暇を認めた。

「お嬢様が以前おっしゃっていた、話しても信じてもらえないという事は、旦那様があのような事をなさる、という意味だったのですね」

 ケラルを玄関で見送りながら、マーガレットが言った。ケラルはマーガレットを見て微笑み、

「そのようですね。私もここには戻れないと思います。長い間お世話になりました」

「は?」

 マーガレットはビックリしてケラルを見た。

「どういう事です、ドックストンさん?」

「私もまた、ザンバース・ダスガーバンと戦う者の一人なのです」

「えっ?」

 マーガレットが次に何かを言おうとした時、すでにケラルは邸からいなくなっていた。

「一体何がどうしたっていうのでしょうね、ミリア様……」

 マーガレットはレーアの亡き母であるミリアを思い出し、呟いた。


 知事官邸の上空にMCMー208と209が現れ、ミサイル攻撃が開始された。空対地ミサイルNCー7である。一発で百メートル四方を破壊する。官邸はたちまち火の海に呑み込まれ、崩壊して行った。それでもミサイル攻撃は終わらない。遂に官邸は完全に崩壊し、炎も次第に弱まって行った。戦闘機は攻撃を終了し、官邸跡の周囲にある広大な庭に着陸した。

「妙だな。おい、赤外線感知レーダーで人がいるか探れ」

 キャノピーを開き、編隊長が命じた。パイロット数名が機を降り、小型レーダーを抱えて付近を探索した。

「対人反応がありません。死体もないようです」

 パイロット達の応答に編隊長は歯軋りして、

「すでに逃げた後だったのか。すぐに付近の捜索に移れ。そう遠くへは行っていないはずだ」

「はっ!」

 パイロット達は戦闘機を降りると、機体の下に取り付けられた小型のホバーカーを降ろし、それに乗って官邸跡から離れた。

「今だ」

 官邸跡の地下室から潜望鏡で見ていたナスカートが言った。ディバートとカミリアとレーアは頷き、他のパルチザン達と地下室を出て階段を上がり、分厚い扉を開いて外へ出た。パイロットや編隊長達は、皆戦闘機から離れていたので、ディバート達に気づいた時には、すでに対戦車砲と多弾頭手榴弾、レーザーライフルによって、戦闘機が次々に破壊されていた。

「しまった、地下室にいたのか!?」

 編隊長と十人程のパイロットは大慌てで自分の機体に戻り、急速発進した。

「よし、引き上げるぞ」

 ディバートは戦闘機の車輪を対戦車砲で破壊し、何機かを着陸不能にすると、地下室へ避難した。そこへ猛烈な爆撃が開始された。機銃掃射とNCー7の攻撃である。しかし扉はビクともしない。業を煮やした編隊長は、

「Pー6を使え」

「はっ!」

 Pー6とは、大型ミサイルの事で、対艦ミサイルである。威力はNCー7の数十発分に匹敵する。そのPー6が次々にまるで太鼓を叩くバチのように扉を攻撃する。

「うわっ!」

「きゃっ!」

 地下室もこの化け物ミサイルの攻撃でグラグラと揺れた。

「破壊される事はないが、ここにこうしていても何の解決にもならん。とにかく、脱出しよう。ここを連中に明け渡して、その上で連中を周囲から追いつめる」

 アフタルが提案した。レーア達はそれにゆっくりと頷いた。

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