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第二十八章 その一 怯えるレーア

 レーア達は西アジア州各地の警備隊支部を占拠し、武器を手に入れ、西アジア州全体を次第に制圧して行った。そんな時、彼女達の元にチベット方面軍と大陸方面軍が動いているという情報が入った。

「どうする? 相手は本格的な訓練を受けた戦争のプロ達だぜ」

 ナスカートが言った。ディバートは、

「ゲリラ戦しかないな。アングラ活動は俺達の方が連中より上手だからな」

「ああ、そうだな」

 彼等は総勢二千名で、二十班に分かれて、それぞれ分隊を編成し、ゲリラ作戦を練った。ディバートを隊長とする班には、レーア、カミリアと、ナスカートの隊のメンバーが十人と、その他のパルチザン隊のメンバーがいた。

「叩いては引き、叩いては引きでがゲリラの鉄則だ、いくら少数であっても、深追いや独走は許さんぞ」

 ディバートが全員に告げた。一同はゆっくりと頷いた。レーアは小銃を握りしめた。彼女の耳には、ザンバースの言葉がはっきりと聞こえて来た。

「人を殺さずに戦争ができるものか。まだまだ子供だな、お前は」


 ヨーロッパ州知事であったカリカント・サドランは、最初からザンバースの味方で、帝国軍を使ってレーア達パルチザンを潰そうとしていた。その中の一つ、大陸方面軍が現在西アジア州の州都であるアンカルに向かって進行中であり、サドランは陣頭指揮を執っていた。知事法には、文民規定があるため、軍人は知事になれない。サドランの軍事知識は親譲りで、しかもかなり巧妙なものが多い。そのためレーア達が苦戦を強いられるのは目に見えていた。進行中の司令官用装甲車の中で、ゆったりと椅子に座って、

「バカな連中だ。ザンバース大帝に逆らうとはな。儂が出撃したからは、パルチザンのヒヨッコ共など、一捻りにしてくれるわ」

 サドランは言い、高笑いした。ヨーロッパ州帝国軍はスカンジナビア方面軍と大陸方面軍に大きく分かれ、さらに大陸方面軍は、陸軍、海軍、空軍に分かれる。パルチザンの戦力を過小評価したサドランは、陸軍の戦車大隊二千輛と装甲車五百台のみで、アンカルに向かった。無論、黒海を渡るための輸送船団も出してはいたが。

「エメラズなどがアジアの田舎からしゃしゃり出て来るまでに、我らのみで連中を叩き潰せば、大帝に大いに気に入られて、全員昇進も間違いないぞ」

 サドランは野心家であったが、ザンバースに逆らうほどバカではなかった。しかし彼の読みは甘かった。彼の戦力の投入不足が、この戦いを長引かせる原因を作ったのである。


 ディバート隊は、ホバーバギーで、アンカルから黒海沿岸へと向かっていた。他にも何台かのホバーバギーが走っている。辺りは夕闇に包まれ始めていた。西の空に沈もうとしている太陽は赤く染まっていた。

「対戦車砲と多弾頭手榴弾を良く点検しておけよ。いざという時に使えないんじゃ、意味がないからな」

 ディバートがハンドルを切りながら言った。ナスカートが頷いて、

「わかってるって。その点万事抜かりはないよ」

 彼は対戦車砲を手にした。レーアは多弾頭手榴弾を見た。大きさはマンホールの蓋くらいで、その周りに五個の手榴弾が取り付けられている。ピンは一本で、それを抜いて投げると、更に手榴弾が分散してより多くの敵を倒すというものである。対戦車砲は、バズーカ砲と違い、ビーム式である。強力な光の束が、戦車の装甲を貫くのである。反動緩衝装置のおかげで、女性にも発射できるようになっている。カミリアがもう一基の対戦車砲を手にして、

「私はこれを使わせてもらうよ」

「ああ。ご自由にどうぞ。但し、無駄弾は撃つなよ」

 ナスカートが言った。カミリアは笑ったが、レーアは深刻そうな顔をしたままだった。

(戦争が始まるのね。怖い、凄く怖い……)

「レーア、そんなに緊張していたら、すぐにやられちまうぞ。もっとリラックスして」

 ナスカートが声をかけたが、レーアは上の空である。ナスカートは肩を竦めて、

「レーアちゃーん、もうお(ねむ)の時間かなァ?」

と近づいて彼女の肩を抱き、口を顔に近づけた。いつもならここで平手打ちが炸裂するところだが、今回は何も起こらなかった。ナスカートはいささか拍子抜して、

「おい、レーア、しっかりしろよ! どうしたっていうんだ!?」

と肩を揺すって叫んだ。レーアはやっと我に返り、ナスカートを見た。

「あっ、ナスカート……。私は……?」

「ぼんやりするな、レーア。敵はすぐそこまで来ているんだぞ」

「ええ……。ごめんなさい」

 レーアはそう言って俯いた。ナスカートはレーアが急に気の毒になった。

(そうだろうな。君はこれから親父さんと戦わなくちゃならないんだ。ボンヤリもするよな)

「ヨーロッパの帝国軍は、恐らくイスタンから輸送船を使ってオリエント地方区に渡って来るはずだ。奴らよりも早く海峡に到着し、封鎖してしまえば、戦況は有利になる」

 ディバートが言った。ナスカートは、

「しかし、連中には空軍もあると聞いたぞ」

「もちろんだ。だがナスカート、輸送機はまだ配備されていないと聞いている。それに連中は我々の戦力を侮っている。戦闘機を投入する心配は今のところないよ」

「なるほど」

 アンカルから黒海沿岸までは、三百五十キロ弱あった。ホバーバギーは馬力はあるがホバーカー程早くないので、四時間近くかかる計算になる。


 ヨーロッパ州の知事官邸は、フランク地方区のパリスにある。サドランはそこから出発したため、イスタンに着くのは二十四時間休まず走っても、軽く五十五時間、二日強かかる計算だ。しかし、レーア達より二日早く出発していたので、両者の到着は様々な事を考慮しても、タッチの差であった。こうなると時間との戦いである。先に到着した者が、戦局を優位に導く事は疑いがない。

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