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第二十七章 その三 ガナール・ドルカン、バジョット・バンジー死す

 レーア達一行は、ケスミー財団が調達してくれた高速小型ジェット機で、大西洋上空を飛行していた。操縦はディバートとナスカートの担当である。レーアは窓の下の見える雲と、その間に輝く大西洋を見つめていた。

「間に合うといいんだが……」

 ナスカートが呟くと、カミリアが、

「間に合わせるんだよ! そうでなきゃ、嘘だよ……」

と悲しそうな顔で言った。ナスカートはカミリアを見て頷いた。

 ジェット機はやがてキャナル諸島(現代のカナリア諸島)上空に差しかかった。その向こうに、北西アフリカが見えて来ている。

「アフリカ大陸を越えれば、アンカルはもうすぐだ」

 ディバートが告げた。レーアは彼を見て黙って頷いた。


 今は亡きエスタルト・ダスガーバンの手足として活動していたシークレットサービスは、長官のガナール・ドルカン以下全員が元の連邦警察の留置場に入れられていた。

「長官、このまま座して死を待つおつもりですか?」

 若い部下がドルカンに詰め寄った。ドルカンは彼を見て、

「どうする事もできんよ。時代は動き出した。止められるのは、この世で只一人」

「只一人?」

 部下達が一斉にドルカンを見た。ドルカンは大きく頷き、

「ザンバース・ダスガーバンの愛娘(まなむすめ)、レーア・ダスガーバンだ」

「……」

 部下達は顔を見合わせた。するとそこへ帝国情報部長官に正式に任命されたミッテルム・ラードが部下達と入って来た。ミッテルムはドルカン達を見渡して、

「ガナール・ドルカン以下二十六名、全員国家反逆罪で死刑が確定した」

「……」

 ドルカンはミッテルムを睨みつけた。ミッテルムはニヤリとして部下達にマシンガンを構えさせた。ドルカンは黙ったままである。

「何か言う事はないかね、ガナール?」

 ミッテルムが尋ねる。ドルカンは、

「貴様のような奴に、馴れ馴れしくファーストネームで呼ばれる覚えはない、ザンバースの犬め」

「黙れ!」

 ミッテルムの顔が醜く歪む。

「撃てっ!」

 マシンガンが唸り、人の倒れる音が続けざまにした。ガナール・ドルカン以下二十六名は全員銃殺された。二千五百一年一月某日の事である。


 バジョット・バンジーは、暗殺団の車が一台つけている事に気づかないまま、舗道を歩いていた。

(ザンバースめ、ああも大っぴらに帝政の復活を宣言するとは思わなかった)

 彼は周囲を見た。街は昨日と変わらぬ(たたず)まいである。

(何よりも恐ろしいのは、国民の無関心さだ。まるで映画の中の出来事のように受け止めていて、これから始まろうとしている事を考えようともしない)

 バンジーはその時、暗殺団の車が突進して来るのにようやく気づいた。

「何ッ!?」

 バンジーは危うく車を避けたが、足を取られて倒れた。周囲の人々は驚いて立ち止まる。暗殺団の車は、そのままバックして来て、あっと言う間にバンジーを跳ね飛ばした。

「キャーッ!」

 悲鳴を上げて失神する女性が何人かいた。大きな音に驚いて泣き出す赤ん坊、腰を抜かす老紳士。バンジーは頭を路面に叩きつけられ、即死していた。何人かの男性が、彼に駆け寄った。

「ひでえ……。轢き逃げだぞ」

 その中の一人が呟いた。


 西アジア州の知事官邸の一室で、副知事と警備隊の支部隊長がソファに向かい合って座っていた。

「ほォ。あんたが人質になるから、知事以下全員を解放しろと?」

 支部隊長はふんぞり返って言い放つ。副知事は支部隊長を見て、

「そうだ。了承してもらいたい」

 支部隊長はバッと副知事の胸倉を掴み、

巫山戯(ふざけ)るな、若造。貴様の命一つが、それほどの価値があると思っているのか?」

「ああ、思っている」

「バカめ」

 支部隊長の正拳が副知事の顔面に炸裂した。副知事は壁まで吹っ飛ばされて倒れた。支部隊長はペッと唾を吐きかけ、

「賢しい奴だ」

 副知事は気を失っていた。その時、真っ青な顔をした隊員が飛び込んで来た。支部隊長はムッとして、

「何事か!?」

と怒鳴った。隊員は敬礼して、

「はっ、急進派のジェット機が現れ、只今交戦中です!」

「何だと!?」

 支部隊長は窓に近づき、空を見上げた。上空にレーア達の乗るジェット機が旋回しながら手榴弾を落としているのが見えた。手榴弾は官邸の庭で爆発し、その騒ぎに乗じて、パルチザンと共和主義者達が一気に官邸へ突進して来た。

「よし、突っ込むぞ!」

 ディバートが言った。レーアとナスカートとカミリアは、

「了解!」

と答える。ジェット機は急降下して、警備隊の迎撃の中、官邸の庭に強硬着陸し、更に建物に突っ込んだ。支部隊長はその衝撃で倒れ、机の下敷きになって気絶した。四人はジェット機を降り、副知事を助け出すと、外へ走った。

 外では他のパルチザンや共和主義者が、警備隊と銃撃戦を展開していたが、警備隊は隊長が捕縛された事を知り、次々に投降を始めた。支部隊長以下全員が地下室に監禁され、西アジア州知事官邸は、レーア達の戦いの本拠地となった。


 元の地球連邦ビル。今では「地球帝国大帝府」となっている。

 西アジア州での出来事を帝国軍司令長官リタルエス・ダットスから報告されたザンバースは、

「ヨーロッパ州の大陸方面軍と、東アジア州のチベット方面軍を西アジア州に差し向けろ」

と命令した。ダットスは敬礼して、

「はっ!」

と応じた。ザンバースはダットスが部屋を出て行くと、椅子に深く沈み込んだ。

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