第二十七章 その一 地球連邦の終焉
地球連邦中に、メラトリム・サイドの恐怖政治が吹き荒れた。共和主義者もパルチザンも、白昼堂々と攻撃されて、たくさんの住民が巻き込まれて死んだ。
そして、国民の怒りは、次第にサイドに集まって行く。しかし、権力という魔物に取り憑かれたサイドは、それを全く意に介さなかった。
「私に逆らう者は、肉親と言えども容赦しない。徹底的に叩き潰してやる!」
連邦のあらゆる政治団体が排斥された。保守も革新も中道も暴力集団もギャング達も、私設スパイ団も。後の歴史家達は、この事件を「史上最大の人間掃除事件」と呼んだ。
「大帝、よろしいのですか、あそこまで好きにさせてしまって……」
連邦ビルの秘密の地下室で、帝国補佐官のタイト・ライカスが言った。ザンバースはニヤリとして、
「まだ足らんな。国民に骨の髄まで、如何に民主主義というものが愚にもつかぬものかを知らしめるためには、もっとサイドにいろいろ仕出かしてもらわんとな」
ライカスばかりでなく、そこにいる誰もが驚愕してザンバースを見た。ザンバースは一同を見渡して、
「わかるか? ドルコムの逆だ。サイドには自滅してもらう。私は国民をほんのわずか先導するだけだ。後は何もせずとも、国民は私について来る」
ライカス達は、互いに顔を見合わせた。ザンバースはそれを見てもう一度ニヤリとした。
レーア達は、ケラル・ドックストンが来たので、話し合いをしていた。
「とにかく、連邦各地でサイドのやり方に抗議するデモや集会がたくさん行われています。このまま行けば、サイドは国民に殺されてしまうでしょう」
ケラルは沈痛そうな顔でレーアに言った。レーアは考え込んで、
「一体どうすればいいのかしら? 国民と共にサイドを討てば父の思う壷だし、サイドを守る訳にもいかないし……」
「進退窮まるって奴だな」
ナスカートが腕組みして呟いた。
レーア達がどうする事のできないまま、一週間が過ぎた。国民の不満は頂点に達し、各地で大暴動が起こった。サイドはそれらに対して輪をかけて大弾圧を加えたため、火に油を注ぐ事になり、暴動は広範囲に渡った。
「いよいよ時が来たようだな」
ザンバースは警備隊総軍司令官室で言った。傍らに立つマリリアが、
「そのようですわね。サイドのような間抜けばかりでしたら、大帝も事が運びやすかったでしょうに」
ザンバースはフッと笑って立ち上がり、彼女を抱き寄せると、
「ダットス、ミッテルム、サイドを討つぞ。総裁執務室に向かえ」
とインターフォンに言った。
「はっ、大帝」
ザンバースはマリリアとキスをしてから、司令官室を出て行こうとした。
「大帝、気になるのはお嬢様よりアジバム・ドッテルです」
マリリアがザンバースの手に指を絡めて言う。ザンバースはそれをスッと振り解き、
「わかっているよ」
とドアを閉じた。
サイドはまさに有頂天になっていた。
「地球は我がもの。如何なる望みも叶う」
サイドは高笑いをし、椅子から立ち上がると、窓の外を見やった。
「高いところからの眺めは、いつ見ても良いものだ」
その時、ドアがガチャリ開けられた。サイドはハッとして振り向いた。そこには、ザンバースとリタルエス・ダットスと、ミッテルム・ラードが立っていた。
「そして、今日がその見納めだ、サイド」
ザンバースが言った。サイドはキョトンとして、
「は? どういう事ですか、大帝?」
ザンバースはニヤリとして銃を構えた。サイドは顔を引きつらせて笑い、
「ハ、ハハ、大帝、冗談はおやめ下さい。何の真似です?」
「サイド。貴様の暴挙には、目に余るものがある。国民に代わって貴様を討つ」
ザンバースは無表情に言い放った。
「何ですと?」
サイドは仰天し、ザンバースに近づいた。彼は自嘲しながら、
「ドルコムだけかと思っていた。私はいつまでもこうして、大帝の操り人形でもいいから、生きていたいと思っていた……」
「そういう訳にはいかんのだ。お前を殺さなければ、連邦中の国民が納得しない」
ザンバースが銃口をサイドの顔に押し当てる。サイドは身体中から汗を噴き出して、
「お、お待ちください、大帝。私は潔く総裁の職を辞します。ですから、命だけは……」
「ならんな。死んでもらう」
ザンバースは引き金に指をかけ、容赦なく引いた。プシュッという音が、サイドの人生に幕を引く音だった。
「ご苦労だったな。すぐにドルコムにも後を追わせるから、心配しなくても大丈夫だぞ」
ザンバースはニヤリとして言った。