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第二十五章 その三 ディバートの帰還

 翌日、レーア達のいるアジトには、レーアとカミリアしかいなくなっていた。ナスカートが会議に出かけていて留守なのだ。

「あのエロ男がいないと、本当に寛げるわ」

 レーアはすっかり油断して、シャワールームから全裸で出て来た。後ろからカミリアが、

「ちょっとレーア、いくら何でも、下着くらい着けなよ。ナスカートがいきなり戻って来たらどうするのさ?」

と注意したが、レーアはヘラヘラ笑って、

「ナスカートはまだ会議中よ、カミリア。こんな時くらい、開放的にならないと」

と言いながら、テレビのある部屋に戻りかけた。

「きゃっ!」

 レーアは人影を見てビックリし、慌てて身を隠した。

(ナスカートじゃなかった……。誰?)

 彼女はゆっくりと顔だけ覗かせた。するとそこに立っていたのは、ディバートだった。

「ディ、ディバート? いつ戻ったの?」

「たった今だ……。どうにも落ち着かなくてね」

 ディバートはレーアの裸も視界に入らない程、ボンヤリとしていた。レーアは取り敢えずホッとし、

「ちょっと待っててね」

とシャワールームに戻った。

「ああ、ヤバかった! ディバートがいたわ」

「ええ? 大丈夫なのかい、彼?」

 カミリアは髪を乾かしながら尋ねた。レーアを後ろを振り返って、

「あまり大丈夫じゃないみたいよ」

と腕組みする。カミリアはレーアを見て、

「とにかく、服着なさいよ、レーア」

「ああ、そうね」

 レーアはペロッと舌を出してシャワールームに入った。

 二人は身支度を整えてから、ディバートのところに行った。

「早かったね、ディバート。大丈夫なの?」

 カミリアが作り笑いをして尋ねる。ディバートは椅子にドスンと腰を下ろして、

「疲れた。少し休むよ」

「ええ、どうぞ」

 カミリアは後からレーアと顔を見合わせた。ディバートは目を伏せて、

「どこへ行っても無駄だった……。リームの事が頭から離れなかった。俺はあいつと最後まで戦って行くつもりだったから……」

「ディバート……」

 レーアもカミリアも、彼にかける言葉を思いつけないでいた。

 

 アジバム・ドッテルは、ミケラコス財団ビルの前で社用車から降り、玄関への階段を上がり始めた。すると柱の陰からカレン・ミストランが現れた。ドッテルの部下が制止しようとするのをドッテル自身が止め、下がらせる。ドッテルは近づいて来るカレンを待ち受けるように立ち止まった。

「どうして夕べは来て下さらなかったの? 私、一晩中待っていたのよ」

 カレンはドッテルの右手を握った。ドッテルはその手を振り払って、

「もうお前とは会わないと決めた。帰ってくれ」

と階段を進もうとした。しかしカレンはドッテルの前に立ちはだかり、

「会わないですって? よくもそんな事が言えたものね! お腹の赤ちゃんはどうするつもりなのよ!?」

「産みたければ産んでくれていい。金は出す」

 カレンの顔が怒りに満ちて行く。彼女はドッテルの左頬に平手打ちを食らわせた。

「何よ、その言い草は!? 私は貴方のおもちゃじゃないわ。赤ちゃんを産もうと思ったのは、貴方が私と結婚してくれると思ったからよ。それを今更……」

 ドッテルは左頬を抑えて、

「すまないと思っている。しかし、お前がそこまで酷い女になるなんて思わなかったのだ。他人の不幸を何とも思わないような女になるとはな」

と言い返した。カレンはますます怒りを募らせ、

「そう。そういう事を言うの? なら、私にも考えがあるわ。私と貴方の関係を出版社に売り込んでやる。私と貴方が食事をしているのやホテルに泊まったのを知っている人はたくさんいるから、証言には事欠かないわ」

 ドッテルは冷や汗を掻いた。

(この女!)

 カレンは更に続ける。

「それから、ナハル・ミケラコスがこの事を知ったら、貴方は会社を追い出されて、路頭に迷う事になるわよ」

 ドッテルはカレンを絞め殺したくなった。ミローシャの気持ちがその時はっきりとわかった。カレンはフフンと笑い、

「覚悟しておく事ね」

と言い捨てると、立ち去った。ドッテルはしばらくそこに立ち尽くしていたが、部下に促され、玄関へと歩き出した。


 ナスカートは会議から戻り、ディバートがいるのに驚いていた。

「一人でいると余計気が滅入るという事も考えられるしな。戻って来て良かったのかも知れないな」

 ナスカートは言葉を思いつけないまま、取り繕うような事を言った。ディバートは作り笑いして、

「ああ、そうだな」

とだけ答えた。ナスカートは、レーアがディバートを気遣わしそうに見ているのに気づき、悲しくなった。

(レーア、君はやっぱりディバートの事が好きなのか?)

「でもディバート、元気そうで良かったわ。私、もっとやつれて病気にでもなっているんじゃないかと思って、心配してたのよ」

 レーアがディバートに顔を近づけて言う。ディバートはそれでも、

「ああ、そうだな」

と空返事をしていた。


 ザンバースは自宅の書斎のソファにタイト・ライカスと向かい合って座っていた。ライカスはビックリして、

「ドッテルがミストラン君を?」

「そうだ。知らなかったのか?」

 ザンバースは目を細めて尋ねた。ライカスはザンバースの表情にギクリとし、

「はい。ミストラン君が、時々私の机の中を探っているのは知っていましたが、彼女の後ろにそんな大物がいるとは思いませんでした」

 ザンバースは目を伏せて、

「君が私のところに訪れなかったら、私はこの事を君に話さずにおこうと思っていた。君がドッテルに足をすくわれるのを見ていようと思ったのだ」

「はァ……」

 ライカスは恐縮していた。ザンバースは目を上げて、

「しかし、君は天性の勘の良さから、身辺に何か起こっている事を感じて、私のところに来た。それでこそ、私の右腕たり得る」

「はっ、ありがとうございます」

 しかし、さすがのザンバースも、執事のケラル・ドックストンが会話の一部始終を立ち聞きしている事は知らなかった。


 ディバートはアジトり中をウロウロし始めた。レーアが、

「ディバート?」

と声をかけた途端、彼はアジトを飛び出して地下道に出た。レーア達は驚き、すぐに彼を追った。

「うおおおっ!」

 ディバートは闇に向かって銃を構え、全弾撃ち尽くした。そして、ガックリと膝を着いた。レーアがソッと近づき、

「ディバート……」

と方に手をかけた。ディバートは声を立てずに泣いていた。

(ディバート……。可哀想……)

 レーアは思わずディバートを後ろから抱きしめた。

「羨ましいぞ、ディバート」

 ナスカートが呟いたので、

「不謹慎だよ!」

とカミリアが頭を叩いた。

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