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第二十五章 その二 別れと再会

 レーアとナスカートとカミリアは、アイデアル郊外にあるパルチザンのアジトで開かれている会議に出席していた。そこには数百人のパルチザンが集まっていた。ナスカートがレーアとカミリアを一同に紹介し、議長席に着いた。ディバートに代理を頼まれたのである。彼は軽く咳払いをしてから、

「カメンダール・ドルコムを味方にし、内部からの突き崩しをしようとしていた矢先に、ドルコムが逮捕され、今度はメラトリム・サイドが総裁に収まるらしい。次の標的(ターゲット)はサイドだ。奴を叩く。奴の動きはすなわち、ザンバースの動きである。そこで諸君に意見を求めたい」

 男が一人手を挙げた。ナスカートが指名する。

「キャム、何かあるか?」

「ああ。恐らく、サイドはドルコム同様、ザンバースの操り人形に過ぎないと思う。当面は奴を叩く事にしても、その後の事も考えた方がいい。今、連邦各地で同志が次々に殺害されている」

 すると今度は女性が挙手をして立ち上がった。ナスカートは女性を見て、

「イブ、何だ?」

「ナスカート、今のような地下運動ではダメなんじゃない? もっと表立って、ザンバースと戦った方がいいと思うけど」

 するとナスカートは、

「それは言われるまでもない事だが、今は時期が悪い。俺達とザンバース、国民はどっちを信用すると思う?」

 イブはナスカートの問いかけに黙り込んだ。ナスカートは一同を見渡して、

「今俺達が表立って事を始めたら、間違いなく国家反逆の(やから)として、連邦中から憎まれる。情けない話だが、今はまだ地下に潜伏しているしかないんだ」

 するとそれを聞いていた隣席のレーアが、

「ナスカートもたまにはいい事言うのね」

 ナスカートはムッとして、

「俺はいつもバカ言ってる訳じゃないよ!」

と言い返した。するとレーアは小声で、

「そうね。私やカミリアのシャワーを覗いたり、お尻を触ったりと、大忙しだもんね」

 本当の事なので、ナスカートは何も言い返せなかった。

 会議はその後もしばらく続けられたが、結局当面はサイドをマークする事で一致し、終了した。


 ミローシャは安ホテルを引き払い、子供達と街に出た。彼女がボンヤリして角に立っていると、後ろから声をかけられた。

「ミローシャ・ドッテル様ですね?」

 ミローシャが振り返ると、そこにはドッテルの部下の一人が立っていた。

「貴方は……」

 ミローシャは男の顔に見覚えがあったので、後退りした。するとその男は、

「ドッテル専務取締役の元で働いておる者です。一度お目にかかった事があります」

「ええ。どうして私を……?」

「専務のご命令で、探しておりました」

「主人の?」

 ミローシャはドッテルが自分を探しているのを知り、急に嬉しくなった。その部下は更に、

「お宅にお戻り下さい。お送り致しますので」

「え、ええ……」

 ミローシャは逆らわずに、部下と共に大型のホバーカーに乗り込んだ。


 レーアは元のアジトに戻っていた。

「リームが死んでしまって、ディバートがいなくなって、随分と寂しくなったな」

 ナスカートが言った。するとレーアが、

「ホントかしら? 今までよりずっと、覗きとセクハラが酷い気がするんだけど、ナスカート?」

と軽蔑の眼差しを向ける。カミリアはクスクス笑っている。するとナスカートは、

「カミリアはともかく、レーアのは触り甲斐がないんだよな」

「何ですって!?」

 レーアがナスカートに詰め寄った。ナスカートは苦笑いして、

「いや、その何だ、深い意味はないから……」

と意味不明の言い訳をした。カミリアも呆れ顔で、

「全く、会議の時の凛々しさなんて、一欠片もないんだから。まるで別人だね」

 レーアは深々と椅子に座り直し、

「今頃ディバート、どうしているのかしら?」

 カミリアがレーアを見て、

「そんなに彼の事が気になるの?」

 レーアはその言葉にムッとして、

「べ、別にそういう意味じゃないわよ! 親友を失った悲しみって、私には想像つかないから……」

「私にはわかるよ、ディバートの気持ち……。でも彼は大丈夫。私も立ち直ったんだから」

 カミリアの言葉にレーアは大きく頷いた。それを見て、ナスカートは寂しそうに俯いた。


 ミローシャは、ドッテルと邸の居間で向かい合って立っていた。

「貴方……」

「ミローシャ……。お前は一体、どこで何をしていたんだ?」

 ミローシャは何も言わずにドッテルに抱きついた。ドッテルもミローシャを抱きしめて、

「ミローシャ?」

と彼女の顔を覗き込んだ。ミローシャはドッテルを見上げて、

「ごめんなさい、貴方……。私、とんでもない事をしてしまって……」

「聞いたよ、カレンから」

「えっ?」

 ミローシャはギクッとしてドッテルを見た。ドッテルは目を伏せて、

「もうあの女とは会わない。あの女はとんでもない女狐(めぎつね)だった。私は清流しか知らなかった。それなのに敢えて濁流を求め、激流に呑み込まれそうになった。私にはやはり、清流の方がいい。許してくれ、ミローシャ」

 ミローシャは驚いて夫を見ていた。ドッテルは苦笑いして彼女を見、

「私はバカだった。外に刺激を求めたかっただけなのだ。結局はお前に私の事を認めてもらおうとしてやった事だったのかも知れない」

「貴方……」

 ミローシャは目に涙を浮かべて微笑んだ。ドッテルは強くミローシャを抱きしめた。

「もうお前を悲しませるような事はしない。カレンと付き合ってみて、初めてお前の素晴らしさがわかった気がする」

「ありがとう、貴方。私も貴方に離れられて、初めて貴方をどれほど愛しているかわかったわ」

 二人は見つめ合い、長い口づけをかわした。何もかも終わったかに見えた。しかし、まさしく事はこれから始まろうとしていたのである。


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