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第二十二章 その三 瓦解する連邦制

 アジバム・ドッテルの邸では、妻のミローシャが自分の寝室でトランクに服を詰め込んでいた。

(私達、もうおしまいね。貴方の浮気は新婚当時からだけど、これほど長く同じ女の人と続いた事はなかったわ。本気なのね、貴方も、その女の人も……)

 ミローシャは目に涙を浮かべていた。

「お母さーん」

 男の子一人と女の子二人がミローシャのところにやって来た。男の子が七歳、女の子は五歳と四歳。まだ三人共可愛い盛りの歳だ。ミローシャは涙をソッと指で拭って、

「なァに、三人共?」

「どこかへお出かけするの?」

 男の子が尋ねた。ミローシャはニッコリして、

「ええ、そうよ。ちょっと旅行をしようと思うの。貴方達も一緒にお出かけする?」

「うーん」

 三人はニッコリして大きく頷いた。ミローシャは三人をギュッと抱きしめて、

「そう。じゃ、すぐにお出かけの支度をしましょうね」

と涙声で言った。


 カメンダール・ドルコムは、総裁執務室で机に向かい、連邦六法全書を開いていた。彼はニヤリとして、

「連邦憲法第六十条第二項。総裁は任意に各省庁長官を罷免する事ができる。第百十条第二項。連邦警備隊は総裁直属の機関とし、総裁の指揮・命令で動くものとする」

 彼は憲法の条文を読み上げて立ち上がった。

「ザンバースめ。自分が今どんな立場なのか、思い知らせてやる。誰が貴様の言う通りに動くものか」

 ドルコムの野望に火が点いたのである。彼は六法全書をパンと閉じ、机から離れて窓の外を見た。

「今なら、ザンバースを潰す事ができる。今なら、私が事実上の支配者になる事ができる」

 ドルコムの野望は、まさに果てしないものであった。

「思い知るがいい、ザンバース。私に対する仕打ち、何倍にもして返してやるぞ」

 ドルコムは机の下に盗聴器が仕掛けられているのに気づいていなかった。ドルコムの考えは、ザンバースに筒抜けだったのだ。


「愚か者め。思い知るのは、貴様の方だ、カメンダール・ドルコム」

 ザンバースは盗聴器の受信機から聞こえるドルコムの声を聞き、呟いた。

「如何致しましょう、大帝?」

 机の反対側に立っているミッテルム・ラードが尋ねる。ザンバースは彼を見上げて、

「前にも言ったように、放っておくのだ。奴は必ず私を更迭する。それが私の狙いだ」

「はァ……」

 ミッテルムにはザンバースの意図がわからなかった。いや、わかるのが恐ろしかったと言うべきだろう。

「いずれにせよ、ドルコムには、死んでもらうしかない。無理に殺す必要もあるまいが外部との連絡をとれない場所で退場してもらうのが良かろう」

「はい」

 ザンバースはフッと笑って、背もたれに寄りかかった。


「危険だな。何も知らない国民は、政府がやっている事を正当化してしまう。このままでは、名目上は連邦制でも、実質的には帝政の恐怖政治と変わらない」

 ディバートが言った。ナスカートも真剣な顔で、

「そうだな。やっぱり、例え俺達が国民に悪者扱いされて罵られようと、このまま黙っているのは良くないな」

と言った。すると彼の顔をレーアがジッと覗き込む。ナスカートは彼女の顔があまりに近いので、ちょっとドキッとした。

「へえ。ナスカートは、只のスケベじゃなかったんだ。見直しちゃった」

「おい!」

 ナスカートはムッとしたが、レーアの顔がすぐそばにあるので、また赤くなった。

「それで、具体的にはどうするんだ?」

 リームが先を促す。ディバートは腕組みをして、

「そうだな……。さっきレーアが言ったように、ドルコムを捕えて、ザンバースのやろうとしている事を聞き出してみるしか手はないと思う」

「でも、それじゃあ父の思う壷なんでしょ?」

 レーアが口を挟んだ。ディバートはフッと笑って、

「仕方ないさ。ザンバースの正体を国民に知ってもらうためには、ドルコムを捕えて、奴をこちらの味方にするしかない。ドルコムだって、ザンバースに利用されているのがわかれば、寝返るはずだ」

 すると今まで黙っていたカミリアが、

「でも、ドルコムって、寝返りの名人だよ。どうするのさ、その事は?」

 ディバートとリームとナスカートはハッとして顔を見合わせた。するとレーアがニコッとして、

「大丈夫よ。何とかなるんじゃない?」

 ナスカートは呆れてレーアを見た。

「全く、レーアは楽天的だなァ……」

「そうかしら?」

 レーアはキョトンとして言った。


 こうして、一つの時代が壊滅に向かって滑り出したのである。

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