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第二十二章 その二 傀儡政権

 地球連邦議会の上院本会議場では、まさに刑法の改悪が行われようとしていた。ハト派とタカ派の議員が揉めてはいたが、政府高官や各州の要人がテロによって殺害された事実があまりにも大きく議員達にのしかかっており、改正刑法草案は、あっさりと上院で可決され、翌日下院の法務委員会に回される事になった。

「まさかこんな法案が可決されるとは思わなかったよ」

 連邦議会議長室でのソファに座って、スパイラー・ガイス議長が言った。向かいのソファに座っている副議長のランドル・タックスも、

「全くだ。とうとう、エスタルト総裁の時代は終わったな、名実共に」

「ああ」

 二人は溜息を吐いて、窓の外を見た。外はすっかり冬景色である。アイデアルの冬は、緯度の割に寒いのが特徴だ。ガイスは、

「二千五百年は世紀末だ。世紀末には、ロクな事がないな」

「そのようだな。百年前には、アーマン・ダスガーバンが地球帝国を建国したし、二百年前には、マッドサイエンティストが発明した病原菌が人類を絶滅させかけたしな」

とタックスは答えた。


 翌々日、早くも施行された「改正」刑法により、連邦各地で所謂(いわゆる)「急進派」の弾圧が開始された。幹部クラスが次々に逮捕され、あるいは射殺された。ドルコムはその報告を受けて、有頂天になっていた。

「よォし、急進派を根絶してやる。警備隊を動員して、奴らの本拠地を叩き潰せ」

 ドルコムは補佐官に登用したタイト・ライカスに命じた。しかしライカスは、

「それはできませんよ、総裁」

「何? どういう事だ!?」

 ドルコムは眉を吊り上げてライカスを睨んだ。

「大帝が許可されません」

 ライカスがあっさりと言うと、ドルコムはムッとした。

「ザンバースは名目上は私の部下だ。そんな事は許さん!」

 するとライカスはキッとドルコムを睨み返し、

「わかっていらっしゃらないようですね、ドルコムさん」

「何だと!?」

 ドルコムは遂に立ち上がった。ライカスは冷徹な目で彼を見て、

「貴方は一体誰のおかげで総裁になれたとお思いですか? 大帝のお力添えがあったからでしょう?」

 ドルコムは歯軋りして拳を握りしめたが、何も言い返さない。

「貴方は事実上は大帝の部下です。大帝が許可されない事は、一切できませんので、そのおつもりで」

 ライカスの声は事務的で冷たかった。ドルコムは、骨の髄まで、自分がザンバースの操り人形なのだという事を思い知らされた。

(くそう、ザンバースめ。この俺を利用するつもりだな。しかし、俺は転んでも只では起きん男だ。貴様に煮え湯を飲ませてやる!)


 レーア達は、テレビのニュースで、急進派弾圧を伝える映像を見ていた。それは残酷だった。急進派と言われている男の家を外から砲撃し、一家を皆殺しにしているのだ。しかし、ナレーションでそれが正当化される。

「このように、非常手段に訴えない限り、急進派のテロは後を絶たないでしょう」

「何言ってやがるんだ!?」

 ナスカートが怒ってテレビを消した。彼は黙ったままのディバートを見て、

「いいのかよ、ディバート? このままじゃ俺達、悪者にされちまうぜ? そうでなくても、世間の風当たりが強いのにさ」

 ディバートはナスカートを見て、

「何とかしようとは思っている。だが、今動いたりしたら、テロは我々がやっていると肯定するような者だ。今は仲間がこれ以上犠牲にならない方法を考える方が先だ」

「そうだな」

 リームが同意した。レーアが、

「ドルコムって言うバカなオヤジを捕まえたら? この際、悪者にされたんだから、とことん悪者になって、何とか今の状態をひっくり返しましょうよ」

「しかしそれではザンバースの思う壷だ。奴はドルコムを潰すつもりで、ドルコムにあんな事をされているんだから」

 ディバートの指摘にレーアはションボリした。

「そうね……」

 カミリアは只黙って下を向いていた。

(一刻も早くあんたの仇を討ちたいよ、トレッド……)


 カレン・ミストランは、ドッテルとホテルのベッドに横になっていた。二人共何も身に付けていない。カレンは幸せそうに微笑み、ドッテルの広くて厚い胸に顔を寄せていた。

「まだ奥さんと別れられないの?」

 ドッテルはカレンを見て、

「まだだ。ナハルのじいさんがくたばって、ミケラコス財団が私のものになるまでは、ミローシャと別れる事はできない。私は無一文になりたくないからね」

「私は貴方が例えホームレスになってもついて行くわ。愛しているの」

「カレン……」

 カレンの目は真剣で、口元の微笑みは消えていた。ドッテルは天井に目をやり、

「そう思い詰めるな、カレン。ミローシャと君では、雲泥の差だ。彼女の方から別れ話をさせる方が得策だろう?」

「ええ、そうね」

 カレンの右手がドッテルの首に巻きついた。ドッテルもカレンを抱き寄せて、

「それまでは君は今のままでいられると思うよ」

「ありがとう」

 二人は貪り合うように口づけをした。それはかなり長いものだった。

「こうしていると、君に生気を吸い取られるようだ」 

 ドッテルが言うと、カレンは、

「そう? 私は貴方から強いエネルギーをもらっているみたいよ」

と答えた。

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