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第二十一章 その三 カレンとドッテル

 ザンバースは秘密の地下室で、エッケリート・ラルカスからの報告を受けていた。他の幹部達は黙ってラルカスの話を聞いていた。

「なるほど。成果は上々という訳か」

「はい。パルチザンの壊滅も、時間の問題かと……」

 ラルカスは自信に満ちて言った。しかしザンバースは、

「連中を侮るな。連中は組織的に相当強大だ。打撃を与える事に成功したくらいで、壊滅などを考えるな」

「はァ……」

 ラルカスはいささか呆気に取られた。ザンバースは一同を見て、

「それより、ドルコムのバカ者が突拍子もない事を言い出す前に、奴の始末の事を考えろ。これは幹部全員に言える事だ」

と言った。


 ミケラコス財団の事実上の支配者であるアジバム・ドッテルの妻ミローシャは、カメンダール・ドルコムの総裁就任式に一人で出席していた。ドッテルが多忙という理由で、彼女と出席する事を拒んだからである。彼女はドッテルの浮気を薄々感じているのか、悲しそうに手にしたグラスを見つめていた。祝賀会なので他の人々は楽しそうなのに、彼女はとてもそんな気持ちになれなかった。

「ミローシャ様ではありませんか?」

 一人の婦人が声をかけた。ミローシャはハッとして婦人を見た。その婦人は、ドルコムの近親者だった。

「どうなさいましたの?」

「いえ、別に何でもありませんわ」

 ミローシャは作り笑いをしてその場を離れようとした。するとその婦人が、

「ご主人はどうなさいましたの?」

 ミローシャはギクッとして立ち止まった。婦人はニヤリとして、

「こんな事、申し上げない方がよろしいのでしょうけど、ご主人が若い女の方とホテルに入るのを見かけたという方がいますの。もっとも、ホテルに入ったからと言って、浮気とは限りませんでしょうが」

 ミローシャは思わずグラスを握りしめた。手が震えて中のワインがこぼれた。婦人は嘲るように笑って、

「やっぱり申し上げない方が良かったですわね」

と立ち去った。

(貴方、やっぱり浮気を……。でも……)

 ミローシャは自分にドッテルを責める資格がない事がよくわかっていた。


 バジョット・バンジーは選挙管理委員会の委員の一人が、自分の家に入るのを見届けると、周囲を見回した。彼は人がいない事を確認してから、その家に近づいた。その時、中から銃声が聞こえた。バンジーはギョッとして、

「何だ?」

とすぐさま玄関へと走った。しかし、ドアはロックされていて開かない。

「くそう!」

 彼は裏口に回ったが、やはり同じだった。そして、庭に転がっていた石を拾い、それでガラスを割ってロックを開き、中に入った。

「どこだ?」

 バンジーは部屋を見て回った。委員は玄関を入ったところにあるリビングルームのソファの上で、頭を小銃で撃ち抜いて死んでいた。

「自殺……?」

 テーブルの上には、封書があった。遺書のようだ。バンジーは周囲を探った。誰もいない。

(自殺か、やはり……)

 彼は電話に駆け寄り、アイデアル警察本部に連絡した。

「あっ、こちらアイデアル五十番街のメセタ・コリアムの家です。コリアム氏が拳銃で自殺しました。ええ。すぐに来て下さい」

 バンジーは受話器を戻し、もう一度取った。

(ドックストンさんにも伝えておくか)

 彼はケラルの部屋への直通電話の番号をプッシュした。


 ケラルはその夜、ディバート達のアジトに赴き、バンジーからの話を伝えた。

「本当にそのメセタ・コリアムって男、自殺したんでしょうか?」

 リームが言う。ケラルは、

「バンジー君の口ぶりでは、疑わしいな。時期が時期だけにね」

 レーアは、

「でもバンジーさんが入って行った時、誰もいなかったんでしょ? 自殺じゃないの?」

「暗殺団になら、自殺に見せかけるくらい、朝飯前さ」

 ナスカートが答えた。ケラルは頷いて、

「とにかく、いずれにせよ、ザンバースはドルコムを使って何かをしようとしている事は確かだ。当面はドルコムをマークする事にしよう」

「はい」

 ディバート達は頷いた。


 ドッテルとカレンは、またホテルの最上階のレストランで食事をしていた。外は夜景で彩られている。

「二十五世紀も、もうすぐ終わりだね、カレン」

「ええ」

 カレンはすっかり変わっていた。化粧もうまくなり、服装も様変わりし、仕草も女性らしくなった。ドッテルは満足そうにカレンを見つめた。

「君は変わったね。初めて会った時は、実に野暮ったい娘だと思ったが」

「フフフ……」

 カレンは赤くならずに笑った。

(少し図々しくなったな、この女)

 ドッテルは思った。

「ミローシャが見たらどう思うだろうね、私達の事を?」

 ドッテルが尋ねる。するとカレンはニッコリして、

「貴方と別れる決心をなさると思いますわ」

「そうか」

 ドッテルはニヤリとした。

(大した女だよ。私を独占しようとしている)

 ドッテルは外に目を向けた。十二月である。雪が窓の外でチラチラ舞い始めていた。

「雪か。冷えるはずだ。もうすぐ年末だからな」

 ドッテルは、二千五百一年を自分の年にしようと考えている。

 雪はやがて本降りとなり、首都アイデアルの街を包んで行った。


 その雪が降る中をバンジーが歩いていた。

「ザンバースめ、何を企んでいるんだ?」

 彼はコートの襟を立て、道を急いだ。


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