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第二十一章 その二 カメンダール・ドルコム

「皮膚感染する伝染病のようだから、食器は特に気をつけなければならない。それから、レーア君の後にシャワーを浴びる者は、必ず消毒をする事だ」

 ミタルアムが言うと、レーアはションボリして、

「何だか私、黴菌(ばいきん)みたい……」

 ミタルアムは苦笑いして、

「まァ、しばらくは仕方ないね。だが、感染したかどうかはまだわからない。こればかりは様子をみるしかないからね」

「はい」

 レーアはそれでもションボリしたままだ。

「残念だなァ。レーアを優しく介抱してあげようと思ったのにな」

 戻って来たナスカートがニヤリとする。するとレーアは、

「ああ、そっか。ナスカートのセクハラから逃れられるって言うメリットもあったのね。良かった」

と言い返す。ナスカートはムッとしたが、何も言わなかった。その時ディバートがハッとしてテレビを点けた。ミタルアムはソファに腰掛け、

「今日は総裁選があったんだね」

「ええ」

 一同はテレビに見入った。そして、ドルコム圧勝を知り、仰天した。

「一体これは……?」

 ディバートとリームは絶句した。ミタルアムは画面を見たままで、

「全く、ザンバースと言う男は、ビックリ箱をいくつも隠し持っているな」

「……」

 レーアは複雑な思いでテレビを見ていた。

(パパ……)

 ディバートはそんなレーアを悲しそうに見つめる。

(レーア……。辛いんだろうな)

 ミタルアムはその様子を見て、

(そうか、君もようやく女性不信を脱する事ができたのか)

と微笑んだ。


 翌日、午前中にドルコムの当選確実が決まり、報道陣はラストの事務所から一斉にドルコムの事務所へと移って行った。

「全く、意外でしたね」

 選挙参謀にそう言われて、ラストはハッと我に返った。彼は自嘲するように、

「選挙は全く水物だよ。()に恐ろしきは、国民の心かな、だ。勝てる自信は岩のように確固たるものだったのに……」

「はァ……」

 ラストのような実直な人間には、まさかザンバースが不正介入をしたなどと言う事は思いつく事もできないだろう。


 ドルコムは、報道陣に囲まれて、ご満悦であった。投票日の昨日とは打って変わって、彼は満面笑顔である。

「当確が出た時は、どんなお気持ちでしたか?」

「嬉しかったに決まっていますよ。そんな下らない質問はしないで下さい」

 ドルコムはニコニコしながら記者会見に応じていた。その後の彼の運命がどれほど悲惨なものになるのかも考えずに。


 バジョット・バンジーは、ドルコム当確の報道を知るや否や、アパートを飛び出し、ホバータクシーを拾うと、総裁選挙管理委員会のある連邦ビル新館へと向かった。

(ザンバースが何かをしたに違いない。でなければ、ドルコムが圧勝するはずがないんだ)

「釣りはいらないよ」

 バンジーはタクシーを降り、新館へと走った。しかし彼は、新館の周囲で警備隊員が警戒しているのに気づき、足を止めた。

「くそ、近づけそうにないな」

 バンジーは茂みの中から様子を窺った。その時、選挙管理委員の一人が震えながら新館から出て来た。男は中年のごま塩頭の痩せ形で、警備隊員に追い立てられるようにして新館から離れた。

「様子が変だな」

 バンジーはソッと男の後をつけた。


 ドルコムは就任後の政策について尋ねられると、

「まずは古い因習の破壊です。人間は能力のある者が上に立つべきであり、年齢で上下をつけるのは間違っています。それから、旧帝国軍の滅亡と共に警備隊は不要だなどと仰る方もいらっしゃるようですが、警備隊の任務は、何も戦闘行為に限られている訳ではありません。現に、赤い邪鬼と名乗る訳の分からんテロ集団がいるようですし、急進派の連中も危険です。そういう治安を乱す輩を叩くためにも、警備隊は必要なのです」

 すると記者の一人が、

「しかし、昔の有名な言葉に、『民主主義とは、民主主義を破壊する事を目的とする思想をも認めるものである』というものがあります。民主主義国家の樹立を目指したエスタルト・ダスガーバン総裁の意志と合致しないのではありませんか?」

 するとドルコムはキッとその記者を睨みつけ、

「そのような絵空事が通用する時代ではないのです。ムーンシャトルが爆破されたり、月面支部が占拠されたり、閣僚会議室が爆破されたりしているのですよ」

 記者達はドルコムの言葉に顔を見合わせた。


 アジトにまたミタルアムと友人の医師が来ていた。医師はレーアを見て、

「どうやら感染はしていなかったようです。カミリアさんのサンプルを分析した結果、新種のウィルスによる伝染病だという事がわかりました。突然変異と言っていいでしょう」

 レーアは思わず唾を呑み込んで、

「それで、治せるんですか?」

 医師は大きく頷き、

「発見が早ければ可能です。カミリアさんは大丈夫ですよ」

「良かった」

 レーアは嬉しそうにカミリアを見た。カミリアはまだグッタリしていたが、微笑み返した。

「しかし、この伝染病はカミリア君だけが(かか)った訳ではなかったんだ」

 ミタルアムが衝撃の事実を告げた。

「ええっ!?」

 ディバート、レーア、リーム、ナスカートの四人が一斉に叫んだ。ミタルアムは続けた。

「各地のパルチザン隊にも、この伝染病に罹っている者がいる事がわかった。何人かは早期発見だったので、助けられたが、ほとんどの者が、手遅れだった」

「……」

 レーアとディバート達は暗い表情で俯いた。

「畜生、俺達を内部から滅ぼそうっていうのか!」

 ナスカートが叫んだ。ミタルアムは腕組みをして、

「そのようだな。一刻も早く、防御策を講じなければ、大変なことになる」

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