表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/240

第二十一章 その一 カミリア発症

 二週間に渡る連邦総裁選の候補者二人の選挙運動が終わり、投票日になった。地球中の各地の投票所に有権者達が期待と不安を胸に秘め、足を運んでいた。事情を知らない新聞や雑誌は、ケラミス・ラスト優位を伝え、世論調査センターもラスト当確を弾き出していた。テレビ局のほとんどがラストが当選した場合の今後の政局について報道していた。

 そのラストと選挙を戦ったカメンダール・ドルコムは、自分の選挙事務所で運動員達と報道番組を見ていた。

「どのチャンネルも、ラストの事しか取り上げておらん! 何という偏向報道だ!」

 ドルコムは激怒していた。彼が怒るのも無理はなかったが、運動員達は諦めていた。評判の悪さは連邦政府随一、国民のアンケート調査では、嫌いな政治家・政府高官のトップである。選挙に勝つこと自体が奇跡に等しいのだ。ザンバースが後押しをしてくれるとは言っても、彼にも集票能力の限界があろう。運動員達は当たり障りのないくらいに仕事をこなそうと考えていた。

「しかし、私には総裁代理がついてくださっている。神が私に味方してくれている」

 ドルコムはニヤリとした。


 カミリアは二週間経っても一向に回復せず、寝込んだままだった。レーアはその間ずっと甲斐甲斐しく彼女を看病していた。

「レーア、少し休まないと、君まで倒れちまうぞ」

 ナスカートが珍しく真剣な表情で言った。しかしレーアは、

「大丈夫。私、カミリアを助けたいの」

「やっぱり、医者を呼んだ方がいいんじゃないか?」

 リームが口にすると、カミリアは彼を見て、

「ダメだよ。医者をここへ連れて来るわけにはいかないし、私の顔は警備隊に知られているから、病院に行く訳にもいかないよ」

「……」

 リームとディバートは顔を見合わせた。レーアは、

「どうすればいいの? 今度捕まったら、カミリアは殺されちゃうかも知れないわ」

「首領に相談しよう」

 ディバートが言った。するとカミリアは、

「ダメだよ。私一人のために、首領に迷惑をかけられないって何度も言ったろ?」

「カミリア……」

 ディバートは悲しそうに彼女を見る。カミリアは自嘲気味に、

「恥ずかしい話だけど、私はまだ死にたくないんだ。トレッド達の(かたき)を討つまではね」

 リームが、

「ケスミーさんに相談してみよう。あの人なら、何とかしてくれるかも知れない」

「そうだな」

 レーアはミタルアムおじ様なら、と思い、ホッとしたように微笑んでカミリアを見た。しかし、カミリアの顔は晴れなかった。


 夜になった。即日開票分が全て開票される。報道陣やラスト陣営はもちろん、ドルコム自身までもが驚いた。即日開票分だけで、ドルコムがラストに一千五百万票も差をつけて優位に立っていたのだ。連邦ビルの秘密の地下室でその情報を得ていたザンバースの部下達は、唖然としていた。

「ま、まさか……。そんな……」

 科学局長のエッケリート・ラルカスが一番驚いていた。彼はザンバースを見て、

「これが大帝が仰っていた不正介入による選挙操作の成果なのですか?」

「そうだ」

 ザンバースはニヤリとし、

「いくら科学が発達し、コンピュータが高度化しても、所詮それを動かすのは人間という事なのだ」

「つまり、選挙管理委員会の委員を……?」

 リタルエス・ダットスが口を挟んだ。ザンバースは彼を見て、

「そうだ。選挙管理委員会の委員を抱き込み、ドルコムとラストのキーを入れ替えさせた。つまり、ドルコムの票が実際にはラストの票で、ラストの票が本当はドルコムの票。これが真相だ」

 一同は戦慄した。ニヤッとしたのは、ザンバースとマリリアの二人だけである。タイト・ライカスが、

「しかし、いずれは不正が発覚します。どうなさるおつもりです?」

「大丈夫だよ、ライカス。委員はカッテムに始末してもらう。仮に発覚したところで、疑われるのは私ではなく、ドルコムだ」

 ザンバースはこの上なく冷たく笑った。


 ディバート達のアジトでは、ミタルアムと彼の友人の医師が来ていて、カミリアを診察していた。例によって、ミタルアムも含めた男性陣は、通信室に押し込められ、外から椅子でつっかえ棒をされた。

「これは……」

 医師はカミリアの皮膚の状態を見て驚いていた。

「彼女の傷口に直接触った人はいますか?」

「あの、私が触りました。消毒液を塗ったので……」

 レーアが不安そうに答えた。医師はレーアに近づき、

「貴女に感染した恐れがある。これは伝染病の一種のようだ」

「ええっ!?」

 その声は通信室にも聞こえていた。

「おい、大丈夫なのか?」

 ミタルアムが尋ねる。医師は、

「カミリアさんは二週間臥せっていたのですね?」

「はい。そうですが……」

 レーアはますます不安になって行く。医師はレーアを見て、

「この伝染病は潜伏期間があるようです。貴女も何日か後に発病するかも知れません」

「えっ?」

 レーアはギクッとして医師を見る。医師は、

「とにかく、貴女にも一応注射をしておきますが、効き目があるかどうかわかりません。カミリアさんから採ったサンプルをこれから病院に持ち帰って、分析してみますが……」

「はい……」

 しばらくして解放されたナスカートとリームに送られて、アジトを出て行った。ミタルアムはレーアを見た。するとレーアは何を思ったのか、

「おじ様、ごめんなさい。ナスカートなんかと一緒に扱ってしまって……」

と慌てて謝った。ミタルアムは苦笑いして、

「いや、仕方ないよ、女性の診察をするのに、我々が同席する訳にはいかないからね」

「ありがとう、おじ様」

 ミタルアムは微笑んでから、

「それより、レーア君こそ大丈夫かね?」

「はい、今のところは……」

 レーアは注射された左腕を擦りながら答えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ