第二十章 その二 カミリア救出
ミタルアム・ケスミーは、解放記念広場にいた。そこでは、人々がエスタルトの肖像画や写真を焼き捨て、銅像や石像を打ち壊していた。ミタルアムの傍らにはザラリンド・カメリスがいる。彼は燃え盛る火の音と石像と銅像が砕かれる音を聞きながら、
「連邦が終わる音ですね」
「ああ。まさしくそうだな」
二人は広場を後にし、ホバーカーに近づいた。
「エスタルトさんも、やはり歴史には勝てなかったようだな」
ミタルアムが寂しそう呟く。ザラリンドは頷いて、
「はァ……。残酷なものですね、歴史というものは」
「いや、そうとばかりは言えないよ。ザンバースに歴史が合わせてくれるかどうかは、これからの成り行き次第だからね」
ミタルアムの言葉にザラリンドは彼を見て、
「歴史は勝者を作らない、という事ですか?」
「まァ、そういう事になるかな。国を治めた者が、いつまでもその統治権を手に握っていられない事は、歴史が証明している。歴史は様々な攻撃を統治者に仕掛ける。敵、裏切り者、病気、事故、老化……。この全てから逃れられる人間は存在しない」
二人はホバーカーに乗り込み、広場を離れた。
「カミリア君がリタルエス・ダットスに捕まったそうだ。ザラリンド、レーア君達を助けてやってくれ」
「わかりました、社長」
ザラリンドの答えにミタルアムは苦笑いをして、
「もう私は社長ではないよ」
と言った。
その夜、レーアとナスカートは連邦ビル近くの下水道跡のマンホールから外に出て、連邦ビル前広場へと走った。
「どうして貴方がついて来るのよ?」
レーアはムッとした顔でナスカートを睨む。まだお尻を揉まれた怨みは忘れていない。
「ディバートとリームは面が割れている。だからさ」
すました顔でナスカートは答えた。するとレーアはニヤッとして、
「あっ、そうか。ナスカートはマイナーだから、知られていないんだ」
「そういう言い方はないだろう?」
二人は連邦ビルの前に来た。警備隊員が二人、見回りで玄関前にやって来た。
「おっと!」
ナスカートはレーアを抱き寄せて、ビルの陰に隠れた。彼の右手は、レーアの胸をしっかりと揉んでいた。
「どこ触ってんのよ!?」
レーアがナスカートの手を抓った。ナスカートは苦笑いして、
「不可抗力だよ。とにかく、裏に回ろう。ここからは無理だ」
と走り出す。レーアはそれを追って、
「そうか、貴方、私があんまり可愛いから、どうにかしようと思って……」
「バ、バカな事言うなよ!」
ナスカートは赤くなって否定した。しかし、全くそんなつもりがなかったかと言うと、そうではない。レーアはニマーッとして、
「赤くなるところが怪しい」
「う、うるさいよ」
ナスカートはプイッと顔を背けた。
「へへェ、モテる女は辛いわァ」
レーアはニヤニヤして言った。
「ハン」
ナスカートは呆れ顔だ。
やがて二人は裏口に出た。警備隊員はいない。レーアは最上階に目をやった。明かりは点いていない。ナスカートも見上げて、
「ザンバースがいないから、警備が手薄なのかもな」
彼は裏口のドアを開いた。しかし何も起こらない。二人はサッと中に入る。誰かいる様子はない。
「妙だな。角を曲がったら、いきなり蜂の巣なんていうんじゃないだろうな」
「怖い事言わないでよ」
レーアは思わずナスカートに張りついた。しかしナスカートは真顔のままだ。レーアはビックリした。
(この人、一体どういう性格してるのかしら?)
「さてと」
ナスカートは受信機を取り出して、位置を確認した。
「こっちだ」
二人は壁伝いにゆっくりと進む。角に来ると、ナスカートはソッと顔を出した。しかし誰もいない。
「大丈夫だ」
二人は角を曲がり、T字路に出た。ナスカートは左右に行ってみたが、どちらに行っても発信音は小さくなった。レーアが、
「壊れてるんじゃない?」
「いや、違うよ」
ナスカートは壁を叩いた。音の違う部分がある。
「ここだ」
ナスカートはそこへ思い切り体当たりした。すると壁が動いて、どんでん返しになった。レーアは驚いていたが、中に入った。
「何だ、真っ暗だぞ」
ナスカートはライトを取り出し、足下を照らした。するとカミリアの足が照らし出されて、腰、胸、顔と照らされた。カミリアは床に倒れていた。
「カミリア!」
レーアがカミリアに駆け寄って抱き起こした。カミリアは薄目を開けて、
「レーア、ナスカート……」
「良かった、無事だったのね……」
レーアが涙ぐむ。
「ああ……」
ナスカートがカミリアを背負い、二人は廊下を裏口へと走った。そして外へと飛び出した時である。三人は強力な照明灯に照らされ、立ち止まった。
「しまった!」
ナスカートが叫んだ。光の向こうから、リタルエス・ダットスが現れた。レーアは彼を見て、
(ハゲ親父二号?)
と思った。一号は言うまでもなく、ミッテルム・ラードだ。ダットスはそんな風に思われているのも知らず、ニヤリとした。
「そこまでだ、お三方」
「最初から、出て来たところを捕まえるつもりで、面白がっていたのか。趣味が悪いぜ、おっさん」
ナスカートが毒づいた。ダットスはせせら笑って、
「捕まえるつもりはない。二人には死んでもらう。ディバート・アルターとリーム・レンダースが来なかったのは残念だったがね」
と言い放った。