第十九章 その二 悪魔の孤島解放
悪魔の孤島と呼ばれる小さな島は、超音速のジェットヘリで約五時間、北太平洋のある地点に存在している。
ヘリ四機がその島に到着したのは、日も高くなった頃である。地球の自転と逆に飛行したので、多少早く辿り着いた。砂埃を舞い上げ、四機は孤島にあるヘリポートに着陸した。
「本当に絶海の孤島だな」
記者の一人が窓の外を見て呟く。確かに島の周囲は、見渡す限り海で、水平線が続いていた。レーアとカミリアは目配せし、他の記者達と共にヘリを降りた。
「こちらへどうぞ」
先に到着していたリタルエス・ダットス達が彼等を先導する。記者達は、ダットス達に誘導されて、巨大な格納庫の前に来た。とにかく大きな格納庫で、高さは五階建てのビルくらいある。奥行きはどのくらいあるのか、正面から見たのではわからなかった。
「おい!」
ダットスが五人の警備隊員に指示する。五人は格納庫の巨大な扉を引き、開いた。中からカビ臭い空気が出て来る。
「こ、こいつは凄い」
誰ともなくそう言った。格納庫の中には、錆ついていたが、旧帝国軍の最新兵器が収納されていた。
「さァ、どうぞ。ここには、旧帝国軍の最新兵器がたくさんあります。どれもこれも、たった一基で人類を完全に全滅させるだけの威力を持っていました。帝国は、これらの兵器を使用する事なく、崩壊したのです」
ダットスの説明に記者達は驚きの声を上げながら、格納庫の中に足を踏み入れた。レーアとカミリアもそれに続いて入る。テレビ局のディレクターが、
「本部隊長、この兵器は、一体何のために、誰が、保存させたのですか?」
レーアには、その言い方はまるで用意されていた質問のように聞こえた。ダットスはいかにも話し辛そうな顔をして、
「何のためかはわかりませんが、確か亡くなられたエスタルト総裁が保存させたのだと聞いております」
「ええっ!?」
記者達は驚いてメモを取る。テレビ局とラジオ局とインターネットサイトの関係者は、慌てて機材の準備を始めた。
「凄いよ、これは……。エスタルト総裁は一体何のためにこんなものを保存したのだろうね?」
カミリアはそう呟きながらレーアを見てハッとした。レーアは泣いていたのだ。
「レーア……」
彼女はレーアの肩を抱いた。レーアは身体を震わせていた。
「伯父様が可哀想……」
カミリアはレーアの悲しみの深さを想像し、言葉を失った。
(こんな辛い事があるだろうか? 肉親である者同士の骨肉の争いを見るなんて……)
「おーい、早くしろ。カメラ、照明、いいか?」
「通信機、使えるか? 本社に連絡だ。一面トップだ。平和主義者、故エスタルト総裁、旧帝国軍の最新兵器を悪魔の孤島に隠蔽。全段抜きで行こう!」
報道陣はすでに興味本位の野次馬と化していた。レーアは肩を震わせた。
(酷い! 事情も調べないで、一方的に決めつけるなんて!)
「大帝の思惑通りになったな。これでエスタルト・ダスガーバンの名声は地に落ちる」
ダットスはニヤリとして呟いた。バジョット・バンジーは、そのすぐそばに立ち、ダットスの言葉をはっきり聞いていた。
(やはりそういう事か。ザンバースのやろうとしている事が、少しずつわかって来たぞ。大帝って言うのが、ザンバースの事だな)
バンジーは格納庫を出て、ジェットヘリに歩き出した。カミリアは泣いていて動こうとしないレーアを引っ張り、バンジーを追う。ダットスがこれに気づき、警備隊員二人に目で合図する。
「バジョット・バンジー、国家転覆準備の容疑で逮捕する」
警備隊員の一人が叫ぶ。レーアとカミリアはビックリして警備隊員を見た。警備隊員は二人を追い越し、バンジーに迫った。バンジーは立ち止まり、身構えて警備隊員に立ち向かった。
「たァ!」
意外にもバンジーは強かった。警備隊員二人は、彼に投げ飛ばされ、気を失った。ダットスはニヤリとして小銃を構え、バンジーに近づいた。
「抵抗すると射殺するぞ、バジョット・バンジー!」
カミリアがレーアに目配せする。レーアはキョトンとしたが、カミリアはサッと走り出し、ダットスに体当たりした。
「うおっ!」
虚を突かれたダットスはそのまま前のめりに倒れた。カミリアは地面を転がった小銃を拾い、ダットスから離れた。そこへ残りの警備隊員三人が記者達をかき分けてやって来た。カミリアはダットスにし小銃を向けて、
「動くんじゃないよ! あんた達が動くと、このおっさんの頭が吹き飛ぶよ!」
警備隊員は立ち止まった。他の報道陣は、思いがけない大特ダネに一瞬戸惑っていた。
「さァ、バンジーさんとそのヘリに乗り込むんだ!」
カミリアはダットス達を威嚇しながらレーアに叫んだ。レーアは頷いて、バンジーと共にダットス達が乗って来たヘリに乗り込んだ。カミリアは後退りしながら、
「私はね、銃の撃ち方くらい知ってるんだよ。嘘だと思うなら、一発撃ってみせようか?」
ダットスはカミリアが震えているのに気づき、
「撃ってもらおうか、お嬢さん」
と挑発し、近づいて来る。カミリアはギョッとして小銃を下げ、ヘリに向かった。警備隊員の一人が銃でカミリアを撃った。
「あうっ!」
銃弾がカミリアの右肩を貫き、彼女は地面に倒れ伏した。レーアが銃声を聞きつけて顔を出し、
「カミリア!」
カミリアはレーアを見て、
「私は大丈夫! 早く、早く行きなっ!」
「カミリア!」
それでも叫ぶレーアに、カミリアは、
「私の思いを台無しにしないで、レーア!」
その言葉に呼応するようにバンジーが、
「さァ、行きますよ」
とレーアを中に引き込む。そして、扉が閉じられ、ジェットヘリはエンジンを始動してヘリポートから離陸した。
「追いますか?」
警備隊員が指示を仰ぐと、ダットスは、
「その必要はない。そこに大きな忘れ物をして行ってくれたからな」
とカミリアを見た。レーア達の乗った特別機は、まもなく彼等の視界から消えた。
「カミリア、カミリア!」
レーアは扉のそばで泣きじゃくっていた。ようやく仲直りできたのに……。彼女とはこれからいろいろ話をしたかったのに……。色々な事が頭の中を渦巻いた。
「お嬢さん、カミリアさんは大丈夫ですよ。奴ら、カミリアさんに聞きたい事があるはずだ。しばらくカミリアさんは殺されないはずです。もちろん、救出しなければなりませんがね」
バンジーが操縦席から振り向いて言った。レーアは涙を拭ってゆっくりと頷いた。
ソーラータイムズの会長であるギャムリー・コーリンは、不吉な予感に襲われながら、ホバーカーに乗り込み、連邦ビルへと向かっていた。
(ザンバースめ、私を呼びつけて、何をしようというのだ?)
彼はその答えをすぐに得た。横道からいきなり大型トレーラーが飛び出して来て、ギャムリーの乗るホバーカーを跳ね飛ばしたのだ。彼のホバーカーは、何度も回転し、近くの建物に激突して爆発した。通行人が集まり、車の流れが遮断される。それを遠くから暗殺団の首領ドードス・カッテムが部下と共に眺めていた。カッテムは、
「ギャムリー・コーリンは、事故で死んだ。後はバジョット・バンジーだ」
と呟いた。




