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第十八章 その三 二人のメディア王

 カレン・ミストランを籠絡するため、アジバム・ドッテルは彼女を行きつけのブティックに連れて行き、ドレスを新調させた。

 店長が店の専属デザイナーを呼び、カレンを見立てる。

「まァ、お綺麗な方ですわね。奥様でいらっしゃいますか?」

 事情を知らない彼女は、眼鏡をクイッと上げながら尋ねる。店長が慌てて小声で説明すると、デザイナーはギョッとして、

「失礼致しました、ドッテル様。早速、採寸をさせていただきます」

と言い、メジャーを取り出した。肩幅、胸囲、腰回り……。彼女は精密機械のような正確さで、目紛しく動いた。

「素晴らしいプロポーションですわ。モデルさんかしら?」

「いえ、公務員です」

 カレンは消え入るような声で答えた。デザイナーはニッコリして、

「そうですの。シェイプアップをなさっているのかしら? ウエストが本当に綺麗な曲線を描いていますわ」

「いいえ、別に何もしていませんが」 

 相変わらずカレンは控え目に言う。デザイナーは歓喜の声を上げた。そして店長に、

「信じられませんわ、この方! 私、長年このお仕事をさせていただいておりますけれども、これほど素晴らしい方は初めてです」

「そうかね」

 店長はドッテルと顔を見合わせた。ドッテルは肩を竦めてみせた。


 ソーラータイムズの会長であるギャムリー・コーリンは、会長室に思わぬ訪問者を迎えていた。それは最大のライバル関係にある、コンティネントタイムズのエラロビ・ギャナピーであった。コンティネントタイムズは東アジアに本社を持つユーラシア大陸最大の新聞社で、発行部数でソーラータイムズに次いでいる。その社長のザナピーが来たのである。コーリンはすっかり驚いてしまった。

「はるばるアジアから、一体何のご用でおいでになったのですか、ザナピーさん?」

 コーリンはザナピーとソファに向かい合って座りながら尋ねた。ザナピーは葉巻をケースから取り出して、テーブルの上にある大型のライターで火を点け、

「貴方は、バジョット・バンジーを一時解雇(レイオフ)したはずですよね? どうして彼を援助しているのですか?」

 コーリンはピクンとした。

(この男、何故そんな事を知っている? 私以外、この会社の人間さえ知らないというのに……)

「何の事かよくわかりませんが、ザナピーさん」

 コーリンはニッコリしてとぼけた。するとザナピーは、

「またおとぼけですか。貴方は実にとぼけるのがうまい」

 コーリンとザナピーの間に、目に見えない火花が散っている。

(この男、ザンバースの犬に成り下がったのか。情けない奴だ)

 コーリンはザナピーを軽蔑の眼差しで見た。

「別にとぼけてなどいませんよ。貴方こそ、妙な連中と関わりがあるようですね」

 ザナピーの顔が険しくなった。

(さすがギャムリー・コーリンだ。大した度胸だよ。しかしな、空威張りもそう長くは続かんぞ)

 二人のメディア王は、とうとう腹の探り合いを諦めて、立ち上がった。

「どうやら、私の誠意が通じなかったようですな。残念ですよ、コーリンさん」

「そうですか」

 お互いに相手を見る目は、射殺しそうなくらい鋭かった。


 翌日、レーアとカミリアは、バジョット・バンジーのアパートを訪ねていた。

「いや、こりゃ参ったな。若い女性に来られたのは初めてでしてね」

 バンジーは慌ただしく動き、散らかった部屋を片づける。そしてササッと折りたたみの椅子を二人の前に並べ、パンパンと埃を払う。

「まァ。かけて下さい」

 彼はその足で奥に行き、パーコレーターのスイッチを入れ、冷蔵庫を覗く。レーア達はその間に椅子に腰を下ろした。

「おっと。お二人の好みを訊いておかないとね。コーヒーと紅茶、どちらがいいですか?」

「どちらでもいいです」

 レーアが答える。カミリアが続けて、

「私も」

 バンジーはニッコリして準備をする。

「申し訳ない。お二人が来るのがわかっていれば、ケーキくらいご用意したんですけどね」

 レーアはその言葉に思わずカミリアと顔を見合わせてしまった。

「バンジーさんて、意外に繊細なんですね」

 レーアが微笑んで言った。バンジーは照れ笑いをして、

「ええ、まァ……」

 パーコレーターが準備完了のチャイムを鳴らす。バンジーは手早くコーヒーをカップに注ぎ、トレイに載せて運んだ。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 二人はトレイからカップを取った。バンジーは自分用の椅子を持って来て座り、

「悪魔の孤島へ行くんですってね。ドックストンさんから聞きましたよ。こちらは、カミリア・ストナーさんでしたね」

「はい」

 カミリアは頷いて応えた。バンジーは真剣な表情で二人を見て、

「貴女方が一体どういうつもりで悪魔の孤島へ行くのかは知りませんが、危険だという事はわかっているんでしょうね?」

「ええ、もちろん」

 二人は異口同音に答える。バンジーは頷き、

「わかりました。それでは、新聞記者らしく振る舞うにはどうしたらいいか、お話しましょう」

と言って立ち上がった。レーアとカミリアは顔を見合わせてから、緊張した面持ちになった。

「さて、何から話せばいいかな?」

 バンジーはテーブルの上にあったシケモクをくわえて呟いた。


「本日、ザンバース・ダスガーバン総裁代理が、悪魔の孤島を一週間後にメディアに後悔する事を発表しました。悪魔の孤島とは、旧帝国時代に……」

 テレビのニュースキャスターが、そこまで言いかけると、ディバートは電源を落とした。ナスカートが、

「いよいよだな。本格的になるのは……」

「ああ、そうだ。退けないぞ、もう」

 リームが言う。ディバートは二人を見て、

「ザンバースもそれは同じだ。気を引き締めてかからないとな」

 リームとナスカートは、大きく頷いた。

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