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第十六章 その二 第三の罪

 レーアは、ケラルの思いを知り、心が震えていた。彼女はティバートを見て、

「貴方はどうして組織に入ったの?」

 ディバートはレーアを見下ろして、

「俺はザンバースが憎かったからだ」

「えっ?」

 レーアはビクッとしてディバートを見上げた。ディバートは目を伏せて、

「俺の親父は旧帝国軍の陸軍士官だった。ある日、親父は警備隊との交戦中に、銃弾を浴びて死んだ。それから俺はずっと、ザンバースを憎んで来た」

 彼はレーアが驚いているのを見て、

「心配するな、レーア。今はそんな私情を持ち込んではいないよ。きちんとした信念の下に活動している」

 レーアはホッとしてリームを見た。リームはそれに応じて、

「俺はこいつのそばで、ずっとこいつを見て来た。だから、こいつの思いに賛同して、組織に入ったんだ」

 レーアは恐ろしくなった。

(パパの我が儘が、たくさんの人達の人生を動かしてしまったの?)

 その時、奥の通信室から音がした。

「連絡が入ったようだ」

 リームが通信室に走る。しばらくして、

「何ですって?」

 リームの叫び声が聞こえ、彼が戻って来た。

「どうした、リーム?」

 ケラルが尋ねた。

「ケスミーさんからです。ザンバースが、悪魔の孤島を解放すると……」

「何だって!?」

 ケラルとディバートが異口同音に叫んだ。レーアは何の事かわからず、

「悪魔の孤島って、何?」

 ケラルはしばらく黙っていたが、意を決したように悪魔の孤島について説明を始めた。

「悪魔の孤島とは、太平洋に浮かぶ絶海の孤島で、地図にも載っていないような小さな島です。その島には、旧帝国で開発され、帝国に対する反乱を企てている組織を壊滅させるための新兵器が保管されています」

「えっ?」

 レーアはギョッとした。歴史の授業を真面目に受けていないレーアでも、旧帝国が開発していた恐るべき殺戮兵器の事は知っていたのだ。ケラルは続けた。

「エスタルト総裁は、帝国崩壊後、帝国軍の武器庫からそれらの兵器を運び出し、孤島に移したのです。中には、処分できないものもあり、止むなくそのままになったものもあります」

 レーアは絶句していた。

(どうして……?)

 彼女には、エスタルトの真意がわからなかった。

「もし、この孤島が解放されて、メディアの出入りが自由になれば、どうしてエスタルト総裁がそのようなものを保管していたのかという事が問題となるでしょう」

 レーアは心の中でモヤモヤしていた事を口にした。

「どうして? どうして伯父様は、そんな事をなさったの?」

 しかしケラルはそれには答えずに、

「ですが、エスタルト総裁自身、いつかは悪魔の孤島を解放しなければならないとお考えだったのです。これで、第三の罪も償えましょう」

「第三の罪? 何の事?」

 レーアは自分がエスタルトの事をほとんど知らなかった事に改めて気づいた。

「第一の罪は、アーベル・ダスガーバンに帝国の愚挙を続けさせてしまった事。第二の罪は、アーベル・ダスガーバンに自殺をされてしまった事。そして第三の罪は、悪魔の孤島を国民に隠していた事です」

 レーアは涙を流していた。

「伯父様は、そんなに重い枷を嵌められたまま、三十年間も総裁をなさっていたのね……」

「あの方にしてみれば、総裁と言う重責に就く事で、罪を償おうという思いだったのでしょう。そしてあの方は、立派にその罪を償われた」

 レーアは声をあげなかったが、肩を震わせていた。

(伯父様、伯父様……)

 ディバートはレーアの姿を見て悲しくなった。

(君には荷が重過ぎるのか、レーア……)

 ディバートは、レーアを抱きしめてあげたくなっていた。彼女を本当に愛おしいと思ったのだ。

「さァ、お嬢様、邸に戻りましょう。クラリア様がお見えですよ」

 ケラルがレーアの肩に手をソッと置いた。

「クラリアが?」

 レーアは涙で濡れる瞳をケラルに向けた。ケラルはディバートとリームを見て、

「悪魔の孤島の件、私が何とかして誰かを送り込む事にする」

「わかりました」 

 ケラルとレーアは、階段を戻り、邸に帰った。そして何事もなかったかのように居間へと行った。

「まァ、お嬢様、一体どちらにおいでだったのですか?」

 マーガレットが涙声で言った。クラリアは微笑んでレーアを見ているだけだ。レーアは肩を竦めて、

「ごめんなさい。庭にいて、つい、ウトウトしていて、眠ってしまったらしいの」

 マーガレットは涙を拭いながら、呆れた顔をした。

「お嬢様ったら……。もう外は涼しくなっているのですから、お気をつけ下さい」

「はいはい」

 レーアはニコニコしてクラリアに近づいた。ケラルはその様子を見ていてビックリした。

(大したお方だ。さっきまで泣いておられたのに、そんなご様子は微塵も感じさせない……)

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