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第十二章 その三 アジバム・ドッテル

 ディバート・アルター、リーム・レンダース、ナスカート・ラシッドの三人は、テレビで連邦ビル爆破事件のニュースを見ていた。

「ザンバースめ、遂に粛清を始めたか」

 リームが言った。ナスカートが腕組みをして、

「歴史に残るって奴だな。あいつの親父のアーベル・ダスガーバンを上回るぞ」

「ああ。ザンバースは被害妄想でも幻覚症でもない。計算し尽くした上での粛清だ。恐らく、我々の同志の誰かが罪を着せられて、処刑されるだろう」

 ディバートが言う。ナスカートは溜息を吐いて、

「一石二鳥どころか、一石三鳥だな。エスタルト派の人間を抹殺できるし、俺達のせいにできるし、国民には俺達に対する悪感情を植えつけられるしな」

「そういう事になりそうだな」

 リームも腕組みをして頷いた。ディバートがテレビを消して、

「とにかく、このままにはしておけない。エスタン知事の事も手伝って、我々は国民から敵視されている。何とかしないと」

「そうだな。レーアとも連絡を取りたいし……」

 ナスカートは嬉しそうに言った。するとディバートが、

「お前、かなりレーアに期待しているらしいが、会ったらきっと幻滅するぞ」

「ディバート、そんな姑息な手を使うなよ。堂々とレーアを懸けて、競おうぜ」

 ナスカートがニヤリとして言うと、ディバートはムッとして、

「俺はレーアなんか眼中にないよ!」

と怒鳴った。


 ザンバースは、総裁執務室の隣のプライベートルームで、ある人物と会っていた。その人物の名は、アジバム・ドッテル。彼はケスミー財団に継ぐ巨大な組織であるミケラコス財団の総帥であるナハル・ミケラコスの右腕である。そして、事実上のトップだ。

「我々の援助で、君はここまでやって来られたのだという事を忘れないで欲しいね、ザンバース君。それなのに、あの法案は何かね? 君が裏で率先して連邦議会に提出させたそうじゃないか?」

 ドッテルの口調は横柄だった。ザンバースは無表情にドッテルを見て、

「言っておくが、事が(おおやけ)になって困るのは、そちらの方だという事を覚えておく事だな。財閥解体法と、財産関係所有法の直接のターゲットはケスミー財団だ。あんたのところについては、考慮するつもりでいる。しかし、それもそちらの出方次第だ」

 ドッテルも、ミケラコス財団のトップだけあって、少しも怯まない。

「わかった。権謀術数に関しては、場数を踏んでいる君には敵わんし、そういう事で争うつもりはない。私としても、ケスミーには潰れて欲しいのだ。しかし、一つ気になる事がある」

「何だね?」

 ザンバースは煙草に火を点けながら尋ねた。ドッテルはその火を見つめて、

「ミタルアム・ケスミーともあろう者が、何も手を打たないとは考えられない。奴が黙ったままとは思えん」

「もちろん、それも想定内だ。ミタルアムは、必ず私に仕掛けて来るだろう。しかし、奴は表立って私を追いつめる事はできんよ。奴の名誉も地位も全て、私が叩き潰すからね。ミタルアム・ケスミー率いるケスミー財団は、財閥解体法による強制差し押さえによって財産を失い、二度と牙を剥けないようになる」

 ザンバースはゆっくりと煙草の煙を吐き出しながら、ドッテルを見た。ドッテルは目を細めて、

「ケスミーを潰して、返す刀でウチを潰すつもりではないだろうな?」

「そんな事はせんよ。今、私には資金がいる。戦争のためのね」

 ザンバースの声は、ゾッとするほど冷たかった。


 レーアは大通りにある百貨店に駆け込み、トイレで化粧を落とし、持っていたショルダーバッグからブラシを取り出して髪をとかした。

(パパ……。とうとう、大勢の人を……)

 レーアの頬を涙が伝った。髪はようやく元に戻り、彼女はトイレを出た。

「もうこんなに暗くなっていたのか……」

 レーアは空を見上げた。高層ビルの谷間に、星が瞬き始めていた。まだ冬は遠いというのに、風は冷たく、彼女は身を縮めた。

「こんな薄着で来るんじゃなかった」

 レーアはホバータクシーを拾い、ケスミー邸に戻った。


 レーアがケスミー邸のリビングルームに入ると、

「レーア、どこに行ってたの? 出かけたっていうのは、マーボに聞いたけど」

 クラリアの第一声がそれだった。マーボとは、ケスミー邸の執事である。

「連邦ビルに行っていたの。爆破事件を直に見ちゃったわ」

 レーアは溜息混じりに答えた。クラリアは目を見開いて、

「そうだったの。それで、何かわかった?」

「ええ。パパの仕業だって……。秘書のモダラーさんが……」

 レーアは顔を俯かせた。クラリアはその名を聞いてビックリしていた。

「モダラー? マリリア・モダラーが?」

 レーアはゆっくり頷いた。クラリアはレーアをソファに誘導して一緒に座り、

「あの女狐(めぎつね)が言うのなら、間違いないわね。彼女は貴女の父上の側近だから」

 レーアはマリリアの憎らしい顔を思い出しながら、

「ええ。でも、どうしてパパはあんな事をしたのかしら? モダラーさんは、政敵を倒すためだって言ってたけど」

 クラリアは脚を組んで、

「それもあるだろうけど、貴女の父上は、自分では総裁にはなれない訳でしょ? 連邦の憲法が軍属は総裁になれないとはっきり規定しているから。だとすれば、総裁になれる人間と政府の閣僚を自分の息のかかった連中で占めるしかないのよ。当面は、連邦制が続くって事の証拠かな、あの事件は」

 レーアはソファに沈み込んで、

「そうね。私、ディバート達に連絡を取りたいわ。早く何とかしないと、取り返しのつかない事になってしまうから」

 クラリアは頷いて、

「そうね。でもレーア、貴女があまり責任を感じなくてもいいのよ。そうでなくても、最近精神的に参っているんだから」

「わかってる」

 クラリアはヒクヒクと鼻を動かし、

「夕食の準備ができたみたいね」

「そうね」

 レーアも鼻を動かした。

「行きましょ」

「ええ」

 二人は連れ立ってキッチンへと歩き出した。

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