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第十章 その一 罠

 ザンバースは、共和主義者達が鳴りを潜めたのを受けて、一時的に弾圧を停止した。共和主義者の多くは、連邦の首都であるアイデアルを離れ、各地へ隠遁していた。

 そしてレーアも、連邦ビルの前で親友クラリア・ケスミーと会って以来、彼女の家に居候していた。あれから一週間が経っていた。

「ここのところ、『赤い邪鬼』の共和主義者弾圧がなくなったわね。それとほとんど同時に、警察の捜査も終了したわ」

 クラリアがリビングルームのソファに座りながら言った。レーアとミタルアムもソファに腰を下ろした。

「今朝の新聞を見たかね?」

 ミタルアムはレーアに尋ねた。レーアは何かに怒っているようだったが、

「ええ。ソーラータイムズのバジョット・バンジーっていう記者、見つけ出して蹴飛ばしてやりたいです」

と言った。「レーア嬢ご乱心?」という見出しで、一面トップの記事が掲載されていたのだ。バンジーは裏付けを取り、真実だと確信して記事にしたのだ。

「でもねえ……。君が連邦ビルの医務室を逃げ出したのは事実だから、君が狂っているというのを否定するのは難しいと思うよ」

 ミタルアムは冷静に分析してみせた。レーアは溜息混じりに、

「そうでしょうか?」

 クラリアは肩を竦めて、

「こういう考え方って嫌なんだけど、貴女がおかしくなったという情報を流したのも、お父上の仕業じゃないかしら?」

「えっ?」

 レーアはクラリアの言葉にビクッとした。

(確かにその可能性はあるわ……。信じたくないけど……)

「そうね。そうかもね。パパならやりかねないわ。私、この頃パパが怖くなって来たの」

「私と同じね」

 クラリアは笑った。レーアもそれに釣られて笑った。


 ディバート・アルターとリーム・レンダースは、首都アイデアルから西へ五百キロほど行ったところにある、シャトールという町に来ていた。シャトールは、共和主義者の町として、その筋の者達には有名である。二人はその町の中の一軒の家に身を隠していた。

「どうしたっていうんだ? 奴らは俺達のアジトを破壊した様子もないし、弾圧さえやめてしまった。その上、これだ!」

 ディバートは、テーブルの上に、プリンターで出力した記事を叩きつけた。それには、「レーア嬢共和主義者の拷問で発狂?」と大見出しが付けられている。リームがディバートを見て、

「レーアが狂っているなんて、多分奴らの嘘だろう。ザンバースが作らせて、ソーラータイムズのバジョット・バンジーに釣らせたものだ。仮に本当だとしても、レーアが狂ったのは、ザンバースの手によるものだろう」

 するとディバートはイライラして、

「どうしてザンバースはレーアが狂っているように仕向けたんだ!? 俺にはそれがわからない」

「それは、奴が、レーアに何を喋られても平気なようにさ。レーアが狂っていると一旦噂が流れた以上、彼女が何を話しても、誰も信じないからな」

「それはそうだが……」

 ディバートは憤然としてソファに座った。リームもその向かいに座り、

「おい、ディバート、お前、こっちに来てから、毎日そんな調子だな? 一体どうしたんだ?」

「別にそんな事はないよ。いつも通りだよ」

 ディバートも、自分が苛ついているのを理解していた。しかし、彼にはそれがどうしてなのかはわからなかった。彼は、レーアに好意を抱いている自分に気づいていないのだ。

「レーアが喋らなかったとしても、トレッドの隊にいたスパイが、アジトの場所を報告したはずだろう? それなのに、何も起こらないなんて……」

 リームは彼の苛立ちに少々うんざりしながら、

「確かにな。『赤い邪鬼』も、全く活動しなくなったな」

 ディバートは脚を頻繁に組み直して、

「ザンバースは、一方で何かとんでもない事をしようとしているんじゃないだろうか? 俺達の気を逸らすためのカムフラージュじゃないか、今の沈黙状態は」

 彼は別の記事を見た。そこには、

「旧帝国軍の動きが活発化、各地で警備隊と衝突」

とあった。

「おい、リーム」

 ディバートはその記事をリームに見せた。リームは考え込んで、

「こいつはどういう事だ? 俺達の調べでは、ザンバースと旧帝国軍は繋がっているはずだぞ」

「何かあるな」

 ディバートは記事を見直した。

「ああ、そのようだな」

 確かにその通りであった。


 ザンバースは総裁執務室に隣接するプライベートルームにいた。「レーア嬢発狂?」の新聞記事を見ながら、彼はニヤリとした。

「入れ」

 ドアのノックに応じて、彼は言った。入って来たのは、ミッテルム・ラード。レーアが言うところの「ハゲ親父」である。彼は敬礼してザンバースに近づいた。

「何でありましょうか、大帝?」

 ミッテルムはそう尋ねてから、自分がバカな質問をした事に気づいた。

「ソーラータイムズのバジョット・バンジーという政治部記者が、レーアが発狂しているという記事を書いた。私は制裁措置を執ろうと思う」

「はい。如何致しましょう?」

 ザンバースはミッテルムを見て、

「もちろん、告訴だ。レーアに対する名誉毀損で訴える。手続きを済ませたら、すぐにでも逮捕状を請求し、バンジーの逮捕を決行しろ」

「はっ!」

 ミッテルムは再び敬礼をして、部屋を出て行こうとした。

「待て、ミッテルム」

 ザンバースの声に応じて、ミッテルムは振り返った。

「何でしょうか?」

 ザンバースはニヤリとして、

「まずはソーラータイムズの会長に連絡し、バンジーを解雇させろ。その上で、逮捕だ」

「わかりました」

 ミッテルムはもう一度敬礼し、退室した。


「各地の同志と連絡を取ってみたが、衝突とは言っても、全く狙わずに撃ち合いをしているだけで、死者はおろか、負傷者すらいないらしい」

 リームが言った。ディバートは頷きながら、

「そんな事くらい、俺達にだって予測できた事だ。問題は、どうして今になって、ザンバースがそんなバカげた猿芝居を始めたかっていう事だ」

「そうだな。何故だろう?」

 リームは腕組みした。

「レーアの件で、国民の目をそちらに向かせておくほど、この衝突は重要な布石なのかな?」

 ディバートも考え込んだ。

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