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第七十六章 その二 地下道混戦

 カラスムス・リリアス達と別れたレーアとメキガテルは、付近にあった大昔の下水道跡に入れる場所へと向かった。

「そんな顔するな、タイタス」

 レーアがメキガテルと行ってしまったので、タイタス・ガットはこの世の終わりのような顔をしていた。見かねたリリアスがたしなめたのである。

「わかってますけど……」

 タイタスはそれでも今にも泣き出しそうな表情でリリアスを見た。

「女性はレーアさんしかいない訳ではないだろう? 前向きになれよ」

 リリアスはタイタスが可哀想になったのか、肩をポンポンと叩いた。

「ずっと好きだったんです。そんな簡単に諦めつかないですよ」

 それでも後ろ向きな発言のタイタスである。

「親友のイスターまで、ステフといい感じになったんで……」

 タイタスの愚痴に、リリアスはステファミー・ラードキンスの容姿を思い出した。ちょっと吊り目気味だが、はきはきした印象だった。もう一人いたアーミー・キャロルドは、少しボウッとした子だが、ケスミー財団のザラリンド・カメリスといい雰囲気だったのを覚えていた。

(確かに焦るか)

 苦笑いするしかないリリアスである。

「さてと。二人がスムーズにザンバース邸まで行けるようにこっちも動くぞ」

 リリアスは部隊に号令をかけた。


 レーアとメキガテルは路地裏へと入り、袋小路になっているところで下水道跡への入り口に辿り着いた。鉄格子で閉ざされていたが、メキガテルの一蹴りで崩れるほど老朽化していた。

「さ、行くぞ」

 メキガテルは持っていた携帯ライトを点灯させ、レーアの手を握ると走り出した。

「あ、ちょっと!」

 こんな形で手を握られるなんて嫌だ、と一瞬思ったレーアだったが、今はそれどころではないと思い直した。

(パパ……)

 理由はわからないが、急がないといけないと感じる。レーアはザンバースが重傷を負っているのを親子の繋がりで感じているのだろうか?

「この地下道は帝国軍には知られていないの?」

 レーアは息を切らせながらもメキガテルに尋ねた。メキガテルは、正面を見たままで、

「気づいているさ。君も覚えてるだろう? 連中は最初、ディバート達のアジトを探すのに必死だった」

「ああ、そうね」

 レーアは不意に今は亡きディバート・アルターに地下のアジトまで連れ去られたあの日の事を思い出した。

「だからこそ、カラス達に頑張ってもらうのさ。こちらの動きを掴まれないようにね」

 メキガテルの言葉にレーアはギクッとした。

「そんな! それじゃあ、リリアスさん達が危険じゃない?」

「カラス達の危険を最小限に抑えるためにも、俺達はできるだけ早くザンバース邸に到達する必要があるんだ、レーア。もっと速く走れるか?」

 メキガテルが振り返って尋ねた。レーアはメキガテルを見て、

「大丈夫よ。こう見えて、運動神経はいいんだから、任せて」

「わかった、じゃあ、急ごう」

 メキガテルはレーアの手を放し、全力疾走を始めた。

「ああ、メック!」

 レーアは慌てて自分の携帯ライトを点灯させ、遥か先を上下しているメキガテルのライトの光を追いかけた。


 ナスカート達の部隊もやや迂回気味に大帝府を目指して進行していた。どちらの部隊も帝国軍が待ち伏せしているルートを避けたので、現場指揮官が更なる指示を上層部に仰いだ。現在、司令長官であったタイト・ライカスはザンバースに罷免されたので、最高司令官の直属の部下である各州の司令官が上層部となるのであるが、その実体は崩壊しているので、帝国軍の指揮命令系統は全てザンバースのところに集約されていた。もちろん、彼自身の指示である。

「情報が漏れているか、先発部隊がいるかだ。付近を探らせろ。それから、各兵の配置を変更し、情報の漏洩を防止しろ」

 ザンバースは指示を仰いできた現場指揮官に直接命令した。現場指揮官はザンバースが誰も介さずに命令してきたので、驚愕してしまった。

「上で何が起こってるんだ?」

 彼は眉をひそめた。しかし、そんな事を考えても仕方がないので、指示通りの事をする準備をした。

「司令、ここから三区画北にある路地裏でレーアお嬢様らしき人物を監視カメラが捉えました」

 部下の一人が報告して、送信された画像を携帯端末で見せた。指揮官はそれを見て目を見開き、

「間違いない。お嬢様だ。付近の部隊を増員し、必ずお助けしろ」

「は!」

 彼ら現場の軍人達は、自分達がどうすれば生き残れるのかを最優先に考えていた。帝国は崩壊するのではないか? そんな噂のような話があちこちで囁かれ始めているのだ。だからこそ、レーアという存在は、彼らが生き抜くための最大の手段となり得ると考えていた。


 メキガテルとレーアは、ザンバース邸まであと僅かという地点まで来ていたが、前方から近づいて来る大勢の足音に気づき、立ち止まった。

「敵か?」

 メキガテルは息をひそめて周囲を見渡す。レーアはメキガテルにしがみつくようにして震え出しそうな身体を必死に止めていた。

「後ろからもか?」

 メキガテルは背後からも接近して来る足音を察知した。

(何故気づかれた?)

 メキガテルは敵の気配がないのを確認しつつ地下道に入ったつもりだったが、彼にも監視カメラの存在まではわからなかったのだ。

「レーアお嬢様、ご無事ですか?」

 敵兵の一人が不用意にそう言ったので、メキガテルはレーアがいるのを知られている事を理解できた。

(だとすれば、無闇な発砲はないか?)

 彼はレーアを盾にするのは嫌だったが、今は一刻を争う事態なので、自分の感情を捨てた。

「レーア、強行突破だ。この暗がりでは銃撃は来ない」

 メキガテルはレーアの顔を寄せて囁いた。レーアはメキガテルの吐息と体温を感じ、胸が高鳴ってしまった。

「うん」

 メキガテルは消していた携帯ライトを点灯させると、レーアの手を握って走り出した。レーアは彼に必死になってついて行った。

「どけ、邪魔だ!」

 メキガテルは敵の先頭にいた兵を蹴倒し、その後の兵を突き飛ばして、部隊を一気に突破した。

「うわ!」

 まさか二人が突っ込んでくるとは夢にも思わなかった帝国軍兵士達は、完全に虚を突かれる形となり、駆け去った二人を追いかけるのに手間取ってしまった。

「待て!」

 彼らがレーア達を追いかけ始めた時には、もう二人の位置は肉眼では確認できなくなっていた。

「第二部隊、お嬢様はそちらに行かれた! 進路を塞げ!」

 部隊の隊長が通信機に怒鳴った。


 メキガテルとレーアは待ち伏せしている部隊の直前で進路を変更し、逃げた。慌てた帝国軍は各所に配備されていた部隊を次々に投入し、二人の進路を阻もうとした。

「メック、どうするの、周り中から足音が近づいて来るわ!」

 レーアが泣きそうになりながら叫んだ。するとメキガテルは、

「大丈夫だよ、レーア。もう終点だ」

 そう言って、壁をずらして扉を開き、レーアを先に押し込んで、自分も入った。二人はザンバース邸につながっているアジトに辿り着いていたのである。

「間一髪だったな」

 メキガテルはレーアを見て微笑んだ。レーアは呼吸を整えて、

「そうね」

 微笑み返した。メキガテルはライトで電源を探してブレーカーを上げ、明かりを点けた。

「さあ、邸に上がろうか」

 メキガテルは階段を指し示して言った。

「ええ」

 レーアは感慨に耽る間もなく頷いた。

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