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第七十六章 その一 アイデアル攻略作戦

 パルチザン隊総隊長であり、作戦指揮官でもあったメキガテル・ドラコンがレーア達の前に姿を見せた。彼は意図的に姿をくらまし、生死不明の状態を利用して移動していた。

「あの時は、本当に死んだと思ったよ」

 メキガテルはカラスムス・リリアスとレーアを挟む形でボバーバギーに乗り込んで言った。部隊はゆっくりと前進を再開したが、メキガテルの指示によってルートを変更し、遠回りでアイデアルに向かい始めた。

「爆風で吹き飛ばされて倒れたところが車両の修理場だったのが幸いして、俺は剥がれた鉄板の間に開いた穴に落ちて、熱と煙から逃れられたんだ」

 レーアは赤い目を擦りながらメキガテルの話を聞いている。メキガテルはレーアの肩を優しく抱きしめて、

「気を失ってしまった俺は、皆の呼ぶ声も聞こえず、返事をする事ができなかった。意識を取り戻して目を開けると、すでに外は夜で、ほとんどの者が捜索を打ち切り、僅かな人間が探しているだけだった」

「その時に出て来れば良かったのに!」

 レーアが口を尖らせてメキガテルを睨んだ。メキガテルは苦笑いして、

「そう思ったんだが、このまま生死不明の方が活動しやすいとも思ったんだよ」

 レーアはまだ不満そうな顔にメキガテルを見ていたが、リリアスは、

「さすが策士だな。敵を欺くにはまず味方から、か」

 感心したように頷いた。メキガテルはリリアスを見て、

「ああ。ごく一部にだけは知らせたかったんだが、とにかく何もない状態だったので、それもできなかった。すまない、レーア」

 レーアに視線を移す。レーアはメキガテルの顔が近くなったので俯いてしまった。

「そ、それなら仕方ないかな」

 目を潤ませながらも応じた。メキガテルは微笑んで、

「その修理場の穴から通路が延びていて、俺はそれを辿って行った。するとその通路は町の地下道に通じていた」

 リリアスが眉を吊り上げ、

「地下道?」

「ああ。どうやら、基地が攻撃された時のために防空壕を造ってあったようだ。そこから町に逃げられるようにな」

 メキガテルの言葉にレーアが顔を上げた。

「そこからはどうしたの?」

 メキガテルは再びレーアに視線を戻し、

「緊急時用に俺はある程度の貨幣は持ち歩いていたので、タクシーを拾って通信ができる場所を探した。夜だったのが幸いして、運転手も町の連中も、俺がパルチザンだとは気づかなかったよ」

 メキガテルの大胆さにレーアとリリアスは思わず顔を見合わせてしまった。

「俺は戦火が拡大するのを恐れて撤収した会社のビルを見つけて侵入し、ある人に連絡を取った」

 メキガテルがそう言った時、レーアがハッとした。

「マーグソンさんね?」

「ああ。かつての救国の英雄であるリトアム・マーグソンさんに連絡を取って、どこかで落ち合う約束をした」

 メキガテルはレーアの言葉に少しだけ目を見開いたが、話を続けた。

「だから、マーグソンさんはフローダ半島にいたのね」

 レーアは納得がいった顔で頷いた。メキガテルは、

「そういう事だ。それで、さっき、マーグソンさんともう一度会ったところだ。あのまま進むと、帝国軍が待ち構えていると教えてもらったのさ」

「マーグソンさんは今どこなの?」

 レーアはケベック地方区で彼の強さを見ているので、無事なのはわかっていたが、彼が何をしようとしているのか気になっていた。

「アイデアルのどこかにいる。マーグソンさんはザンバースともう一度会うといっていた」

 メキガテルは前を向いたままで答えた。レーアはビクッとして、

「パパと?」

 メキガテルはフッと笑って、

「心配するな、レーア。マーグソンさんはザンバースを殺しに行くんじゃないよ。話をしたいと言っていたんだ」

 そう言ってから運転手に、

「停めてくれ」

 部隊はそれに合わせて進軍を停止した。

「こちらのルートには敵はいないはずだ。このまま進めばナスカートの部隊と合流できるはず。ザンバースのところにはそれから向かう」

 メキガテルはレーアを促してバギーを降りた。リリアスがキョトンとして、

「お前はどうするんだ?」

「レーアをザンバースの邸まで連れて行く。お前は部隊を指揮してくれ」

 メキガテルの言葉にレーアが驚いて彼を見上げた。

「どうして私の家に行くの?」

「あそこから元の連邦ビルまでは抜け道がある。そこを通って行くのさ」

 メキガテルの話は驚きの連続で、レーアは呆気に取られた。

「ナスカートは知っているのか?」

 リリアスが尋ねた。メキガテルは振り返って彼を見ると、

「ああ。あいつには先に連絡を取った。マリリアも元気そうだったよ、レーア」

 そう言った時、レーアの軽めのストレートがメキガテルの腹筋を叩いた。

「マリリアさんと先に話したの!?」

 先程より目が吊り上がり、ムッとしていた。メキガテルはバツが悪そうに頭を掻き、

「話しちゃいないよ。ナスカートと喋っている時、彼女が泣いている声が聞こえただけだよ」

 レーアは口は尖らせたままだったが、

「そ、それならいいけど……」

 しかし、納得しかねる顔だ。


 一方、そのナスカート達も、メキガテルに指示されたルートを進んでいた。彼は隣で泣いているマリリアを見て、

(そんなに好きなのか、メックの事が……)

 少しだけショックを受けていた。そのせいか、泣きそうだった自分がどこかに行ってしまった。

「とにかく、メックが無事だったのは良かった。これでパルチザン全体の士気も上がる」

 ナスカートはマリリアを慰めるつもりで言ったのだが、彼女は泣きやまなかった。

(メック、無事で良かった……)

 彼女の知っている抜け道すら罠の可能性があるとメキガテルが指摘した事も嬉しかった。

(私を心配してくれている)

 マリリアはそう思う事にした。メキガテルの気持ちがレーアにあり、自分の事はほんの僅かも思ってくれていないとしても、気にかけてもらえていると思うだけで気持ちが落ち着いた。

(一目だけでも。もう一度メックに会いたい)

 マリリアは涙を拭いながら願った。その時、通信士が、

「南米基地のザラリンド・カメリスさんから入電です。アトランティックエクスプレスが襲撃されました」

 その報告にナスカートは仰天した。マリリアはアトランティックエクスプレスは中止されたと思っているので、何故そんな事をわざわざ連絡して来たのかわからない。

「どういう事だ?」

 ナスカートは通信士に向き直って尋ねた。通信士は機器を操作しながら、

「詳しい状況はまだわからないようですが、帝国軍が進軍して来て、たちまち制圧されてしまったようです」

「そいつはまずいな」

 ナスカートは歯軋りして言った。


 レーア達のところにも、海底超特急の件は伝わっていた。

「アトランティックエクスプレスは、クラリアの家までつながっているのよ。誰が何のためにそんな事を?」

 レーアの問いかけにメキガテルは、

「恐らくゲーマインハフトだ。奴はザンバースの地位を狙っていると噂されている。もしそうなら、一気にアイデアルの中心まで労せずに来られるという事だな」

 レーアはその言葉に鼓動が速まるのを感じた。

(パパが危ないという事?)

「とにかく急ごう。カラス、後は頼んだぞ」

 メキガテルはリリアスに告げると、レーアを追い立てるように走り出した。


 ザンバースはもう一度医師団の治療を受け、椅子に沈み込んでいた。医師団は手術を勧めたが、ザンバースは、

「命が惜しければ、もう二度と手術の事を口にするな」

 そう言って彼らをたじろがせた。

(このままだと今日明日中に感染症にかかってしまう、か)

 ザンバースは医師の一人の忠告を思い出していた。

(私の命など、これからの地球の未来を思えば、軽い。比べものにならん)

 彼は微かに笑みを浮かべて思った。

「早く来い、レーア。雌雄を決する時なのだ」

 彼は窓から射し込む日の光に目を細めて呟いた。

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