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第七十五章 その三 思わぬ再会

 真っ暗な海底トンネルを超高速で突き進むアトランティックエクスプレス。それに乗っているのは帝国軍東アジア州司令官のエメラズ・ゲーマインハフトである。彼は西アジアを探索していた部隊からの報告を受け、ケスミー財団が密かに建設を続けていた大西洋横断超特急を利用する事を思いついたのだ。ザンバースが衛星兵器を再稼働させている今、陸や海上は狙い撃ちされると踏んだのである。

(この超特急の存在はザンバースは知らないはず。気づかれずに奴の懐に飛び込む。仮に気づかれたとしても、援軍と偽ればすむ事)

 どこまでも狡猾なゲーマインハフトは、帝国乗っ取りに具体的に動き出した。

(生きていた頃は邪魔な存在だったが、今になってありがたく感じているよ、ミタルアム・ケスミー。あんたのお陰で私は遂に地球の支配者になれそうだからね)

 ゲーマインハフトはフッと笑い、シートに寄りかかった。

「終点はどこだ?」

 ゲーマインハフトは運転席を調べに行って戻って来た部下に尋ねた。部下は敬礼して、

「ケスミーの私邸の地下です。大帝府まで僅かな距離であります」

 ゲーマインハフトはニヤリとして、

「勝ったじゃないか、我々は。祝杯を上げたいくらいだね」

 しかし彼には、一つ気がかりな事があった。

(マルサス・アドムの船がすぐに戻り始めたのが気になる。奴は何か気づいたのか? いや、ザンバースの指示か?)

 狡猾ではあっても慎重でもあるゲーマインハフトは眉をひそめて腕組みし、考え込んだ。


 レーア達が出発した後の南米基地は、以前に増して帝国軍の攻撃に曝され、

「やっぱりレーアがいたから攻撃が少なかったのかな?」

 クラスメートであったアーミー・キャロルドが思わず呟いてしまうほどだった。

「その可能性は否定できないけど、それ以上に大きいのはメキガテルさんが消息を絶ったままだという事だよ」

 ザラリンド・カメリスがアーミーをたしなめるように言った。彼は物事を論理的に考える人間なので、レーアの存在の大きさも考慮に入れていたが、メキガテルが行方不明だという事実の方が影響が大きいと分析していた。

「そうは言っても、戦線は北上したのだから、今更ここを攻撃しても意味ないでしょ?」

 ステファミー・ラードキンスは比較的冷静に状況を分析していた。

「その通りです。彼らが未だにここを攻撃してくるのは、別に理由があるのだと思いますよ」

 カメリスはステファミーを見て言った。その時だった。彼のパソコンにエマージェンシーコールが表示された。

「何だ?」

 カメリスはびっくりしてキーボードを叩いた。ステファミーとアーミーもディスプレイを覗き込んだ。

「これは……」

 カメリスの眉間に深い皺ができた。

「どうしたんですか?」

 ステファミーはアーミーと顔を見合わせてから尋ねた。カメリスは二人を見て、

「アトランティックエクスプレスが襲撃されたようです」

「ええ!?」

 ステファミーとアーミーは目を見開いた。


 マルサス・アドムはまだ大西洋を西進していた。彼自身は、何故ゲーマインハフトが姿を消したのかはわかってはいない。只、彼を知る者として、その動きは気になってはいた。

(艦隊は出さないのかと思ったが、少ないながらも十隻を出港させた。これにはどんな意図があるんだ?)

 マルサスはアトランティックエクスプレスの存在は知っていたが、その工事が進められていたのは知らない。そのため、思い当たる事もないのだ。

(気に入らん。また他人に使われているだけではないか)

 マルサスはザンバースを倒すという気持ちは完全に失ったが、帝国にいるメリットがないのも感じていた。

(今、帝都に大帝の娘であるレーアが向かっていると聞いた)

 彼はレーアに興味がある訳ではないが、かつての恋人のマリリア・モダラーがレーアがいる南米基地に偽装投降し、そのまま本当に投降してしまったのは、レーアに何かを見出したからではないかと思っていた。マルサスは、パルチザン隊の総隊長であったメキガテル・ドラコンが南米基地にいたのも知っているが、まさかマリリアがそのメキガテルに惹かれて投降したとは夢にも思っていない。

(俺はこれからどうするべきだろうか?)

 いずれにしても、もう一度マリリアに会いたいと思っているマルサスである。


 ゲーマインハフトの差し金で大西洋を西進している艦に搭乗させられたカミリア・ストナーとドラコス・アフタル。アフタルはカミリアの命を救うため、カミリアはアフタルの命を救うために乗り込んだ。それをお互いに知らない。

(ゲーマインハフトは、恐らく、アトランティックエクスプレスを見つけてしまったんだ。奴は衛星兵器に狙われる事がない海底超特急を利用して、一気に北米大陸に行くつもりだ)

 カミリアは歯噛みしたいのを我慢していた。

(そこまでわかっているのに、どうする事もできないなんて……。何とかならないものか?)

 カミリアは打開策を見出そうとあちこちに目だけを動かしていた。そんなカミリアをゲーマインハフトの陵辱で正気を失ってしまったと思い込んでいるアフタルは、カミリアがしきりに目を動かしている事に気づいたが、それがどうしてなのかはわからなかった。

(生き地獄を体験した彼女が自殺をしなかったのは良かった。彼女だけでも助かる方法はないものだろうか?)

 彼は衛星兵器が撃ち込まれない事を願っていた。

(私はもういつ死んでも構わないが、カミリア君はまだこれからの地球を担っていくべき存在だ。衛星兵器だけは免れたい)

 彼は目を閉じてまた祈った。


 ザンバースは科学局のエッケリート・ラルカスに連絡を取っていた。

「大帝、お顔の色が優れませんが、お疲れですか?」

 ラルカスがザンバースを気遣い、尋ねた。ザンバースはテレビ電話の受話器をギュッと握りしめ、

「大丈夫だ。光の加減だろう。それより、キラーサテライトの攻撃目標の座標を送る。私が指示をしたらそこを撃たせろ」

 ラルカスは眉をひそめた。

「攻撃目標の座標、でありますか?」

 ラルカスは隣に立っているヨルム・ケストンと顔を見合わせた。ザンバースは目を細めて、

「そうだ。反乱軍よりも優先して葬るべき存在がそこに現れる」

「反乱軍よりも優先して葬るべき存在?」

 ラルカスとケストンには謎めいた言葉で、意味がわからない。

「それ以外は精密に座標を固定する事なく撃てばいい。反乱軍は威嚇射撃で充分だ」

「は!」

 ザンバースはそれだけ伝えると受話器を置き、椅子に身を沈めて目を瞑った。

(全て残さない。全て消し去る)

 ザンバースは目を瞑ると見えるようになってしまった亡き妻であるミリアの悲しそうな顔を拒むように強く瞼を閉じた。

(ミリア、まだしばらくそちらにはいけない。もう少し待ってくれ)

 ザンバースは自分を連れに来たと思えるミリアに対してそう願った。


 レーア達はアイデアルの町並みが見える位置まで来ていた。帝国軍との小競り合いを繰り返しつつのゆっくりとした進軍であったが、確実に目標に近づいていた。帝国軍がかつての勢いを失ったのは確かであったが、それにしても反撃が少な過ぎた。罠かも知れないと思ったりもしたほどだ。

「順調過ぎて怖いですね」

 シートから立ち上がったレーアが周囲を見渡しながら、隣のカラスムス・リリアスに言った。リリアスはそれに頷き、

「ええ。先発隊も敵との遭遇がアイデアルに近づくにつれて少なくなって来ていると報告しいます。何だか不気味ですよ」

「そうですね」

 レーアは座りながら応じた。その時、幹線道路の脇道から一台のホバーバギーが走り出て来た。

「む?」

 リリアスがすぐに気づき、運転手に速度を落とさせる。

「武器は持っていないようだが、あれは紛れもなく帝国の車両だ。一台で何の真似だ?」

 リリアスが眉をひそめる中、レーアが、

「ああ!」

 そう叫ぶと、いきなり走っているホバーバギーから飛び降りて帝国軍の車両に向かって走り出した。

「レーアさん、危ない!」

 リリアスも慌てて飛び降り、レーアを追った。すると帝国軍の車両が停止し、乗っていた男が降りた。リリアスはその男の体格を見て、思わず泣きそうになった。

「まさか……」

 レーアは男に抱きついた。

「バカ、生きていたのなら、どうして知らせてくれなかったのよ! いっぱい、いっぱい泣いたんだから!」

 そう言って男の厚い胸板を何度も叩いた。

「すまない、レーア。知らせたかったんだが、なかなかそうもいかなくてな」

 男はレーアを押し戻して苦笑いして言った。その男の名はメキガテル・ドラコン。カリブ海のジャマイ島で爆発に巻き込まれて死んだはずのパルチザン隊総隊長であった。

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